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「豊洲新市場はカジノにすればコスト削減になる」は本当か

ITmedia ビジネスオンライン 10/4(火) 9:22配信

 こじれにこじれる豊洲新市場問題を象徴するような「怪情報」が飛び込んできた。

 先日発売された『サンデー毎日』(10月9日号)の中で、複数の大手流通企業やアミューズメント会社が、「豊洲を買いたい」と名乗りをあげたという情報とともに、こんな話が紹介されているのだ。

【「観光立国」実現のために必要なモノは?】

 『自民党などが15年の通常国会に議員立法で提出した「統合型リゾート(IR)整備推進法案」(カジノ法案)に絡み、「カジノは豊洲に誘致したらいい」という声が出ているというのだ』

 確かに、こういう話がまことしやかに囁(ささや)かれているのは事実で、この問題で毎日のようにテレビに出演し、東京都の専門委員も務める建築エコノミスト・森山高至さんも、TBSの情報番組でこんなことをおっしゃっている。

 「もともとお台場カジノ構想があったし、豊洲新市場をカジノにすればコスト削減になる」

 ただ、「豊洲カジノ」はあまり現実的ではない。主張されている方たちが頭の中で思い描いている「カジノ」と、現実の「カジノ」に大きなギャップがあるからだ。

 森山さんたちの頭には、「土壌や水質に問題があってもギャンブル場なら平気だろ」という考えがベースにあるが、今日本政府が検討している「カジノ」は巨大ギャンブル施設などではなく、「IR」(カジノを含む統合リゾート)だ。15年以上に渡って、日本の「IR」の必要性を訴えてきた岩屋毅衆議院議員(国際観光産業振興議員連盟幹事長)が10月3日に発売した『「カジノ法」の真意 「IR」が観光立国と地方創生を推進する』(KADOKAWA)の中で、このように述べている。

 『カジノはいまや世界の140カ国で認められ、適切に運営されている国際的なゲーミング(金銭を賭けておこなわれる遊興)です。そして着目すべきは、そのカジノの形態が、近年、大きく様変わりしてきているということです。この10年の間に誕生してきているカジノは、数千室規模の高級ホテル、シアター、レストランゾーン、ショッピングゾーン、国際会議場や展示場、スポーツ施設、遊園地などが一体となった「統合型リゾート」(IR)の一部として設置されるようになってきています』

●「カジノは豊洲に誘致すればいい」は眉唾

 要するに、「IR」というのは世界中からファミリー客なども訪れる「リゾート」なのだ。共産党のみなさんが騒いでいるように豊洲が汚染された土地・水質が事実ならば、もっとも適していないのは言うまでもない。

 安全性に問題がなくとも、イメージが悪すぎる。「日本人は汚染された土地で、外国人をおもてなししている」なんて大騒ぎをする海外メディアもあらわれるかもしれない。

 こういう視点が、「豊洲カジノ」を唱える方たちにはゴソッと抜け落ちている。彼らの頭の中で「カジノ」というのは「IR」に含まれる施設ではなく、昔のギャング映画などに登場するマフィアや娼婦がウロウロする「怪しげなギャンブル施設」のままで止まっているのだ。

 ただ、その一方で豊洲問題や膨らみ続ける五輪開催費の問題が注目を集めることで、このような「カジノ」に対するギャップが埋められていく可能性がある。

 「公費を投入した巨大ハコモノ」に対して、世の中の人々がこれまで以上に厳しい目を向けているからだ。

 このあたりは、『文春』『新潮』をはじめとする週刊誌が動いているので、遅かれ早かれ全貌が明らかになるはずだが、ここで重要なのは「公費を投入した巨大ハコモノ」をつくれば、政・官・民がみんなハッピーになるという「三方よし」がもはや通用しなくなってきているという事実だ。

 「都議会のドン」と呼ばれる内田茂前幹事長はじめとする自民都議、行政組織のトップである石原慎太郎さんたちに疑惑の目が向けられているだけでなく、最近では、東京ガスにまで火の粉が飛んでいる。一方、「五輪のドン」である森喜朗さんも世論の風当たりが強い。こういう論調が高まれば当然、「公費でハコモノなんてとんでもない」というのが社会の常識となっていく。

 だが、その一方で巨大建造物というモノも確実に必要となってくる。「観光立国」のためだ。

●安定的に日本に金を落とす「上客」

 そう言うと必ずといっていいほど、「日本は日本人だけが楽しく暮らせばいい、外国人なんか来られても治安が悪くなるだけで迷惑」という愛国心溢れる方たちのバッシングがあるが、現実問題として、「観光」ほどこれからの世界のなかで確実に成長が約束されている産業はない。

 山本七平賞を受賞した『新・観光立国論』(東洋経済新報社)でデービッド・アトキンソン氏がさまざまなデータを用いて指摘しているように、移民もノー、人口も激減していくといういまの日本を確実に成長させていく施策のひとつであることは間違いないのだ。

