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創業109年、加須で手描きこいのぼりの店閉店 昭和天皇に献上も

埼玉新聞 9/30(金) 10:30配信

 こいのぼりのまち加須市にあって埼玉県内唯一の手描きこいのぼり作りで全国的に知られる「橋本弥喜智商店」(同市土手)が30日、閉店する。創業109年。3代目で県認定伝統工芸士の橋本隆さん(75)は全長100メートルのジャンボこいのぼりの製作を手掛け、技術の研さんに努めてきた。「こいのぼりに恋して作ってきたが、75歳を一つの区切りにした。技はジャンボこいのぼりに残した」と言い、ひとまずははけを置く。

■昭和天皇に献上

 橋本弥喜智商店は1908(明治41)年の創業。橋本さんの祖父で創業者の弥喜智さんは33(昭和8)年、現在の天皇陛下が誕生したとき、木綿製の手描きこいのぼりを制作。翌年、初節句の際に北埼鯉幟製造組合を通して昭和天皇に献上している。

 現代のこいのぼりはナイロン生地に印刷されるケースがほとんどだが、橋本さんはあえて木綿地に顔料で色付けする手描きにこだわった。橋本さんは「100年後、200年後に博物館に堂々と展示されるものを目指した」と振り返る。

 こいのぼりの生産量日本一の同市の名物は何といってもジャンボこいのぼり。88年から同市大越の利根川河川敷で巨大クレーンを使って毎年5月、遊泳させている。現在のこいのぼりで4世。橋本さんは設計や技法について、1世から代々関わってきた。4世の重さは330キロという。

 ジャンボこいのぼり作りは加須青年会議所(JC)からの依頼だった。「泳ぐイメージをつかむために羽田空港に何度も通って大型旅客機を観察した」と橋本さん。目の直径だけでも10メートルあるこいのぼりの色塗りは、多くの一般市民に参加してもらった。1世の制作では延べ4千人、4世の制作では延べ3500人が参加したという。

■惜しむ声

 県指定の第1号伝統工芸モデル工場だった橋本弥喜智商店。橋本さんと、同じ県認定伝統工芸士の弟勝さん(73)が手描きこいのぼりの制作に当たってきた。

 橋本さんは23歳で手描きを始めた。50年以上、手描き一筋の毎日だった。「絵を描けるようになるまでには、最低10年はかかる。勢いのある、かすれやぼかしが難しい」と言う。金や銀の色を使った豪華絢爛(けんらん)な色彩で、描いては乾かす作業を繰り返す。はけ一筆一筆で丹精して描いていく。12の色彩を縦横に使い、18もの工程を費やしてきた。

 商店の店内と作業所は既に片付けられている。閉店は市民をはじめ多くのファンに惜しまれている。

 大橋良一市長(69)もその一人。「加須市と言えばこいのぼり、こいのぼりと言えばまず橋本さんだった。幕を引くことは市にとって大きな痛手だ」。ジャンボこいのぼり1世の時に加須JCの制作実行委員長だった中村賢司さん(69)は「ジャンボこいのぼりの出発点は橋本さんの設計図。こいのぼり会館のようなものを作って実績を残してほしい」と残念がる。

 手描きこいのぼりは市役所のほか、市を通じて市内の学校などにすでに寄贈されている。橋本さんは「店は終えたが、何らかの形で技法を伝承できればと思っている」と話した。

最終更新:9/30(金) 10:30

埼玉新聞