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東京直下地震、 都心を囲んで焼野原、群集事故で圧死の危険も

ニュースソクラ 9/30(金) 12:00配信

「帰宅しない」などを確認、備えを万全に

 9月は防災月間。関東大震災で東京や神奈川が火の海になり10万人以上が亡くなった1923年9月から93年になる。気になる「次の」首都直下地震(注1)について、知っておきたい「良い知らせ」と「悪い知らせ」がある。

 では悪い方から。現行の想定を超える大震災になる可能性がある。

 政府の中央防災会議は、都心南部が震源となるマグニチュード(M)7級の地震で、都心の大部分が震度6強以上の揺れとなると予測する。都心部をドーナツ状に囲むように多数分布している老朽木造住宅や老朽ビルを中心に約18万棟が全壊し、約500~2000か所で同時出火する。環状6号~8号線沿線などに広がる木造住宅密集地域を中心に大規模な延焼が広がり、約4万から41万棟が焼失。火災旋風が発生するおそれもある。最悪の場合は2万3千人が亡くなり、その約7割は火災、約3割は建物倒壊によると予測している(注2)。

 ただし、この数値は、これまでの災害をもとに計算機でシミュレーションした結果にすぎない。人口が極度に集中した東京では、まだ上積みされる要因がある。

 関東大震災当時に比べて、東京23区の人口は3倍以上に増えている。周辺のベッドタウンから都心に通勤通学する人も多く、地震で交通機関がマヒすれば517万人が帰宅困難になると予測されている(注3)。

 廣井悠・東京大学准教授らが今年4月に発表したシミュレーションによれば、帰宅困難者が一斉に帰宅を始めれば、発災から1時間後には1平方メートルに6人以上の密度なるエリアが中央区や渋谷区などあちこちで発生する(注4)。群衆事故が起きて圧死する人が出かねない密度だ。

 さらに郊外に向かうには都心を取り囲む木造密集地域を通過しなければならない。火災危険度が最も高い地域なので延焼に巻き込まれるおそれがある。「東日本大震災の時は歩いて帰れたから大丈夫」と油断していると危ない。

 帰宅困難者の集団が渋滞を引き起こし、消防車の活動や地域住民の避難を遅らせ、震災を拡大させるおそれもある。実際に東日本大震災の当日、道路渋滞が原因で救急車の到着時間は前年平均の2倍以上かかっている。

 一方、少し安心できそうな情報もある。都心直下で地震が起きる確率はそれほど高くない。

 「30年以内に70%」という数字が喧伝されているが、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が発表しているこの数値は、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県など東京を中心とする南北東西とも約150キロにわたる領域のどこかで、M7級(M6.7~M7.3)の地震が起こる確率である(注5:地図の太い赤線の内側)。首都直下というよりは、むしろ南関東地震というべき範囲における発生確率なので、最悪の被害をもたらす都心直下の地震が起きる確率は70%よりずっと低い。

 ただし油断は禁物だ。最悪の都心直下でなく周縁部の地震でも、日本の人口の約3割もが集中する首都圏では、影響を受ける人は多い。

 中央防災会議は2008年に「帰宅困難者は原則として帰宅させない」に方針転換したが、いまだ十分知られてない。東京都が3年前に施行した帰宅困難者対策条例は企業に対して「全従業員の3日分の備蓄」を努力義務としているが、達成した企業は約半数で、さらに外部の帰宅困難者向けの「10%余分の備蓄」を持つ企業は17%にすぎない(注6)。

 次の地震で何が起きるか、どう対処するのか、何を備えておく必要があるか。自分が巻き込まれる事態を想定し、着実に備えておく必要がある。

●外出先で大地震に遭遇したら
◯原則は「帰らない」
安全が確保できる場所で待つ。地震後3日間は会社や学校、一時滞在施設で待機するつもりで。
◯家族の安否を確認する手段の確保
家族と連絡がつけば職場や外出先から無理して帰らなくてもいい場合が多い。災害用伝言板やSNSなど、多様な連絡手段の確保を。事前に家族と打ち合わせ、定期的に訓練しておくことが必要。
◯駅に近づかない
情報を求めて駅には人が集中しやすいが、駅でも情報は得られないことが多い。駅では群衆事故が起きやすいので、特に高齢者や子供連れは近づかない。
◯「お客さん」にならない
外出中に被災して民間企業などが開設する一時滞在施設に受け入れてもらった場合は、お客さん扱いを期待しない。企業側も被災しており、人手や物資は足りない。受け付けなどを手伝うつもりで。
(廣井悠・東大准教授への取材から)

注1:「首都直下地震」は、首都直下地震対策特別措置法で、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、茨城県の一部)及びその周辺の地域における大規模な地震と定義されている。

注2:中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ最終報告 2013年12月
http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/

注3:東京都 首都直下地震等における東京の被害想定 2012年4月
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/taisaku/1000902/1000401.html

注4:廣井悠,大森高樹,新海仁:大都市避難シミュレーションの構築と混雑危険度の提案,日本地震工学会論文集第16巻第5号,pp.111-126,2016年4月

注5:地震調査研究推進本部 相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)について 
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/sagami_2.pdf

注6:東京商工会議所 会員企業の防災対策に関するアンケート 2016年5月
https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=80690

■添田 孝史(サイエンスライター 元朝日新聞記者)
1964年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。サイエンスライター。1990年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。97年から原発と震災についての取材を続ける。2011年に退社、以降フリーランス。東電福島原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当した。

●地図について:
 赤い太線で囲まれた領域内で、今後30年以内に70%程度の確率でM7級の地震が発生すると地震本部は予測している。◯印はこれまでに起きたM7級の地震の発生場所を示している。(地図は地震本部の資料から)

 「30年以内に70%」は、1703年から1923年までの220年間に9回(平均27・5年に1回)地震が発生したことから計算している。これらの地震のうち数千人以上の被害をもたらしたのは安政江戸地震(1855年、死者7千人以上)だけで、そのほかでは明治東京地震(1894年、死者31人)のように被害は比較的小さかった。

 一方、関東大震災を引き起こしたようなM8級は、地形に残る過去の地震の履歴などから180年から590年ほどの間隔で発生していると考えられている。前回の1923年から、まだ90年余りしか経過していないので、次のM8級の発生確率は、それほど高くないと地震本部は予測している。

最終更新:9/30(金) 12:00

ニュースソクラ