ここから本文です

セブン、井阪氏の解任に創業家が反対したわけ

ニュースソクラ 10/2(日) 19:10配信

企業ガバナンスの今を切る・伊藤邦雄一橋大特任教授に聞く(上)

 上場企業のほとんどが社外取締役を置くようになり、コーポレートガバナンス(企業統治)の形は一応整ってきた。

 しかし最近、経営陣と創業家の対立が相次ぐなど、問題は尽きない。一橋大学大学院商学研究科の伊藤邦雄特任教授に、自ら社外取締役を務めるセブン&アイ・ホールディングスでの経験なども踏まえて、企業ガバナンスの現状と今後について意見を聞いた。

 ――出光興産では、経営陣が目指す昭和シェル石油との合併に創業家が反対しています。セブン&アイ・ホールディングスでは、鈴木敏文前会長兼最高経営責任者(CEO)のトップ人事案に創業家が同意しませんでした。こうした動きをどう見ていますか。

 経営陣と創業家との対立がいろいろな事情で表面化しているように見えますが、私は起こるべくして起きた問題だと思います。創業家が代替わりする中で、非同族の経営者が経営を任されて、資本と経営の分離が間違いなく進んでいます。

 その結果、現経営陣は、創業家から経営を一任されていると思ってしまうわけです。このため、創業家への報告、連絡、相談のいわゆる報連相を小まめにしなくなる。ところが創業家は10%、15%、20%といった株式を持つ長期安定大口株主です。

 経営陣は、3%程度の持ち株比率の機関投資家との対話には最近熱心ですが、創業家にはおろそかになる。創業家は普段、何も言いませんよ。しかしM&A(合併・買収)や大きな人事など重要な案件が生じたときに、創業家のもやもやしたものが表に出てくるのです。

 出光興産も、経営陣と創業家はいい関係だったはずなのに、合併の問題をきっかけに尖った形で噴出した。セブン&アイ・ホールディングスも、そうだったと思います。

 ――伊藤さんが社外取締役を務めるセブン&アイでは、鈴木敏文会長(当時)がセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長(同)を交代させようとしましたが、創業者の伊藤雅俊名誉会長が反対しました。朝日新聞のインタビューで伊藤さんは、指名報酬委員会の委員である伊藤さんともう1人の社外取締役は、伊藤名誉会長の反対を事前に「知らされていた」と答えていますね。

 伊藤さんの意向を、指名報酬委員会の2人の社外取締役の委員はあらかじめ確認しました。創業家は約10%の大株主です。その人たちの意向を聞かないのはアンフェアです。どれだけ汲み取るかは別の話で、全く聞かないのはおかしいので、意向を聞いたらと、我々社外委員も言っていました。

――伊藤名誉会長が反対したのは創業者の勘みたいなものですか。

 井阪さんという人を見ていたからではないですか。伊藤さんはそれなりに社内の情報を常に取っていたんです。

 伊藤さんは企業価値をここまで上げてくれた鈴木さんに、これまで感謝してきました。伊藤さんは人と対立するのを好まない方で、非常に温厚な方です。

――鈴木会長はセブン-イレブンの井阪社長を物足りないと見て代えようとしたわけですね。納得の行く説明をしなかったのでしょうか。

 鈴木さんは、信念の人です。私たちは反対したくて反対したのではないんです。指名報酬委員会で言いました。「おっしゃることは、よくわかります。鈴木さんは経験のある大経営者ですから、はっきり言って誰だって物足りないでしょう」と。

 そりゃあそうでしょう。それを十分理解したうえで、でも、グループで一番の稼ぎ頭の会社の社長で5期連続営業最高益を達成した、その人をいきなり退任させる。これはやっぱり、やり過ぎではないですかと、我々社外の委員は思ったわけです。

 鈴木さんは大経営者だから直観もあるし、井阪さんをずっと見てきたわけだから、鈴木さんの判断に全面的に反対だったわけではありません。ただし5期連続営業最高益の会社のトップを突然、解任したら、何が起こるのか。

 グループ会社のトップは皆、震え上がりますよ。業績はセブン-イレブンより下ですからね。井阪社長が切られるのならば、オレたちも明日はないと思うでしょう。グループはがたがたになりますよ。グループ経営にならない。その結果、企業価値が毀損されてしまう。そういう事態を回避するのは、社外取締役の役目です。

 私は鈴木さんが大好きだし、尊敬もしています。今もその気持ちに変わりはありません。だから、社外取締役の委員から、代替案の示唆も行いました。そこで擦り合わせができれば、こんな展開にはなっていなかったのではないかと思います。

――鈴木さんは揺るぎない信念の持ち主ですから、こうと思ったら軌道修正ができないのでしょうね。

 鈴木さんは、周囲のすべての人が反対する中でセブン-イレブンを始めたでしょう。セブン銀行も、当時、銀行関係者が全部「あんなもの、できるはずがない」と言っていた中で始めました。でも成功しました。鈴木さんが強い信念を持つのは当たり前ですよね。

 人事とか社内の案件で、自分の案が反対されたのは、今回が初めてだと思います。それは鈴木さんにとって未経験ゾーンです。

――だから提案を変えられなかった。

 偉大すぎるということでしょうかね。

(次号に続く)

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:10/2(日) 19:10

ニュースソクラ