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Microsoftがクラウドで目指す「AIの先にある世界」

ITmedia PC USER 10/4(火) 6:25配信

 米ジョージア州アトランタで9月26日~30日にMicrosoftの年次イベント「Ignite 2016」が開催された。

7よりパスワードを破られにくいWindows 10

 Igniteは、かつてアプリケーションやサービスごとに分かれて開催されていたMicrosoftのカンファレンスを1つにまとめたもので、「ITプロフェッショナルのためのカンファレンス」を標ぼうしている。第1回は2015年5月にシカゴで開催され、今回が2回目となる新しいイベントだ。

 Microsoftが毎年開催している同種のイベント「Build」は「アプリ開発者やスタートアップの開発者」を主に対象としているが、Igniteはどちらかといえば企業のIT部署や導入に関わるユーザーサイドに近い技術者が対象となる。

 担当者の説明によれば、シカゴでの第1回は初開催ということもあってやや人数を制限していたものの、今回のアトランタでは幅広い参加者を受け入れたことで、同社としては過去最大規模のイベントになったという。

 初日の9月26日には米Microsoftのサティア・ナデラCEOと同クラウド&エンタープライズ部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのスコット・ガスリー氏が基調講演を行い、同社のクラウドや企業向け施策に関する最新施策を説明した。

●Windows 10は月間4億台のアクティブデバイス数を達成

 クラウド関連の話題がメインを飾るIgniteではあるが、やはりフロントエンドのデバイス用OSとしてWindows 10は重要だ。今回、Windows 10の世界の月間アクティブデバイス数にアップデートがあり、4億台のマイルストーンを達成したことが報告された。2016年6月末の時点で3億5000万台を突破したことが報告されており、約3カ月で5000万台を伸ばしたことになる。

 Windows 10の普及ペースは当初の想定を下回っているが、特に無料アップグレード期間が終了した8月以降はそれが顕著だ。今後、特にコンシューマー分野でのWindows 10のシェア増加はデバイスの買い換え以外では難しいとみられ、主に企業導入に依存することとなる。

 Windows 10の企業向けにアピールすべき機能は幾つかあるが、ここIgniteでは特に「セキュリティ」に重きを置いていた印象がある。Windows 7との比較デモが度々紹介され、Windows 10の方がセキュリティ的に堅牢であることが示された。例えば、Administratorを含むWindowsへのログオンパスワードを暴き出すツールに「Mimikatz」があるが、Windows 7ではアカウント名とパスワードが全て表示されている一方、Windows 10ではパスワードまでは解析できなかった。

 このほか、フィッシングメールを受信してマルウェアを呼び込むコードのリンクをうっかり踏んでしまった際のデモも紹介された。Windows 7ではDefenderの監視機能が無効化される一方で、Windows 10では多重防御によりマルウェアの侵入を防ぐことに成功していた。

 比較対象が全てWindows 7というのも興味深い点だ。現在のエンタープライズ環境におけるメインのクライアントOSがWindows 7であり、これを何とか時間をかけてWindows 10へと置き換えていきたいというMicrosoftの意図が読み取れる。

●エンタープライズ向けでは最大のクラウドサービス

 ガスリー氏の基調講演では、Microsoft Azureの最新状況が報告された。全世界の34リージョンでサービスが展開されており(34地域であって「34のデータセンター」ではない点に注意)、これはAmazon.comのAWSと比較しても2倍の規模だという。

 またGartnerのMagic Quadrantの指標では業界他社のサービスを大きく引き離して17の分野でリーダーの地位にあり、エンタープライズ向けクラウドとしては他に大きく勝ると説明する。Fortune 500企業の採用例は85%を突破しており、比較対象がAWSというあたりに現在の業界地図が見え隠れするが、少なくとも大きな競争力を持ったサービスであることは間違いない。

 Microsoftのクラウド戦略には、幾つか他社にはない大きな強みがある。

 その1つが「ハイブリッドクラウド」という概念だ。AWSをはじめ、今日提供されている企業向けクラウドサービスはIaaSであれ、PaaSであれ、SaaSであれ、システムがクラウド側にあることが前提となっている。

 一方で、企業ユーザーの中には社内のデータセンターやサーバルームで動いている既存のアプリケーションをそのまま使いたいというケースや、データを外部に出したくない(あるいは決まり上、外に出せない)というケースも少なくない。

 この場合、Office 365を含む一部の生産性アプリケーションや新しいアプリケーションをクラウドで使い、既存システムはオンプレミス方式で内部で動かし、両者を連携させるという仕組みを採る。

