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9・10スタメンは全員ドラフト獲得選手…広島優勝影のヒーローは「スカウト」

デイリースポーツ 10/1(土) 6:04配信

 リーグ優勝を決めた9月10日の巨人戦。広島のスタメンは全てドラフトで獲得した選手だった。FA制度で補強する球団に対抗しながら、自前で育成した選手で手にした勲章。松田元オーナー(65)、鈴木清明球団本部長(62)が「スカウトの力」を要因に挙げる。25年ぶりのリーグ制覇をいかにして成し得たのか、縁の下を支える男たちにスポットを当てたい。

 歴史的な歓喜の瞬間は、ホテルの一室で見届けた。次々に電話が鳴る。アマチュア関係者からの祝福に「これからもお願いします」-を添える。気の休まる間もない、次なる原石発掘の作業。真っ黒に日焼けしたスカウト陣の尽力なくして、悲願は成し得なかった。

 広島のドラフト戦略は一貫していた。1位指名は即戦力で戦える投手が中心。2位以下で野手を中心に、育成に主眼を置く。重視するのは肩の強さと走力、そして性格だった。外部からの「補強」ではなく、ドラフトでの「補充」。選手を財産と考え、スカウトには野球能力だけでなく、性格把握まで求めた。

 田村恵スカウト(40)は松山や安部、今村、大瀬良、中崎、戸田ら多くの主力選手獲得に尽力した。その田村スカウトが重きを置いてきたのは「伸びしろ」。高校生なら6、7年後、大学生は2、3年後に焦点を置き、「選手が24、25歳になった時の成長曲線を描く」と言う。中崎はドラフト6位で獲得。日南学園時代の球速は135キロ前後だった。

 「契約前にご両親には『数年後に必ず150キロ出る』と伝えた。笑われていましたけどね。性格は誰もが認めるところ。中崎には強さとしなやかさがあった」

 入団6年目の今季、最速153キロを記録した。無名の18歳は予測通りに才能を開花。積み上げた34のセーブなくして、優勝は果たせなかった。田村スカウトは言う。「キツい練習でも耐えられるかどうか。まず投げ方やフォームを見る。その成長速度に関わってくるのが性格。安部、松山にしてもそう。下積みで流した汗や涙は裏切らない」。広島伝統の猛練習に耐えられる素材か、どうか。「大瀬良も中崎も戸田も、もっと成長できる。現状で満足してもらっては困る」と背中を押す。

 松本有史スカウト(39)は、岩本に菊池、堂林らを獲得した。菊池、堂林は2位指名。菊池は中央球界で無名で、球団内にも疑問視する声はあった。「走攻守の3拍子じゃない。肩も含めてキクには4拍子ある、と。入れば活躍する自信もあった」。球団が個々のスカウトの声に耳を傾ける度量も大きかった。

 松本スカウトが重視したのは野球センス。「捕球の柔らかさや、スナップなどはセンス。その上で同じような選手なら、足の速い選手を獲ろうと」。菊池も鈴木も獲得する上で、比較選手より足が速かった。肩が強かった。菊池は中京学院大1年から、堂林は中京大中京1年から学校に通い詰めた。「惚(ほ)れたら惚れ抜け」-は、球団スカウトの合言葉だ。

 アマチュアでは無名だった男が12球団No.1の守備力を持つ選手にまで、その才能を開花させた。田村スカウトが獲得した大瀬良らも同様。ドラフトで希望枠制度が撤廃された今も足を使い、選手に姿を見せることで信頼関係を築く。「カープに入りたいな」と思わせることが、後の活躍につながると信じている。

 苑田聡彦スカウト統括部長(71)は言う。「今でも他球団のスカウトと、選手の評価は絶対にしない。自分の目をどれだけ信じるか」。だからこそ足を使う。「いいも、悪いも全てを見る。野球は一つの球を追っ掛けるスポーツ。思いやりのない人間が、この世界で生きてはいけない」。確かな眼力と、足を使い続ける努力。情報化社会でも不変の強さがここにある。選手の努力と同じように、スカウトが流した汗と涙も、裏切らなかった。

最終更新:10/1(土) 8:12

デイリースポーツ