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【インタビュー】世界が認めるピアニスト反田恭平「僕は基本的に適当な人間ですが、ピアノの演奏だけは別」

BARKS 10/2(日) 8:18配信

反田恭平、22歳。2015年のアルバム『リスト』での素晴らしい快演で、クラシック・ピアノの世界に旋風を巻き起こした驚異の超新星。そのプロフィールには若いながらも歴史があり、破天荒なピアノ少年時代、コンクール荒らしだった中学時代、古典派の勉強に没頭した高校時代、ホロヴィッツが愛用したピアノとの出会い、ロシアのモスクワ音楽院に首席入学して今も勉強中と、興味深いエピソードは枚挙にいとまなし。コンサートを開催すればあっという間にチケットはソールドアウトする、クラシック界に久々に現れた若きスターは、どんな男なのか。その内面に迫るインタビューをお届けする。

◆反田恭平 画像

  ◆  ◆  ◆

■ 音楽って、人間(ヒト)ですから

── さっき、スタッフの方と話していたんですけどね。恭平さんは小さい頃からピアノの英才教育を受けてきたわけではなくて、好きに弾きまくるところから始まってる子なんですと。元からそうなんですか。好きなことしかやらない、楽しくないことはやらない性格とか。

反田恭平:そうですね(笑)。4歳の頃に初めてエレクトーンに触れたんですけど、子どもですから、すべてが新しい感覚で、何をやっても楽しいわけです。その気持ちが今もずっと残っているのかもしれない。本当に小さいときはサッカーを。サッカーはおむつをしているときからはじめたのですが、一人で弾くピアノの孤独さより、サッカーのほうが友達もできるし、集団で一つのことができるのでより面白くなって。何より、僕はフォワードとミッドフィルダーだったんで、点を取るのが楽しくて小学生のときはサッカーが一番でしたね。あらためて客観的に考えると、プロのサッカー選手になれたとは思わないし、はたまた勉強して進学校に入るという方向もあったかもしれないですけど、勉強机に座ると、必ず何かが目に入るんですよね。わからないことがあって辞書を引くと、言葉をつなげてしりとりを始めたり。

── あはは。

反田:最初に通ったヤマハの音楽教室でエレクトーンを弾いてた時も、ドミソ、レファラとか和音を当てましょうということをやってたんですけど、今でも記憶があって、ずっと横目で先生が弾く鍵盤を見てたんですよ。それで“ドミソ”って言ったら、先生が“この子は耳がいい”って。それで絶対音感を鍛えるという教室に通って、好きなように弾いてたんですよね。最初は2週間に1回とかのレッスンで、その後は週一回30分のレッスンに。そのうち20分間はお話みたいな感じでしたね。

── 共犯じゃないですか(笑)。

反田:今考えたら、5、6歳の僕にはすごく大人に感じたその先生も当時は若くて、たぶん大学を卒業してすぐだったと思うんですけど、大先生という感じでした。ピアノというより、先生に惹かれたのかもしれません。当時放送していた『天才テレビくんワイド』をよく観ていて、(お笑いタレントの)なすびが出ていたのですが、先生がそのなすびにそっくりだったんです。僕は、てっきりなすびがピアノを教えてくれるんだと思ってピアノ教室に通い続けました。4~5年間なすびが先生だって思ってました。でもある時、レッスンを受けて帰ってすぐに生放送になすびが出ていて、瞬間移動しない限りは出演が無理なので、なすびは「自分の先生じゃないんだ」と気がついた。そもそも母が“なすびだよ”って言っていたので。母に騙されましたね。

── まあまあ(笑)。そうでもしないとピアノ教室に行かないから。

反田:初めはお話ばかりしていたものの、その先生が“好きな曲を好きなように弾いてごらん”という先生だったので、どんどんピアノが好きになって。本当に感謝しています。その先生は今ではピアノをやめて、老人ホームで介護の仕事をしているようです。以前日本音楽コンクールで僕が優勝した時に、ファイナルの本選を見に来て下さったようですが、残念ながらお会いできませんでした。是非お会いしたいです!