 そのような日本が「観光戦略」を進めていくうえで、無視のできないキーワードがある。「MICE」だ。

 MICEとはMeeting(会議・研修・セミナー)、Incentive Travel(報奨旅行・招待旅行)、Convention、またはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition/Event(展示会)の頭文字をとった造語で、海外出張などのいわゆる商用観光客をターゲットとした観光形態だ。

 国際会議や展示会を開催するということは、一度に大量の観光客が日本を訪れるということだ。さらに、このような商用観光客というのは、一般の観光客よりも消費が大きいというデータがある。中国人観光客の「爆買」がいつまで続くのか分からないという不安定さがある中で、MICEの観光客というのは、安定的に日本に金を落とす「上客」となりえるのだ。

 いや、それかもしれないけど、日本みたい経済大国にはもうすでに商用観光客なんてバンバン来ているでしょと思うかもしれないが、実はそうでもない。

 日本政府観光局の「2014年の国際会議開催統計(ICCA)の発表」によれば、日本の国際会議件数は、イタリアより下の7位。中国とどっこいどっこいだ。都市別に見ると、東京は北京、ソウル、香港、台北に続いて22位なのだ。

●「上客」をつかまえるために「IR」は有効な手段

 なぜ日本では国際会議が開かれないのか。岩屋氏は「施設の規模」が見劣りしている可能性を指摘している。

 例えば、都市の国際会議開催では世界7位にいるシンガポールには、1万1000人を収容する国際会議場があるのだが、「東京ビッグサイト」の収容人数は1000人。「パシフィコ横浜」でも5000人程度しかない。他国と比較してもスケールの小さは際立っている。

 『マカオ、上海、ソウルなどと比較しても同様のことが言えます。東京ビッグサイトの規模は、2012年の世界ランキングでは68位(日本展示会協会)でしかありません。アジアだけではなく世界中で大規模な展示場や会議場が続々とつくられていっている中で、このポジションはさらに低下していくと予想されます』(「カジノ法」の真意)

 じゃあ、「上客」をつかまえるために他国並の施設をつくればいいと思うかもしれないが、五輪施設でこれだけ揉(も)めている中で、公費を投入して巨大なハコモノなどつくれるわけがない。そういうときこそ、民間の活力だと軽く言う人もいるが、日本中でハコモノが赤字経営をしている中で、「東京ビッグサイト」の10倍規模のプロジェクトに手を挙げる酔狂な企業はない。

 そこで、「IR」だ。

 IRは全施設面積の5%程度であるカジノフロアの収益によって、施設全体の運営費をサポートできる。だから、IRを導入している国では、日本国内ではありえないような巨大施設をつくりだすことができるのだ。事実、先ほど紹介したシンガポールの1万1000人規模の国際会議場があるのは、マリーナ ベイ サンズ。日本人観光客も多く訪れる屋上に舟が乗ったような形の巨大IRだ。

 つまり、「公費を投入した巨大ハコモノ」をつくることができなくなった日本において、諸外国との観光誘致競争で勝ち抜いて「上客」をつかまえるためには、「IR」は非常に有効な手段なのだ。

 それこそが、岩屋氏がIRのことを「観光産業のエンジン」と呼ぶ所以(ゆえん)だ。

●議論を進めるために

 もちろん、こういう話をしても、「いや、IRなんて言葉に騙されないぞ、カジノをやったら日本中にギャンブル依存症が溢れかえって、マフィアやらが暗躍して治安が悪化するに決まっている」という人もいるだろう。

 ただ、反対するにも賛成するにしても、まずは日本人に縁遠い「カジノ」というものが、世界ではどのように受け取られ、どのように運営されているのかということを理解してからではないだろうか。少なくとも、「ケチがついた土地ならカジノにすればいいじゃん、ギャンブル施設ならイメージが悪くても平気でしょ」みたいなノリを、「知識人」が語っているような今の認識では、建設的な議論が1ミリも進まない。

 事実、岩屋氏もこれまで多くの「反対派」や「慎重派」のみなさんと意見を交わしてきたが、なかなか議論が噛み合わないことに気づいたという。

 『なぜそこまで議論が噛み合わないのかと不思議に思っていたのですが、あるとき、私がイメージしている「カジノ」と、その方々がイメージしている「カジノ」は、まったく違うものであることに気づきました。否定的な意見をもつ人たちがイメージしているカジノというのは、実は世界的に見て「50年近く前のカジノ」のことだったのです』(「カジノ法」の真意)

 15年にわたって「IR」の必要性を訴えてきた岩屋氏の提言は傾聴に価する。興味のある方はぜひ手にとっていただきたい。

(窪田順生)

最終更新:10/4(火) 9:22

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