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上野耕平、“歌よりも歌える楽器”サクソフォンで紡いだ銀座の夜/コンサートレポート

MusicVoice 10/5(水) 11:10配信

 若きサクソフォン奏者の上野耕平が9月29日、東京・銀座王子ホールで『上野耕平サクソフォン・リサイタル CD発売記念コンサート』を開催した。自身2枚目となるアルバム『Listen to...』の発売を記念したコンサート。ピアノ奏者に山中惇史を招き、サクソフォンとピアノによるハーモニーを響かせた。大曲「ビゼー:カルメン・ファンタジー for サクソフォン」などアンコール含め全9曲を、サクソフォンの可能性をさらに広げる上野耕平の美しい音色で観客を魅了した。

【写真】コンサートのもよう

■3本のサクソフォンを使い分け表現

 開演を知らせる鈴の音がホールに鳴ると、会場は徐々に暗転。テナー、アルト、ソプラノと3本のサクソフォンを抱えた上野耕平と、ピアニストの山中惇史が笑顔でステージに登場した。大きな拍手で迎えられると、ムソルグスキーの「モスクワ川の夜明け ~歌劇《ホヴァンシチナ》」でコンサートの幕は開けた。

 アルトサックスの優しい音色が王子ホールに響き渡り、上野は楽曲の抑揚に合わせ体を揺らしながら演奏。高音域でのビブラートが切なさを、音の消え際には儚さを演出。この「モスクワ川の夜明け」は同アルバムの収録曲で、上野が中学生の頃に同曲を聴き“サクソフォンで吹きたい”と思った想い入れのある曲だという。そんな憧れまでもが伝わってくる好演奏に耳を奪われる。

 続いて披露されたのは、シューマンの「アダージョとアレグロ」。原曲はホルンのために作られた楽曲を、上野はテナーサクソフォンで表現していく。大きく息を吸い込み、テナーサクソフォンに息吹を入れると、安心感のあるトーンがホールを包み込んだ。アルトサクソフォンとはまた違った音色に心が惹き込まれていく。

 上野の存在感がある大きなメロディラインの隙間を、山中のピアノのクリスタルのように透き通った音色の旋律が縫っていく。時に寄り添い、時に後押しするようにわびさびのある、優雅なサウンドで序盤のアダージョセクションを展開。中盤からエンディングにかけてのアレグロのセクションでは激しくも叙情的な演奏で観客を魅了した。

 1部の最後となる楽曲は、ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」。この楽曲は3本のサクソフォンを使い分け、趣を変えながらサクソフォンで歌い上げていく。同じ奏者が種類を変えて演奏することによって楽器の特色がよくわかる。イントロの低音から高音に滑らかにポルタメントした駆け上がりによってグっと耳を惹きつける。注目はこの曲のために持ってきたというソプラノサクソフォンのクリスピーなサウンドが心地よく耳に入ってくる。

 そして、軽快な山中のピアノ伴奏に、上野の脈を打つようなスタッカート奏法などでダイナミックに盛り上げていく。ちょっとした音の長さが躍動感を変えてしまうほどの繊細な演奏に聴くものの胸を熱くさせる。時には小鳥のさえずりのような可愛らしい音色や、打って変わって速いパッセージで高揚感を煽ったりと、15分もある曲ではあるが、長さを感じさせないアレンジと演奏に時が経つのも忘れてしまった。

■サクソフォンは歌よりも歌える楽器なのではないかと思った

 第2部は、バザンの「ロマンス ~歌劇《パトラン先生》」でスタート。8月24日にリリースされたアルバム『Listen to...』のレコーディングするまでは知らなかったといい「こんなに美しい曲があったのか」と驚いたという。フェードインしてくるアルトの音色によって、雄大な山々に囲まれ、湖のほとりにいるような錯覚に陥った。目を閉じればそこは異国の地。そんな空間をも操ってしまう音楽の力に酔いしれる。みずみずしい演奏は聴くものの心を豊かにしてくれる。

 そして、日本でも馴染みのある楽曲、ドヴォルザークの「家路 ~交響曲第9番《新世界より》」を披露。懐かしくも温かいメロディが会場を包み込んだ。上野はこの楽曲を聴くと地元の土の香りを思い出すという。ピアノの和音が絶妙な間で響く。そこからノスタルジックで哀愁漂うメロディが安らぎを与えてくれた。我々にも馴染み深い楽曲、歌詞が頭の中で再生されたのは自分だけではないだろう。アルトサクソフォンの音色が夕方の景色を運んでくるようだった。

