ここから本文です

電力会社を救済する新制度、火力発電の投資回収と原子力の廃炉費用まで

スマートジャパン 10/6(木) 11:25配信

 電力システム改革の最大の目的は、旧来の電力会社を中心とする硬直的な産業構造を崩し、多数の新規参入事業者が競争できる自由で公平な市場環境へ移行することにある。企業や家庭が使う電力の選択肢が増えて、競争によって電気料金も下がる。政府が推進する施策は自由競争を促すものであるべきだが、その目的に見合わない新制度の検討が進んでいる。

【その他の画像】

 1つは火力発電を対象にした「容量市場(容量メカニズム)」の導入だ。政府の委員会で検討中の卸電力取引所の改革案には、原子力発電の電力の取引を可能にする「ベースロード電源市場」や「非化石価値取引市場」と並んで、「容量市場」の創設が組み込まれている。

 従来の電力取引は発電量で売買する方式だが、容量市場では発電設備の容量(最大出力)で取引する。たとえ発電設備が稼働していない状態でも、発電事業者は容量に応じて一定の売電収入を得られる仕組みだ。

 容量市場が創設されると、火力発電の稼働率が低下しても初期投資(固定費)を回収しやすくなる。その分のコストを小売電気事業者や送配電事業者が負担することになり、電気料金を上昇させる要因になる。

 なぜ容量市場を作らなくてはならないのか。その理由として、委員会を主催する資源エネルギー庁は太陽光発電や風力発電の増加を挙げている。太陽光と風力の発電量は天候によって変動するため、電力会社は火力発電の出力を調整しながら需要と供給のバランスをとっている。

 ところが太陽光や風力などの再生可能エネルギーが今後さらに増えていくと、火力発電で供給する電力が減って稼働率が低下してしまう。固定価格買取制度で売電収入が長期に保証されている再生可能エネルギーに対して、火力発電は稼働率によって売電収入が大きく変動することから、初期投資を回収できなくなるおそれが高まるわけだ。

 こうした状況を回避するために、火力発電の売電収入を発電量だけではなくて発電設備の容量でも得られるようにする。これが容量市場を創設する狙いだ。実際に容量市場の対象になる発電設備の条件をどのように設定するかによって、恩恵を受ける事業者は変わってくる。既設の火力発電所を対象に含めた場合には、電力会社が最大の恩恵を受けることになる。

廃炉費用を託送料金で回収する新制度も

 もう1つ検討中の新しい制度は、原子力発電所の廃炉費用の負担に関するものである。国内には建設中の3基を除いて合計57基の原子力発電設備がある。このうち事故を起こした東京電力の「福島第一原子力発電所」を含めて15基の廃炉が決まっている。さらに今後も老朽化した原子力発電所の廃炉が増え続ける。

 原子力発電所の廃炉には通常のケースで30年近い期間と1基あたり500億円以上の費用がかかる。廃炉の処理が広範囲に及ぶ福島第一では全体で2兆円の廃炉費用を想定していたが、さらに増大することが確実な状況だ。これだけ巨額の費用を電力会社は電気料金で回収できる仕組みになっている。

 さらに2013年に実施した廃炉会計制度の改正によって、廃炉の費用を長期に分割して回収できるようになった。電力会社の経営に大きなインパクトを与えずに廃炉を進めるための措置だが、ここで問題になるのが長期間にわたって電気料金で費用を回収する方法だ。

 電力会社が確実に廃炉の費用を回収できる方法として、送配電部門が事業者から徴収する託送料金(送配電ネットワークの使用料)に上乗せする案が浮上している。これまで託送料金は小売電気事業者が負担してきたが、2020年度から発電事業者も負担する形に変わる見通しだ。

 送配電ネットワークは発電事業者と小売電気事業者の両方が利用することから、両者で費用を分担する形になる。どちらにしても最終的には電気料金に反映されるが、そこに原子力発電所の廃炉費用を上乗せすると、当然ながら電気料金は上昇する。

 本来は原子力発電所を所有する電力会社の発電部門が負担すべき費用を、他の事業者の電力を利用する需要家にまで負担させようという内容だ。原子力に反対する国民からの反発は必至で、具体的な制度の設計には相当の議論を必要とする。

電力会社には「グロス・ビディング」を求める

 この新制度を実施するのと合わせて、「グロス・ビディング(gross bidding)」と呼ぶ制度の導入も検討することになる。電力会社の発電部門と小売部門が直接に電力をやりとりせずに、卸電力取引所を通じて電力を売買する。英国や北欧で導入している制度で、大量の電力を供給する電力会社がグループ内で有利な条件で取引できないようにするための措置である。

 2020年4月に実施する発送電分離は厳密には「送配電部門の中立化」である。電力会社は送配電部門を別会社として分離する必要はあるが、発電部門と小売部門を一体のまま事業の運営を継続することが可能だ。発電部門がスケールメリットを生かしてコストの安い電力を作って、小売部門に優先的に供給できる。

 特に原子力で発電した電力は燃料費だけで比較すると、火力発電よりもコストが低くなる。電力会社が低コストの電力をグループ内に供給する一方で、燃料費以外に発生する巨額の廃炉費用や使用済み燃料の処理費用を他の事業者にも負担させることは明らかに不公平である。

 そこで廃炉費用を広く託送料金で回収する代わりに、原子力で作った電力は卸市場に供出して売買することを義務づける。電力会社の小売部門は発電部門が原子力で作った低コストの電力を独占して調達できなくなる。グロス・ビディングを実施することで、原子力に伴う不当な競争状態を回避する狙いだ。

 政府は電力システム改革を貫徹する施策の1つとして「ベースロード電源市場」の創設を検討している。石炭火力や原子力など大量の電力を安定して供給できるベースロード電源を対象にした取引市場である。この市場を創設したうえで、電力会社にグロス・ビディングを義務づける方法が考えられる。

 電力会社は原子力によるコスト面のメリットを享受できなくなる。一方で小売電気事業者は市場を通して安いコストで電力を調達できるものの、原子力による電力を取り扱えば利用者から敬遠されるリスクがある。日本の電力市場で原子力を含めた形のグロス・ビディングが効果を発揮するかは疑問だ。

 とはいえ原子力の廃炉費用を託送料金で回収するためには、同時にグロス・ビディングの導入は避けられないだろう。もはや国民から見て必要性が薄れた原子力を無理やりに推進しようとする政策の矛盾が露呈し始めた。「国策民営」の原子力発電の限界が近づいている。

最終更新:10/6(木) 11:25

スマートジャパン