── いい話ですね。

反田:まさか、ドラえもんやミッキーマウスの曲を弾いてた小さな子が、コンクールの本選で演奏したのですが、ラフマニノフのコンチェルトを弾くようになるとは思ってもなかったと思います。なすび先生がいた音楽教室では、好きな曲もやらせてもらったし、ピアノを弾くだけではなく、リトミックがあったり、みんなで大きな舞台で白雪姫や裸の王様などミュージカルやオペレッタまでいろんな音楽体験をしました。根本的に音楽を楽しむという教室に入ったのが僕にとってとても良かったのかなとすごく思います。自分の好きなようにショパンのワルツ、マズルカ、ノクターン、幻想即興曲、そしてエチュードを弾いて、もうプロだと思ってたんです。でも、中学生になり桐朋の音楽教室に入った時には、「なぜこんなに基礎ができてないんだ」とすごく怒られました。

── そこがターニング・ポイントですか。

反田:それから基礎を学びました。バッハのインベンションとシンフォニアをやり始めて、やっと終わったのが中学3年生の時。高校に入っても怒られ続けて、3年間は絶対にコンクールも受けさせないし、課題曲以外は全部古典派をやりますと言われていました。毎日が絶望的でつまらなかったですね。中学校3年生の時には、1年に5回以上のコンクールを受け、力試しをしていて面白いように入賞を果たしていた。それでやっと入学した憧れの音楽学校がこんなにも楽しくないのかって、反抗期も重なり、かなりぐれちゃいました(笑)。でもその中学、高校の先生が古典派の大事さと、基礎がしっかりしていないとピアノは弾けないということをていねいに教えて下さったお陰で、高校3年生の時に日本音楽コンクールで優勝でき、今があります。この約5年間のレッスンがなければこの賞をとることはできなかったかもしれませんし、ロシアへの留学もデビューもなかったかもしれません。結果的に僕はとても先生に恵まれてきたんだと思います。

── そういうことになりますね。

反田:今のロシアでのミハイル・ヴォスクレセンスキー先生もそうです。先生は現在80歳で、ロシアを代表する作曲家のショスタコービッチと仲が良かったですし、世界的ピアニストのホロヴィッツとも親交があったらしい。3年前に、実際自分が勉強し演奏している作曲家達が生きてたロシアに留学し、彼らの軌跡を肌で感じられる世界に飛び込んだので、すごく刺激的な毎日でした。留学当初はロシア語も話せないし、理解もできないし、無我夢中でしたが、今は生活にも言葉にも慣れやっと落ち着いてきました。刺激が少なくなった分ちょっと物足りないかな(笑)。

── そんな反田さんの2作目のCDは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。指揮者・バッティストーニとRAI国立交響楽団というイタリアのコンビで、録音場所もイタリアのトリノ。そもそも、ラフマニノフは昔から好きで弾いていたんですか。

反田:高校3年生の時のコンクールで初めて弾いたのが、ラフマニノフの3番のコンチェルトでしたが、意味がわからない曲だなとしか思わなかったんです(笑)。ロシア留学して、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲、2番のコンチェルト、ソナタ等のソロ曲も勉強しました。コンチェルトを先に勉強すると、ソロの取り組み方も変わってきますし、3番のコンチェルトの次に「パガニーニの主題による狂詩曲」を弾いたのは、自分の中ではラッキーだったのかもしれないです。2番のコンチェルトを先にやっていたら、あまり熱が入らなかったかもしれない。この2曲は同じメロディーが使われているんです。

── 今回の作品の2曲目に入っている「パガニーニの主題による狂詩曲」は、去年の9月、東京オペラシティでの演奏ですね。


反田:そうです。東京フィルハーモニー交響楽団さんの定期演奏会で、指揮はアンドレア・バッティストーニです。ホロヴィッツが弾いていたピアノ、ニューヨーク・スタインウェイCD75を使用しました。それから3か月後ぐらいの昨年の年末に、マリインスキー劇場(サンクトペテルブルク)でマリインスキーの管弦楽団と一緒に同じ曲を弾いたんですけど、オーケストラが違うだけでここまで音が変わるのかと。やっぱりロシアの作品は、ロシアの土地でロシアの指揮者がやるのがいいのかなと思うくらいとても印象が強かったですが、マエストロ バッティストーニはちょっと特別なので。彼は何人かわからない。宇宙人かもしれない(笑)。

── いちおうイタリア人ということになってますが(笑)。

反田:彼の分析力は素晴らしいですし、エモーションもすごく熱いし、哲学的なところもあるし、とても魅力が詰まった人間(ヒト)ですから。音楽って、人間(ヒト)ですから。