 続いては、リムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」。編曲家の網守将平氏によって“ヘンタイ”に仕上がったと語った。この楽曲は速いフレーズが特徴的で、上野と山中もメトロノームを使用しテンポを少しずつあげていき、毎日5時間練習したという難曲。様々な奏法を駆使し、サックスの表現の限界に挑戦した楽曲に、上野、山中の指先に観客の視線が集まる。サクソフォンとピアノによる緊張感あふれる演奏。演奏が終了した後の2人の笑顔が印象的であった。上野は「最高なアレンジにして頂いて幸せです」と喜びを語った。

 第2部・本編最後はビゼーの「カルメン・ファンタジー for サクソフォン 」を披露。山中のアレンジで約20分にも及ぶ大作に仕上がった楽曲。MCで山中が「当初は15分ぐらいで納めるつもりだったけど、あれもこれもと入れていったら19分ぐらいになってしまった」と裏話を明かした。そして、上野はこの楽曲を吹いてみて「サクソフォンは歌よりも歌える楽器なのではないかと思った」とそのサクソフォンの持つポテンシャルと魅力を嬉しそうに語った。

 力強いピアノの音色からフラッシーなサクソフォンのフレーズが奏でられる。生き生きとしたリズム。花びらが舞い散るかのようなメロディー、サクソフォンとピアノが対話するかのように次々とシーンを変え観客を楽しませてくれる。壮大なスケールの楽曲から感じ取れたのは人生そのもののようであった。喜怒哀楽や四季折々、山あり谷ありなど刻々と時を刻んでいく。上野もコメントしていたように、オペラを一本観たかのような充実感を与えてくれた。サクソフォンとピアノという2つの楽器によって紡がれた「カルメン・ファンタジー」という物語はあっという間に終幕を迎えた。観客からの大きな拍手がそれを証明していた。

 鳴り止まない拍手の中、何度もお辞儀をし感謝を伝える上野と山中。アンコールに応え、足にタンバリンを装着した上野が登場。J.シュトラウス2世の「チャルダーシュ ~歌劇《騎士パズマン》」を届けた。タンバリンでアクセントを強調したことにより、躍動感に変化が訪れる。上野のパワフルなステップと山中の美しいピアノ、そこに情熱的なサクソフォンの旋律が絡み合う。

 ラストはアルバムにボーナストラックとして収録されているモリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス・メドレー」を演奏。懐かしい馴染みのあるフレーズによって心が癒されていくようだった。なんとも人間味のある美しいサクソフォンの倍音、そして、多彩な表現力など、新たな発見が垣間見れたコンサートの幕は閉じた。

 “歌よりも歌える楽器”サクソフォン、まさにそれを体感できた。ダイナミクス豊かに空気を震わせ、サクソフォンから放たれる波動が体に浸透してくるようだった。この先、若き奏者はサクソフォンのどのような可能性を聞かせてくれるのか楽しみな一夜となった。

(取材・村上順一)

■演奏曲目

上野耕平 9月29日 銀座王子ホール

1部

ムソルグスキー:モスクワ川の夜明け ~歌劇《ホヴァンシチナ》
シューマン:アダージョとアレグロ
ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー

2部

バザン : バザンのロマンス ~歌劇《パトラン先生》
ドヴォルザーク:家路~交響曲第9番《新世界より》
リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行
ビゼー :カルメン・ファンタジー for サクソフォン

アンコール

J.シュトラウス2世:チャルダーシュ ~歌劇《騎士パズマン》
モリコーネ:ニュー・シネマ・パラダイス・メドレー

■コンサート情報

10月15日 アークヒルズ音楽週間2016 スペシャルコンサート
Presented by 「題名のない音楽会」会場:アークカラヤン広場(東京)
10月22日 上野Coffee 会場:G-Callサロン(東京)
10月28日 東急プラザ銀座×Bunkamura SPECIAL PROGRAM(秋)
反田恭平ピアノコンサートwith上野耕平
 会場:東急プラザ銀座6F KIRIKO LOUNGE(東京)※予定枚数終了
11月8日 Kitara Club会員限定コンサート 反田恭平×上野耕平デュオコンサート
会場:札幌コンサートホールKitara大ホール(札幌)
12月3日 オーチャードブラス! 第1回~カリスマと若き精鋭たちの共演~
ぱんだウインドオーケストラ 会場:Bunkamuraオーチャードホール(東京)
12月7日 りゅーとぴあ 1コインコンサート2016~ランチタイム・コンサート~
会場:りゅーとぴあ(新潟)
12月14日 浜離宮ランチタイムコンサートvol.155 上野耕平サクソフォン・リサイタル会場:浜離宮朝日ホール(東京)

最終更新:10/5(水) 11:10

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