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コンビニで働く人の不満を解消すれば、ヒット商品が生まれるかもしれない

ITmedia ビジネスオンライン 10/5(水) 7:45配信

 コンビニの仕事の1つに「前出し」という大事な作業がある。平たく言うと、棚の奥にある商品を前に出してキレイに並べることだ。

【500ミリリットルと1リットルのペットボトル】

 人の第一印象は出会って数秒で決まると言われているが、コンビニの商品も同じ。棚に雑然と置いているよりも、きちんと整列している商品のほうがよい印象を与えるのは言うまでもない。

 今回は、コンビニの商品の並べ方が売り上げにどう影響するのかを考えてみよう。

●前出しと売り上げの関係

 前出しをすることで、商品の見栄えがよくなるだけでなく売り場もキレイに見せることができる。読者の多くは「コンビニはいつ行ってもキレイだなあ」というイメージをお持ちだろうが、それは商品がきちんと並べられているからだ。

 実は、商品が置かれている棚は掃除がしにくい。よく見ると、奥のほうにホコリがたまっていたり、開店から何年も経っている店は棚板の塗装がはがれていたり、傷がついていたりするのだが、商品を棚にビシッと並べることでそれらを目立たないようにしているのだ。

 もう1つ、前出しには万引き防止の効果があるとも言われている。真偽のほどは定かではないが、コンビニ業界の通説として「商品がきちんと並べられていると万引きされにくい」というのがある。

 では、商品を前出ししてキレイに並べれば売り上げは伸びるのか。筆者が本部社員だったころ、先輩社員が売り上げの悪い店のオーナーに「前出しして売り場をキレイにしないと売れるモノも売れないですよ」とエラそうに言っていたが、全くのデタラメである。おにぎりや弁当などが顕著な例だが、売り上げの高い店は商品を棚に並べるとすぐに売れるので、前出ししたキレイな状態が続くことはほとんどない。ということはつまり、よほど散乱していない限りは前出しが売り上げに大きく影響しているわけではないのだが、見た目をキレイにしてお客さんによい印象を与えるためにも妥協は許されない作業であると言えよう。

●売り上げに影響するのは前出しよりもサイズ

 むしろ売り上げに影響するのは、前出しよりも商品の大きさや形状ではないかと筆者は考えている。

 コンビニの陳列棚は、高さを細かく調節できるようになっている。カテゴリーごとに商品の大きさはある程度決まっているので、通常業務において棚を動かす必要はほとんどないのだが、コンビニでは多くの新商品が毎週のように入ってくるので、それらの大きさによっては棚を上下に動かさなければいけない。というわけで、たまにイレギュラーな大きさの商品が入荷すると、とてもやっかいなのだ。

 正直に言って、めんどくさい。想像してみてほしい。棚を1段動かすために商品を全部下ろして、棚の位置を変えてからまた商品を並べ直さなくてはならない。慣れている人は商品を乗せたまま高さを調節することもできるが、飲料のように重量がある商品の棚だと難しく、ひとまず全部下して……という手順になる。

 こういう事情もあってか、中には商品カテゴリーを無視した陳列をする店もある。ある店ではコーヒー飲料の1リットルサイズのペットボトルを、ソフトドリンクの棚ではなく、同じ大きさの紙パック飲料の棚に並べていた。

 確かに大きさはピッタリなので「同じ大きさの商品を並べる」という意味ではうまく収まっているのだが、実は同じコーヒー飲料でも、紙パックを買う人とペットボトルを買う人とでは見る場所が全く違う。

 今でこそ種類が増えたが、一昔前は紙パック飲料の棚にあるコーヒーは「雪印コーヒー」くらいしかなかった。普段からコーヒーを買う人はそれを知っているので、紙パック飲料の棚には見向きもしない。こういうお客さんの消費行動を無視して陳列をないがしろにすると「売れるはずだったモノが売れなかった」という事態を招く。同じ商品でも、ペットボトルのコーナーにきちんと並べた店とは売り上げに差がついたのだった。

