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いまこそ検証すべき稀代の政治家・田中角栄が分かる書籍5選

ZUU online 10/1(土) 19:40配信

「コンピュータ付きブルドーザー」、「今太閤」、「闇将軍」、「キング・メーカー」……。毀誉褒貶さまざまに形容された政治家・田中角栄(1918年‐93年)。2015年末から2016年にかけて相次いで関連本が出版され、今にわかに「角栄ブーム」にわいている。

なぜいま角栄なのだろうか。5冊の本の内容を見ながら考えてみよう(本文敬称略。文中価格は紙版、税込み)。

■反田中の急先鋒が敢えて描いたモノローグ

『天才』(石原慎太郎著、幻冬舎、1512円)

自らが過去を振り返りつつ独白する形式で、天才政治家・角栄の生涯を描いた作品。吃音に悩んだ幼少期から、土建会社勤務、出征を経て政治家として上りつめるようすが平易な文章でテンポよく語られ、当時を知る者はもちろん若者にも人気のベスト・セラーだ。

政治闘争についてはもちろんのこと、角栄の異性関係や家族への想いにもページが割かれているのが『天才』の特徴。とくに脳梗塞で倒れてから亡くなるまでの心象風景では、あたかも石原慎太郎に角栄が憑依したかのように、愛人やその子らへの思いが描かれる。

もともと角栄の金権政治批判の急先鋒だった石原だが、本書の後書きでは、現代の日本社会が享受する文化・文明の要因の多くを角栄が造成したと称賛。角栄の人生がこの国にとってかけがえのないものだったことを知ることは「決して意味のないことではありはしまい」と本書を結んでいる。

■気鋭の政治学者が探る現代保守政治の源流と功罪

『田中角栄 昭和の光と闇』(服部龍二著、講談社、994円)

日本政治外交史の研究者が、厖大な資料を引用しつつ田中政治の実像に迫った力作。幼年期から失意の晩年までの足跡を丹念に追うことで、評伝の域を超えて現代政治の源流をたどる研究書となっており、内容・ボリュームともに近年の角栄本の白眉と言える。

著者は、角栄が日中国交正常化を断行し、日ソ首脳会談でソ連に領土問題の存在を認めさせたことを画期的と評価する一方で、「生きていれば日本を善導したのでは」との声には疑念を示す。角栄は通産大臣時代に日米繊維問題を解決に導くも、業界救済策では莫大な損失補填をして、バラマキ予算の走りとなった。また総理時代には『日本列島改造論』に基づいて超大型予算を組み、インフレを招いた。高度成長期には向いても現在のような財政難の状況下では不向き、よくても未知数ではないかと分析する。

■ロッキード事件が冤罪であることを論証

『冤罪 田中角栄とロッキード事件の真相』(石井一著、産経新聞出版、1512円

角栄の側近の一人で、自治相時代の2009年に「郵便不正事件」に巻き込まれた著者が、自身の経験を踏まえつつ、ロッキード事件は角栄を陥れるために仕組まれた罠であり、冤罪であったと主張する話題作である。

ロッキード事件は、米国の航空機製造会社のロッキード社が、世界各国で自社の飛行機を導入するよう贈賄を含めた工作を行なった大規模汚職事件。角栄は、全日空の新旅客機導入に絡んで5億円を受け取ったとして逮捕された。

しかしこの事件の真相について石井は、角栄を危険視したアメリカ政府とCIA、三木武夫首相や稲葉修法相などの怨念と思惑・意向が一致した結果として起こった「陰謀」であると断言している。角栄を助けるために自ら渡米して調査した著者ならではの記述には信憑性が感じられ、事件の構図が明確にわかる好著である。

■お庭番・朝賀昭が語る田中の真実

『角栄の「遺言」 「田中軍団」最後の秘書 朝賀昭』(中澤雄大著、講談社、950円)

高校時代に田中と出会い、20年以上にわたって秘書として角栄を身近に見てきた朝賀昭。本書は彼に取材した著者が朝賀の一人称で書き下ろした田中伝である。キング・メーカーとして君臨した時代、事務所に来た角栄の血圧を測るのは朝賀の役目。ロッキード事件で東京地検特捜部が捜査に来た際に、田中事務所のカギを開けたのも朝賀である。

角栄が大好きだったゴルフや愛飲したオールド・パーにまつわる話など、秘書ならではの逸話が多い。また、秘書であり金庫番、パートナーとして角栄の子を生み育てた「越山会の女王」佐藤昭(昭子)とその子・敦子と角栄とのエピソードも豊富に語られ、等身大の人間・田中角栄の実像がうかがえる一作である。

■40年に及ぶ角栄研究の総決算

『大宰相 田中角栄』(田原総一朗著、講談社、1080円)

いまやジャーナリストとして著名な田原総一朗は、1976年の『中央公論』に「アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄」と題したレポートを書くことでそのキャリアをスタートさせた。田原にとって田中角栄とロッキード裁判の研究は、ライフワークとも言える。

本書は冒頭から3分の1をロッキード事件の検証に、残りを「田中政治」の誕生とその呪縛の分析にあてる。検事側、弁護士団側へのインタビューや検事調書の内容からロッキード事件の真相を探るなかで田原は、賄賂の金額や受け取り場所など検察が作ったストーリーは随所で破綻しており、「出来の悪い虚構」と一刀両断。角栄は無罪だったと述べている。

巻末には石原慎太郎と田原との対談も収録。石原は2016年の角栄ブームを「ノスタルジーじゃないですか。日本の政治が狭くなってきたからね」と評する一方で、角栄の「構想力」を高く評価する発言をしている。

角栄は1980年代に「通信は光ファイバーになり、宇宙衛星や放送衛星が上がれば、世界の新聞はボタン一つで読めるようになる」と発言している。こうしてネットで記事を見ているいま、その先見性には驚かされるばかりだが、田中政治が多くの禍根を生んだのも事実だ。列島改造論は土地の高騰とバブル景気を招き、失われた10年を生んだ。田中が成立させた電源三法は原子力発電所の建設を推進し、それは東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故にもつながっている。

田中角栄という人物と政治の功罪は、まさに現在に生きる我々が再考すべきものではないだろうか。今回紹介した5冊を含めたくさんの関連本が出版されている。たとえば角栄の政策秘書を20年以上務めた故・早坂茂三氏(1930年-2004)の書籍もある。政治家・田中角栄を評価していないという人も、さらには知らなかったという人も、いずれかの書籍を是非一読してみていただきたい。(ZUU online 編集部)

最終更新:10/1(土) 19:40

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