ここから本文です

『こち亀』の舞台になった「亀有駅」は、どんな特徴があるのか

ITmedia ビジネスオンライン 10/4(火) 7:32配信

 1976年から連載を開始し、9月に連載を終えた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(週刊少年ジャンプで連載、以下:こち亀)。ところで、その舞台となった亀有という駅、そして街は、どんなところなのか。現地に足を運んだ。

【亀有駅を降りると両津勘吉の像】

●シンプルな亀有駅

 亀有駅は1面2線、常磐緩行線だけが停車するシンプルな構造の駅である。ホームで列車を待っていると、快速線では列車が猛スピードで走っていくのが見える。そんなとき、ちょっとむなしい気分になってしまう人もいるかもしれない。

 亀有駅は、駅直結の華やかな商業施設があるわけでもない。地上に出れば、ふつうの路線バスのターミナルがある。純然たる、暮らす人のための駅だ。

 亀有駅は、1日に4万1058人の人が乗車する。都心に近いわりに家賃も安いという利便性もあってか、一進一退はあれど、少しずつ乗客は増え続けている。

 千葉県の我孫子、柏、松戸方面からやってきた列車に人々を乗せ、綾瀬から東京メトロ千代田線に乗り入れて都心へと向かう。列車自体は、小田急線に乗り入れるものもある。

 小田急線から、あるいは東京メトロの始発駅・代々木上原からやってきた千代田線の列車は、綾瀬あたりから少しずつ人を下ろしていく。亀有も、多く降りる駅の1つだ。

 駅としての華やかさもなければ、鉄道網上の重要性もない。だが、そういった駅だからこそ、暮らすのに必要なものは、一通りある。

 なお、綾瀬駅から東京メトロになり、人によっては北千住で常磐快速線に乗り換えるのはどうしたものかと思う人もいるだろう。この場合、全線JRを利用したとみなして運賃を計算するという特例がある。

 ただし実際には、西日暮里で乗りかえるほうが楽だという考えもある。この場合にも、運賃計算上の特例がある。ただし、乗車券を買って乗った場合とICカードで乗った場合とでは仕組みが異なっている。乗車券の場合はJRの乗車距離を通算し運賃を出し、それに綾瀬から西日暮里までの運賃を足すことになる。一方、ICカードではそれぞれに運賃を負担させ、そこから100円引くことになる。

●暮らしの街、亀有

 亀有駅を降りると、南口には両津勘吉・中川圭一・秋本麗子の像が、北口には両津勘吉の像がある。南北両方に交番があり、北口の交番が、『こち亀』の「派出所」の題材となったものである。1994年まで、「交番」は「派出所」と呼ばれていた。

 しかしこの交番は、亀有公園前にあるわけではない。駅北口は商店街であり、飲食店などが軒を連ねている。表通りはチェーン店が多いが、一歩道を中に入っていくと、個人経営の喫茶店やラーメン店がある。そしてマンションが立ち並ぶ住宅街もある。

 そんな中に亀有公園がある。都心の住宅街の公園としては広く、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。遊具は少なく、広場を中心とした公園になっている。

 駅北口のバスは東武系列、南口のバスは京成系列のバス会社が中心となっている。東武系列のバスは、県境を越え埼玉県の三郷市や八潮市に向かうものもある。取材時に見た東武バスの車両は、春日部ナンバーだった。

 京成系列のバスは、新小岩や浅草に向かうものが中心となっている。

 これらのバスは、地域住民の足としてだけではなく、都心へ向かう常磐緩行線の補助的なものとして活用されている。メインラインが常磐緩行線なら、サブのラインがこれらのバスだ。

 亀有駅前には、イトーヨーカドーがある。地下1階が食料品売場、1階が生活雑貨や衣料品など、都会の大型スーパーらしいつくりとなっている。しかし2階と3階はニトリ、4階はノジマにテナントとして貸しており、同じ建物には区民事務所や地区センター、かめありリリオホールがある。

 亀有駅前のイトーヨーカドーは、都会のスーパーらしく、一通りのものはそろっている。生活に必要な最低限のものは、ここで手に入れることができる。

 東京23区の、外縁部の駅には、こうした総合スーパーがあることが多い。日常の買い物は、会社帰りにこういったところで済ますことができる。品ぞろえのバラエティ感はないものの、たいていはことたりる。

●ワンパターンの街、亀有

 そういう意味では、亀有はワンパターンの街である。会社に出かけ、帰り、買い物し、帰る。そんな繰り返しの日常を送るには、不便ではない。

 『こち亀』最終巻200巻を読んでいると、1回完結で、話にオチがつくものばかりである。連載初期のころから“両津勘吉は最後に失敗する”という定番のオチが多い。

 そんな亀有と、『こち亀』は、街と作品の性格がリンクしていると考えてもいいだろう。

 亀有駅から少し歩くと、「アリオ亀有」というイトーヨーカドーを中核としたセブン&アイ・ホールディングス系列の複合商業施設がある。

 こういった郊外型のショッピングモールは、地元で暮らす、それもクルマ社会の中で暮らす人がよく利用している。店内にはユニクロもロフトも、タワーレコードもある。便利であることには間違いない。その地で暮らす人にとっては、これほどありがたい商業施設もない。

 映画館も備えられたこの施設は広く、地方にあるようなショッピングモールそのものである。低層の建築物で、中には吹き抜けがあり、巨大なフードコートもある。フードコートでのんびりしていると、まるで故郷に帰ったかのような心境になってくる。

 しかし、である。そうした空間の中で、「このままでいいのか」といった焦りを感じる人もいるかもしれない。「地方から上京してバリバリ働いて、給与をたくさんもらって、高層マンションに住んで……」といった夢を描いていた人にとっては、ここは1人でいたくない場所なのかもしれない。なぜ、1人でいたくないのか。フードコートなどで食事をとろうとしても、席に座っているのは幸せそうな家族がたくさんいる。そうした人がたくさんいる中での食事は、孤独を増幅させるスペースなのかもしれない。

●亀有には地方がある

 亀有から去る際、新小岩へ向かうバスに乗った。バスは環状7号線を南へ向かう。環状7号線から見る風景は、殺風景な、クルマ社会の風景であり、高度経済成長からバブルの時代の建物であったと思われるものも多く見られる。

 そう、ここには「地方」があるのだ。

 都会で働く人が暮らす地域としての亀有、地元で働いて生活する人が暮らす地域としての亀有、2つの側面をこの街は持っている。その2つの顔が、駅前のイトーヨーカドーと、駅から少し歩いた「アリオ亀有」にあらわれている。

 鉄道利用者のカルチャーと、クルマ社会の住人のカルチャー。この2つが、亀有という街にはある。

(小林拓矢)

最終更新:10/4(火) 7:32

ITmedia ビジネスオンライン