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クラウドの普及でクレカ業界に新たなチャンス?

ITmedia エンタープライズ 9/30(金) 9:41配信

 「カードの限度額に引っ掛かって支払いができず、サービスがストップしそうな会社があるんです……! 何とかなりませんか?」

【画像:セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード。旧来からあったカードだが、ここ2~3年でユーザーが一気に増えている】

 クレディセゾン ネット事業部 データマーケティング部の磯部泰之さんの元には、AWS(Amazon Web Services)の社員やベンチャーキャピタルの投資家からこんな相談が、頻繁に寄せられる時期があった。

 Webやスマートフォンアプリなどでサービスを展開するITベンチャーは、固定費のかかるITインフラを持たず、クラウドを利用しているケースがほとんどだ。中でもAWSのシェアが高いが、利用料の支払い方法がクレジットカードか米国の口座への海外送金に限られる。

 そのため、特に社歴が浅く、法人名義でのクレジットカードを持つことができないような会社では、社長の個人名義のカードで支払いを行い、カードの限度額が問題になるケースが増えているのだという。時代の変化で新たなニーズが生まれている――磯部氏はこの問題に目を付けた。

●ビジネス用クレジットカードのニーズが高まる2つの理由

 「ベンチャーの方から、『法人用のカードを作りたいんだけど、銀行や他のカード会社に頼んでも、ベンチャーだと審査に通らないので作れない、何とかしてくれないか』と相談されることが、すごく増えてきたんです」(磯部さん)

 磯部さんは、ネット事業部の新規事業担当として、アライアンス先となるベンチャー企業と関わる中で、このような話を聞くことが増えたという。同氏によれば、立ち上げ期のベンチャーにおいて、2つの理由でビジネス用クレジットカードへのニーズが高まっている。

 1つはAWSや各種SaaS、Facebook広告の出稿など、海外のサービスの利用が増えたことだ。大企業であれば日本の代理店に支払う場合も多いが、小さな会社の場合はカードで直接支払いをするケースが多い。

 AWSをはじめとするクラウドは低コストで導入できると言っても、新しいゲームをリリースしたときなど、「予想以上のヒットで費用が膨らんで、限度額のせいで支払いができずにサービスが止まってしまったらどうしよう……」といった悩みを持っている会社が少なくないのだ。

 もう1つは、コンプライアンス意識の高まりだ。東証マザーズを始めとする新興市場の活性化によりIPOを意識する会社も多い。会計士の指導で会社の経理をきちんとしようとしたときに、いつまでも経営者個人のカードで経費の支払いをしているのは望ましくないと考える会社が増えてきている。

 「いわゆる法人カードを作ろうとすると、与信審査のために会社の登記簿のほかに2期分の決算内容の申告が必要です。大企業、あるいは中小企業でも既に成長した会社であれば良いのですが、クラウドサービスを使ってこれからいろいろなサービスをやっていこうという投資段階の会社は、当然赤字ですよね。従来通りの審査では、カードを発行できないという結論になってしまうんです」(磯部さん)

●黒字化前の企業でも作れるビジネス用カード

 そういうケースの“突破法”としてクレディセゾンが勧めているのが、「セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード」だ。法人向けクレジットカードではあるものの、法人ではなく、個人の審査で作ることができる。

 招待を受けなければ作れないアメックスの「プラチナカード」とほぼ同様のサービスに加えて、決済口座として法人名義の口座が指定できるスモールビジネス向けのカードで、企業向け会計ソフトを展開するベンチャー大手や、既に上場を果たしたデータ分析サービスを提供するベンチャーなども、かつては同じ課題を抱え、同カードを利用していたという。

 このカード自体は旧来からあったものだが、以前は同社の中でも注目度が高いとはいえない存在だった。ベンチャー向けのニーズに気付いた2年ほど前に、与信審査の方法を変え、会社の規模に合った限度額を設定できるようにし、記事冒頭のようなトラブルを回避できるようにしたのだ。

 「法人ではなく個人の審査ということで、コーポレートカードよりは作りやすいのですが、例えばその方が4~5年前は学生でクレジットカードの利用実績がなかったり、うっかり払い忘れていたりなどで、未払いの記録が残っていたというケースもあるんですね。これまでのルールだと、その時点でカードの発行が難しくなってしまうのですが、今だとそういう場合は個別に調整します。

 そして私がヒアリングし、会社の将来性を判断して『大丈夫だ』と太鼓判を押すんです。例えばAWSの支払いに必要という話であれば、サービスが成長している証拠ですから、分かりやすいですよね。それから、ベンチャーキャピタルから出資を受けているというような事実があれば、それは成長性や運営体制に“お墨付き”を得ているようなものなので判断の好材料となります。従来の審査よりも実情に合っているといえるでしょう」(磯部氏)

 今、ベンチャー企業から磯部氏のところへは、月に数十件レベルで相談があるそうだ。それぞれの企業に出向いて事業の状況を聞き、限度額も事業規模などを確認し、個別に審査しているというから、1枚のカードを発行するのに相当手間をかけていることになる。しかし、このカードにはそれだけの価値があるという。

 一般的な個人向けカードだと、年間利用額が平均で30万円程度だが、このカードは企業が成長すればそれだけ利用額が伸びていく。実際に限度額を数百万単位で設定するケースも多く、トップレベルのユーザーになると年間利用額は数億円に上るケースもある、ビジネスが続く限りカードを使うことになるので、稼働率も個人向けカードより圧倒的に高いのだ。

●クラウドの普及がクレジットカードビジネスを変える?

 クレディセゾンは、「セゾンカード」や「UCカード」といった、どちらかというと個人向けのカードの印象が強い。しかしこの1~2年は、全社で法人向けの営業に力を入れるようになった。

 「各社員それぞれが、知り合った方に対して『御社が抱える課題は何ですか? うちのサービスでこういうことができますよ』というお話をできるようにしているのです。私もこの文化がなかったら、ベンチャーの方々に相談されてもプラチナビジネスカードをご案内するという発想が出てこなかったかもしれないですね」(磯部氏)

 最近では、テック系ベンチャーが集まるイベントにブースを出してカードのPRをすることが、地方の支社でも増えているそうだ。まだ若いベンチャー企業と積極的に交わっていこうという姿勢が、新たなビジネスチャンスを掘り当てたといえる。

 ほとんどの人がクレジットカードを作っている昨今、個人向けのカードだけではクレジットカードビジネスは頭打ちになってしまう。同社全体におけるビジネス規模に比べればはまだ少ないものの、「セゾンプラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス・カード」の利用者は過去5年で5倍近く増えているという。クラウドの普及は、こんな業界にも大きな影響を及ぼしているのだ。

最終更新:9/30(金) 9:41

ITmedia エンタープライズ