●ペットボトルの進化で売り上げアップ

 商品の大きさが売り上げに影響した例として筆者の記憶に残っているのが、1リットルのペットボトルの形が変わったことだ。

 覚えている人も多いと思うが、かつての1リットルサイズのペットボトルは、500ミリリットルのボトルをそのまま拡大したような形状だった。当然、その大きさでは500ミリリットルの棚には並べられないし、2リットルの棚では上にすき間ができてしまう。

 先にも書いたように、コンビニは「裏の事情」を見せたくないので陳列のすき間ができるのを嫌う。それまでも1リットルのペットボトルはあったが、品ぞろえとして根付いていなかった。その理由の1つに「陳列がしづらい」ということもあったのではと筆者は考えている。

 そういう現場の声と商品の売れ行きを踏まえてか、メーカーが次に考えた1リットルのボトルは、高さは500ミリリットルのボトルと同じままで横幅を広げたのだ。

 実際、多くの店でこの形状のペットボトルが売り上げを大きく伸ばしたと聞く。入荷してもコンビニ側は陳列棚を調節する必要はない。500ミリリットルの商品の数を調整してスペースを空けるだけで済むので導入が早く、すぐに販売へ転じることができたのだ。

 また、お客さんにもメリットがあった。高さのある商品は持ち歩くのに邪魔になる。特に暑い夏は「たくさん飲みたいがバッグからはみ出るのはイヤだ」と考える人が多い。それまでの1リットルのボトルとは違い、横幅は広くなってもバッグに入れたときにはみ出ないこの形状がウケたようだ。

 現在ではこの形に限らず、さまざまな1リットルサイズのペットボトルがあるが、どれも500ミリリットルと同じ高さを意識した形になっている。

●商品の大きさは入荷にも影響する

 飲み物だけではない。他のカテゴリーにおいても、商品の大きさや形状は売り上げに影響する。

 先にも述べた通り、カテゴリーによって大きさはある程度決まっているので、平均の大きさより小さ過ぎても大き過ぎてもそのカテゴリーからはみ出てしまうことになる。同じカテゴリーのすぐそばに置いてくれるならまだいいが、コーヒーのペットボトルの例のように全く関係のない場所に置かれてしまう可能性もあるのだ。

 そういう事情を知っていたのか、それとも偶然なのかは分からないが、伊藤園の「お~いお茶」のパッケージはよくできている。

 箱の面ごとにパッケージの印刷を変えていて、縦に置いても横に置いても商品の顔がちゃんと見えるようにできているのだ。大きな箱ではないが、棚の広さに余裕があれば横向きで、狭ければ縦に置けばいい。コンビニの「すき間を嫌う」という性質をよく理解している商品だと思う。

●現場の悩みを解消するような工夫

 商品を陳列する場所とカテゴリーはチェーンによって異なるが、1つの棚に並べるカテゴリーに大きな差はない。コンビニの棚は一昔前よりも高くなっているので、最上段に置かれる商品カテゴリーは、サイズが小さすぎるとお客さんの目に止まらなくなる恐れがある。

 たかが商品の大きさと思うなかれ。消費者にアピールする商品の形状やパッケージももちろん大事だが、店に並べられなければ意味がない。コンビニは新商品を積極的に取り入れる商売ではあるが、仕入れを決めるオーナー店長が「この商品はあそこにすぐ置けるな」と思ってくれれば導入は早いが、「ああ、この大きさだと棚の位置を調節しないといけないのか……入れても面倒だな」と思われてしまうと入荷の段階でつまづいてしまう。

 コンビニ店員の多くは「メーカーは新商品を開発する際、コンビニの棚のことも考えてもらいたい」と考えているはずだ。現場の苦労を解決すれば、ひょっとしたらヒット商品につながるかもしれない。メーカーのみなさま、ご参考までに。

(川乃もりや)

最終更新:10/5(水) 7:45

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