── その通りだと思います。

反田:僕は基本的に適当な人間ですけど、ピアノの演奏の時だけは別。真剣になってるんで(笑)。

■ 勉強しても答えがないからきつい仕事ですよね
■ でも、答えがないから楽しいのかもしれない

── そのバッティストーニと組んだ演奏が、1曲目のラフマニノフ、ピアノ協奏曲第2番。今年の夏、トリノでの録音です。どんな思い出がありますか。

反田:RAI国立交響楽団は、素晴らしいオーケストラでした。去年、イタリアでコンチェルトを弾き実力をためしたいと受けに行ったチッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール。イタリア人がどういう反応をするのかが気になったんですが、古典派部門で優勝することができ、イタリアの聴衆とすごく合うなということを実感しました。何よりイタリア人と波長が合うというか、すごくいい経験になりました。それから今回のレコーディングのお話をいただいて、トリノは初めてでしたけど、すごく楽しみでした。バッティストーニのラフマニノフ2番のコンチェルトは聴いたことがなかったので、どういうふうに持って行くのか、どういうふうに戦うのか、どういうふうにオケを鳴らすのか。すごく考えましたけど、想像以上で。

── それは、具体的に言うと?

反田:僕が好きなイタリア人は、みんなフレンドリーというのが一つあります。フレンドリーだと何が起こるかというと、日本とは違うオケ内での緊張感があるんです。日本ではとても真面目な緊張感が多いですけど、イタリアは音楽を楽しんでいる、でもその中に緊張感がある。休憩時間もしゃべりかけてくれて、「元気? どこに住んでるの?」って。「東京」って言うと喜んで、「オリンピック!」とか言ってましたけど(笑)。そういった人のあたたかみを感じられるオーケストラでしたし、そうやって会話することによって、弾いてる間もアイコンタクトが取りやすくなる。それがあるのとないのとでは大きく違いますし、バッティストーニも、祖国で祖国のオーケストラと一緒にやる自信もあったのではないかと。100人が合わせるより一人が合わせたほうが話が早いので、僕もイタリア人っぽい性格寄りにして、態度をあらためて(笑)。演奏は別ですけど、結果、いいものができました。

── 素晴らしい演奏ですね。

反田:ありがとうございます。レコーディングは1日でしたが、リハーサルをして、そのまま録って終了。限られたその数時間は非常に濃かったので、今後に生かせるのではないかと思います。

── クラシック・ファンはもちろんですけど、ごく普通の音楽好きの方にもすっと聴けると思うんですね、反田さんの作品って。すごいテクニックですけど、あくまで親しみやすさがあって、はつらつとしている。反田さんは、どんな音楽家を目指していますか。

反田:やはり、もっとクラシックが身近になってほしいですね。それを考えるのが私たちですから。同世代は、日本で言うと大学4年生ですけど、音楽学校に行ってる友達にもこういう気持ちを持っている人は残念ながら少ないです。僕は適当にピアノを始めた人間ですけど、もっと真摯に、音楽界をちょっとでもいい方向に伸ばして行けたらなというのが僕の夢です。そのためには今、たくさん曲を勉強して、たくさん名前を知ってもらって、それが最初のステップだと思います。今後とも、いろいろ面白い演奏会を企画していくと思うんですけど、9月の浜離宮朝日ホールでの3夜連続コンサートと3日間の追加公演の計6日間のコンサート(※3日間テーマを変えて演奏した)がそのきっかけになったのかなということは、SNSを見ても実感してます。SNSはすごいですね、ぱっと見えちゃいますから。面白いのは、ツイッターで“反田恭平はほんとに人間だった”というのがあって(笑)。

── あはは。何だと思ってたんだろう。

反田:CDでしか聴いてなかったから、人間だとは思わなかったって。“ほんとに指10本だった”って。10本ですよ(笑)。それに僕の手は決して大きいほうではなくて。

── 見せてもらっていいですか。あ、確かに、そんなに大きくはない。

反田:身長の割りに普通の手で、職業柄ちょっと指が伸びたぐらい。指が開くのは開くんですけど。

── ラフマニノフは確か2メートルの大男で、手も大きかったとか。

反田:そう、ドからオクターブのソまでを押さえられた。僕はドからミなので、その2度のハンデは大きいです。必然的に弾けない曲は出てきますから。でも世界のピアノ人口の97%ぐらいは、それができない手なのでみんな何かしら工夫をしてやっているわけです。

