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ヒラリー氏でも、トランプ氏でも、米国の「Gゼロ」は続く

ニュースソクラ 10/3(月) 12:00配信

不安定な世界の行方/政治学者イアン・ ブレマー氏に聞く(上)

 世界的にイスラム原理主義の影響を受けたテロが頻発する一方、 難民問題などで各地で独裁的政治家の台頭も著しい。 地政学リスクの分析を専門とする米国コンサルティング会社ユーラ シア・グループの社長で政治学者のイアン・ ブレマー氏に話を聞いた。

――あなたは、ニュースソクラとの2015年1月のインタビュー で、「グローバル化された世界では、誰も(テロと) 無縁ではすまない」と語っている。 今年7月にバングラデシュの首都ダッカで起こったテロ事件では、 7人の日本人が犠牲になった。首謀者は、かつてISと関係があっ たとも言われている。「2016年10大リスク」では、「 イスラム国(IS)と、その仲間たち」が4位に挙がっている。 今後、日本人が標的になる可能性は?

 日本人が特に狙われるとは思わない。ダッカでは、 犠牲者のなかにたまたま日本人が含まれていたと考えるほうが適切 だ。狙われるのは、中東で重要な諜報・ 防衛的役割の一端を担っている欧米人など、( イスラム過激派にとって)「もっと密接な関係にある敵」 と考えられる人々だ。

 日本にはイスラム系人口と呼べるほどの、 まとまった数のイスラム教徒がおらず、 軍事力も基本的に小規模だ。一方、 中東での人道支援やインフラ投資には多額の援助をしていることか ら、フレンドリーで協和的だとみなされている。日本は、 中東では温和で安全な存在だ。

 ISについて言えば、シリアでの支配地域の約半分を失った。 シリアとイラク、それぞれのISの拠点であるラッカとモスルは、 向こう半年のうちに包囲され、たぶん制圧もされるだろう。

 だが、ISにとって問題なのは、 支配地域よりもアイデアやブランドを維持することであり、 政権の空白を埋めることだ。(財産や社会的) 権利をはく奪されたスンニ派の青年は増え続けており、 その多くがイスラム過激派へと走っている。ISは暴力のみならず 、今後何年にもわたって、サイバー攻撃も仕掛けてくるだろう。 その脅威が、2017年もリスクであり続けることは間違いない。

――世界が不安定さを増しているのは、米国が「世界の警察官」 という役割に二の足を踏み、 超大国としての指導力を発揮しなくなった「Gゼロ」 時代ゆえなのか。

 そうだ。とはいえ、米国(政府)だけではない。米国民が、 そうした役割をもはや良しとしないのだ。欧州人も、 強力な欧米関係を維持したいという関心が薄れており、 維持する力も低下している。

 一方、ロシアは、 安全保障の点で大いに指導力を発揮したいと考えているが、 米国の役割の弱体化を狙っている。中国も、世界経済において、 より野心的な役割を果たしたいと望んでおり、その結果、 米国の利益や権威は弱体化している。(サイバー攻撃などの) テクノロジーも、 米国がグローバルな舞台で効果的に行動するのを難しくしている。

 こうした諸事情を考えれば、Gゼロが当分続くことは明らかだ。

――クリントン、トランプのいずれが大統領になっても、 状況が一変することはない、と?

 そうだ。もちろん、 ヒラリーとトランプが非常に異なる候補であることには議論の余地 がない。また、Gゼロといっても、 米国は現在のレベルのグローバルな影響力を維持するので、 トランプは危険な大統領になると思う。

 だが、問題は、米国が国外で得たいと考える、 さまざまな成果を得にくくなっているという点だ。Gゼロゆえに、 米国の交渉上の立場が弱くなっているのだ。 誰が大統領になろうと、こうした状況は構造的に続く。 今回の選挙は非常に重要なものだが、 世界の構造的状況のほうがはるかに重要であることを認識する必要 がある。

 アジア地域の米同盟国が、 米国にとって自国の重要性が下がっていると考えている点も問題だ 。トランプはもちろん、ヒラリーが大統領になっても、 米国が以前のように深くコミットしてくれなくなると、 アジアの同盟国は案じている。たぶんアジアの同盟国も、 欧州の一部のように、 自分たちのことは自分たちで決めねばならなくなるのではないか。

 トランプが大統領になれば、 同盟国が懸念を深めるのは間違いない。それは、 米ドルや米国の貿易、北大西洋条約機構(NATO) の弱体化を招く。とはいえ、状況が180度転換するほどの変化が 起こるとは思わない。トランプが大統領になったとたん、 米国が超大国でなくなるなどということはない。

■聞き手 肥田 美佐子(ジャーナリスト 在NY)
ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。「ニューズウィーク日本版」編集などを経て1997年、単身渡米。米広告代理店などに勤務後、独立。08年、ILO(国際労働機関)メディア賞受賞。米経済、大統領選など幅広く取材。現在、経済誌を中心に寄稿。カーリー・フィオリーナ元ヒューレット・パッカードCEO、ジム・オニール前・英財務省政務次官、シカゴ連銀副総裁、トム・リッジ元国土安全保障長官など、米(欧)識者への取材多数。

最終更新:10/3(月) 12:00

ニュースソクラ

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