ここから本文です

「おらが町」の信用金庫がFinTechで成長するには?

ITmedia エンタープライズ 9/30(金) 8:25配信

 今月(2016年9月)、筆者は信用金庫の職員を対象にしたセミナーで講演した。内容は、「信用金庫における情報セキュリティマネジメントの取組みについて」だが、その中の一つの大きなキーワードとしてFinTechを取り上げたが、その理由は世の中が大きく変わる可能性を持つFinTechになかなか関心を示していただけない信用金庫が多いからである。

【その他の画像】

●座して死を待つ?

 前回の記事でも触れたように、米国では財務省の高官が「金融業は絶滅危惧種」と発言してマスコミが騒ぎ立てた。筆者はそこまでは酷くはないと思うだが、マスコミの一部は「既存銀行の約92%が10年以内に消滅する」という。

 それでも日本の信用金庫などでは、経営層を除いてほとんど話題にも上らない。その状況を次の寓話で例えてみたい。

大きな池がある。そこに住む魚たちが全力で1日泳いでも端にたどり着けないほどだ。そこにハスが生えてきた。毎日2倍のペースで増えていく。

ある時、一部の心配性の魚が言った。「もし池の全てをハスが覆えば日光が届かず、死んでしまう」と。しかし、多くは巨大な池に「100年後も平気なはず」と考えた。

(実際の面積を計測すると1000千万分の1ほどしかなかった)

ハスは成長を続け、1つ目が生えてから23日後には巨大な池の半分程度を覆ってしまった。さすがに心配した魚たちは、「明日になったら対策しよう」と考えた。

その翌日、ハスは池の全てを覆い、魚たちは全滅した。

 信用金庫をはじめとする中小金融機関の多くは、まさにこの寓話にあるような状況の一歩手前になりつつあるFinTechの現実を直視できないでいる。目前にダイヤモンドの原石が転がっているのに分析をせず、それを単なる「石ころ」にしか見ない。それどころか、邪魔者扱いしたい様子も見え隠れしている。

 逆に、敏感なアンテナを張り巡らすメガバンクやネット専用銀行の多くは、必死になってFinTechのITベンチャーや社員10人にも満たないようなスタートアップ企業に足しげく通い、「一緒に協業しませんか? 資金ならいくらでも出しますよ」と口説き落としているのが現状だ。

 信用金庫の多くは、マイナス金利だけではない日銀のただならぬ動きを静観し、「自分たちには関係ない」「資金がない」「いざとなれば国が助けてくれる」と、池の魚たちのように現実を眺めているところが多い。ある信金の理事長の「吸収されればいい」という発言を聞いた時は、さすがに開いた口がふさがらなかった。経営そのものを放棄しているに等しい発言を簡単に口にするのは何とも悲しい。なにより、一生懸命頑張っている職員に対して申し訳ないと考えてしまう。

 多少言い過ぎかもしれないが、日本全国にそういう場面が多々あるのではないだろうか。一介の情報セキュリティの専門家が考えることではないと思うが、そこまで考えてしまうのは性(さが)なのかもしれない。

●信用金庫に奮起してほしいこと

 さて、本論に戻りたい。「金融業は絶滅危惧種」と言われるほどの危機的な将来をもたらすかもしれないFinTechだが、これを逆手にとるべきではないだろうか。「うちは信用金庫だから……」という消極的な姿勢は捨ててほしい。ビジネスチャンスは目の前にごろごろと転がっている。

 これまで信用金庫は、地域に密着して活動してきたはずだ。既に年間30万もの人口が減少し、世界一ともいわれる高齢化の波が日本に押し寄せている。地方のシャッター街や限界集落を救うとした政府による「地域創生」の“錦の旗”が掲げられているいま、地域に根差す信用金庫には、解決策の1つに新しい技術を取り込むことでこれらの課題で取り組むことが求められているはずである。

 地方銀行も第二地方銀行もそれぞれの役割があり、信用金庫には信用金庫にしかできないことがある。信用金庫は、地方銀行や第二地方銀行では苦手な分野をよく研究し、地域の特性に応じたオリジナルであり、エレガントな答えを期待したいところだ。

 筆者は、昔からセミナーで「無知は罪悪」と話してきた。知識、アイデア、論理、そして創造力で目の前の「単なる石」を磨けば、光るダイヤモンドになる。FinTechだけでなく、IoTやビッグデータ、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、AI(人工知能)、クラウドと、実にさまざまなテクノロジーの事象が信用金庫の目の前にある。アイデア次第で、それらの組み合わせが無限に広がり、結果として「ドラスティックな収益向上」「限界集落、シャッター街の解消を併せた地域創生」が可能になるはずだ。

 ただし、この主体は地域に住む「お客様」であるべきだ。目の前の技術に喜ぶのは、技術者としては合格だが、ビジネスとしては失格である。実際の店舗利用を好む「お客様」は一定の割合(特に富裕層が多い60代以上の世帯)で存在する。技術ばかりに走り、業界新聞の1面に「〇〇システムを構築!」などと祭り上げられて、こうした「お客様」を置き去りにしてしまうのではいけない。

 最も効果が高いのは、従業員教育である。FinTechもその技術を十分に理解できる専任者を1人だけでもぜひ養成してほしい。チーム(技術は専任1人で十分!)が徹底的に現在の環境を分析し、信用金庫の力と地場産業の魅力の全体を包括して、その強みを具現化していける独自の戦略を策定すべきだ。他の金融機関との競争の中で、酒屋の御用聞きのように「リアルな接客を大切にする信用金庫」という特色をあえて打ち出すことも一手になるだろう。

 ただし、焦りは禁物である。ライバルの動向を注視しつつも、「慎重かつ大胆に」という基本姿勢を持ってほしい。前回の記事でも述べたように、FinTechは極めて有力な武器であるが、結局はあまたある手段の1つに過ぎない。主従を間違え、「FinTechに取り組んでいる」という誤った感覚に陥らないように気をつけていただきたい。

 これまでFinTechに踊らされている金融機関の残念な実情を紹介してきたが、「慎重かつ大胆に」FinTechを利用すれば、たくさんの新しい可能性を現実のものにしていけるはずである。そのチャンスは、地方銀行や第二地方銀行、信用金庫や信用組合、JAバンクにも平等にある。金融機関には「FinTechを活用する主役」として、ぜひ頑張っていただきたいというのが筆者の願いだ。

●萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

最終更新:9/30(金) 8:25

ITmedia エンタープライズ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

「水中に潜む本当の危機」
インドガリアルとキングコブラはインドの象徴ともいえる爬虫類ですが、水質汚汚濁のために存亡が危ぶまれています。環境保護者のロミュラスウィトカーがこの素晴らしい動物たちの貴重な映像をお見せして、彼らのそして私達の生活を支えている川の保全を訴えます。