── 今日は興味深い話が聞けました。正直に言いますけれど、お会いするまでは音楽オタク系の人かなと思っていたんですよ。

反田:逆ですね。何事もまんべんなく、です。

── もちろん、集中する時にはものすごくするんでしょうけど。

反田:そういう性格ですね。僕は短期集中型なので、基本的にコンサートの前以外はまったく弾かないです。本当にピアニストかってくらいに弾かない(笑)。ぼーっとしてます。でも弾かないけど、常々頭の中では考えてますよ、もちろん。楽曲の分析ですね。頭の中で何度も再生して、ここのメロディで、下が動いて、何度になって…って、けっこう細かく考えちゃうほうなので。僕には出来ないんですが、弾けないところを3時間ぐらいやる人がいますよね。あれ、ゲシュタルト崩壊になりません?

── あはは。なるかもしれない。

反田:僕、3分でなりますよ(笑)。だから基本的に、通しでしか練習しないです。まず最初に構成をしっかり見て、できない部分をそれから多少やるかもしれないですけど。まず何が必要かというと、頭で理解してから弾かないと意味がないと思うんです。それこそサッカーも一緒だと思いますし、相手がいて、どういうフェイントをすればかわせるかとか。料理も一緒だと思うんですよ。ピアニストって何する人ですか?っていう質問が、よくわかっていない人には、たとえばちびっことかにはあると思うんですね。「ピアノを弾いてお金がもらえる」と言うと、普通の仕事をしているのと一緒になりますけど、でも本当に一緒で、スポーツ選手もプレーすることでお金をもらってる。でもそのためには綿密な練習と計画性が必要で、それはピアノも一緒。ちゃんと練習して、頭で考えるということは、どの分野でも一緒だと思うんですよね、極める人というのは。そこから脱線しないように、頑張るのみです。

── 頼もしいです。期待しています。

反田:すごく思うのが、自分にとって刺激的な人たちと共演を重ねて、今しかできないことを吸収したいです。世界には沢山います。今回のRAIとバッティストーニとの録音は、僕にとってすごく大きな変化のきっかけにもなりました。自信にもつながりましたし、いろいろ勉強になることが多かったです。生涯勉強ですから。勉強しても答えがないからきつい仕事ですよね。でも、答えがないから楽しいのかもしれないし、飽きないのかもしれない。

取材・文=宮本英夫
撮影=大橋祐希

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反田恭平『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/パガニーニの主題による狂詩曲』
2016年11月23日発売
SACD Hybird COGQ-97
¥3,000 + 税

1. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
2. ラフマニノフ:ピアノとオーケストラのための「パガニーニの主題による狂詩曲」 *

反田恭平(pf)、アンドレア・バッティストーニ(cond)
RAI国立交響楽団 東京フィルハーモニー交響楽団 *

録音:2016年7月7日、Auditrium(トリノ)
2015年9月11日、東京オペラシティ・コンサートホール(ライヴ)

■公演情報
【佐渡裕指揮×反田恭平(ピアノ)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団】
<プログラム>
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ほか

2017年
4/14(金)府中の森芸術劇場  チケットふちゅうTel:042-333-9999
4/16(日)静岡市清水文化会館マリナート  静岡新聞社・静岡放送事業部Tel:054-281-9010
4/17(月)刈谷市総合文化センター  刈谷市総合文化センター Tel:0566-21-7430
4/18(火)バロー文化ホール(多治見市文化会館)  バロー文化ホール Tel:0572-23-2600
4/21(金)キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)  テレビ信州チケットセンター Tel:026-225-0055
4/22(土)コラニー文化ホール(山梨県立県民文化ホール)  山日YBS事業局 Tel:055-231-3121
4/23(日)藤沢市民会館  茅ヶ崎市楽友協会事務局Tel:0467-82-3744
4/26(水)須賀川市文化センター  福島放送 事業部Tel:024-933-5856
4/27(木)秋田県民会館  ABS秋田放送 企画事業部Tel:018-824-8500
4/28(金)リンクステーションホール青森  青森テレビ 企画事業部Tel:017-741-1588

【2017年夏リサイタルツアー】
■東京、札幌、名古屋、兵庫、福岡 他で開催決定。
※詳細は随時オフィシャルHP http://soritakyohei.com/ にて掲載

最終更新:10/2(日) 8:18

BARKS

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