 この運用の柔軟性を実現するのがハイブリッドクラウドで、オンプレミス向けの製品を持つMicrosoftならではの戦略だ。クラウド側ではLinuxを動かすことも可能で、ガスリー氏は「Any platform, any language(どんなプラットフォームや言語でも大丈夫)」と強調する。

 また同日には「Dockerコンテナ」や「Nano Server」の仕組みもサポートした「Windows Server 2016」と「System Center 2016」が正式に提供開始となったことも報告され、このハイブリッドクラウド戦略を後押ししている。

 そして今回のIgniteでは、米Adobe Systemsとのクラウド分野での提携も発表された。ステージ上にはナデラ氏と、Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOが登場し、Microsoft AzureとAdobe Marketing Cloud、そしてMicrosoft Dynamics 365を組み合わせたソリューションを提供していくという。

 具体的には、Adobeが持つMarketing Cloud、Creative Cloud、Document Cloudといったクラウドサービス群向けの推奨クラウドサービスをMicrosoft Azureとし、Azure側からは各種コグニティブ(認識)サービスや機械学習サービスといった仕組みをAdobeクラウド側に提供するといった具合だ。またMarketing CloudをDynamics 365向けの推奨サービスとし、両者が密に連携する仕組みを模索する。

 実は、この開催前夜にあたる9月25日に報道関係者やアナリストを集めたミーティングが行われ、事前に今回の発表内容が共有されていたのだが、このAdobeとの提携だけは発表内容がぼかされていた。それだけ両社にとって重要な意味を持つ提携だったのだと考える。

●MicrosoftのAI技術は企業にどのようなメリットをもたらすか

 Build 2016ではMicrosoft Cortana Intelligence Suiteの一部として発表された「Bot Framework」や「コグニティブサービス」だが、ナデラ氏の講演では機械学習やそれに伴うAIによってコンピュータの認識精度が高まり、よりインテリジェントなサービスが提供できるというサイクルが紹介された。

 顕著ですぐに活用できる例としては、「カスタマーサポート」の分野が挙げられる。B2C向けの応答サービスをBotで自動化することで、より応答性に優れたサービスの提供が可能になる。サポートでの応答事例の多くはこの自動化されたBotによりさばくことが可能だが、どうしても対応が難しい場合には専門のオペレーターへと対応が昇格し、適切な受け答えで問題解決にあたる。

 こうしたBotは人件費の削減が中心だと思われがちだが、実際には「応答性を高める」ことが最大の狙いであり、「待ち時間」を嫌うユーザーのニーズに応えることが主眼だ。ほかにも即適応できる応用分野があり、実際の各分野での顧客企業一覧が紹介された。

 この自動応答BotはBuildでも紹介されたように、もちろんエンターテインメント分野でも有効だ。会場には元NFLのプロフットボール選手のディオン・サンダース氏が登場し、NFLとの提携で提供されているNFL Fantasy Football Botの事例が紹介された。

 これはSkypeのインタフェースを通じてFantasy Footballのゲームサービスが利用できる仕組みだ。選手のステータス確認やおすすめ情報、チームの変更を対話型インタフェースで行える。専用アプリを使わない点が特徴であり、例えば車を運転中に音声対話を使ってハンズフリーでゲームを楽しむといったことも気軽にできるだろう。

 Microsoftの機械学習というと、このようなBotやCortanaの応答、あるいはコグニティブサービスでの精度向上を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし実際には処理エラーの発生しやすいタッチパネルでのキーボード入力や、地図サービスでの最適なルート発見アルゴリズムなど、さまざまな分野で応用されている。

 ナデラ氏によれば、1450年にヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を確立するまでは背閉じの本は世界で3万冊程度しかなかったが、そのすぐ後には数百万程度にまで冊数が爆発的に拡大しており、これと同じ現象がコンピュータの世界にも起こりつつあるという。つまり、大量の情報を効率的に処理する手法として、こうした機械学習の仕組みが重要になるというのだ。

 これまでの機械学習というとCPUとGPUの組み合わせが一般的だが、より効率的な処理のためにFPGAを組み合わせた世界初のAIスーパーコンピュータをAzure上に構築したと同氏は説明する。既に5大陸15カ国にその仕組みが展開されており、こうしたAI的な処理がほぼリアルタイムで可能になるという。

 壇上では従来型のサーバとFPGAを絡めたソリューションにおける「戦争と平和」のテキストをMicrosoft Translatorで翻訳した場合の処理速度を比較するデモが披露され、10倍程度の速度差があることが確認できた。

 こうした仕組みがさらに一般化すれば、正確なリアルタイム翻訳が実現され、言語の壁を越え、世界中で会話が活発になる日も意外に近いのかもしれない。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

最終更新:10/4(火) 6:25

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