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本が売れない時代に本を置く異業種店が増えているのはなぜ?

ITmedia ビジネスオンライン 10/6(木) 6:33配信

 最近の繁盛店には業種の垣根を超えてある共通項があることが分かりました。それは「本」です。

【異業種で本を売る主な店舗一覧】

 店作りが進化する中でなぜ今、本なのか。今回は、本を置く店が増えている理由から、これからの消費者マーケティングトレンドを考えます。

●本が売れない時代になぜ本なのか?

 アパレルのセレクトショップ、住関連の家具や雑貨の店、子ども服の店、カフェ、バー、飲食店にいたるまで、最近の繁盛店に行くと必ずと言っていいほどそこには本があります。

 本を店に置くこと自体は珍しいことではありません。昔から店内に本をディスプレイしたり、インテリアとして置いたりすることはよくありました。本を置いておくとイメージがいいからという理由で、高級感を演出したいブランドショップなどで洋書や辞書、海外の写真集などをディスプレイしているのを目にしたことがある人も多いでしょう。

 しかし最近見掛ける店は明らかに「本を売るため」に置いています。棚を置き、在庫を持ち、1つの商品カテゴリーと位置付けて売場の中に陳列しています。本はそれほど売り上げにつながる魅力的なアイテムなのでしょうか。

 本そのものはいまや成熟した商品であり、出版不況で販売数も減少の一途をたどっているのが実態です。出版指標年表2014(公益社団法人 全国出版協会)によると、すべての書籍関連は年々減少傾向にあることが分かります。

 出版関係の調査研究をする出版科学研究所(東京・新宿)によると、2015年の紙の出版物市場は14年比で5.3%減の1兆5220億円と試算しています。減少率は1950年に調査を始めてから過去最大。文芸書などでミリオンセラーも出た書籍は比較的好調で2014年比で1.7%減の7419億円ですが、一方の雑誌は同8.4%減の7801億円と大きく落ち込んでいます。大手出版社も長年続けてきた老舗雑誌の休刊や廃刊を次々と発表するなど、雑誌はかなり厳しい状況のようです。

 紙の出版市場はピークの1996年から4割以上縮小し、出版社と卸である取次会社、販売する書店の三者が中心となる出版流通網が弱体化しているのが実態です。新規出版点数は増えていますが、売り上げは減少しています。まさに出版不況。成熟商品の代表格が本なのです。

 近年はネットの普及で電子書籍が増え、書店も廃業や閉店など苦戦を強いられています。2014年度で全国の書店数は1万3943店舗。1999年に2万2200店舗あった店舗数から9000店舗ほど減少しています。年間600店舗ずつ減少していますから、毎日約2店舗が閉店していることになります。

 この数字だけ見ると「本はもう終わっている」となるわけですが、今は「イケてる店」、「繁盛している店」には本があるというのが定番になっています。これは書店での売り上げが厳しいので新たな販路を開拓して広がったわけではありません。どちらかと言えば小売店側からぜひ本を置きたいと、新たな品ぞろえの1つとして考えているのです。

 異業種の店が本を置くようになったのはなぜでしょうか。

●本で回遊性を高める無印良品

 今までなら「こんなところに本?」というような意外な場所で、本が置かれるようになっています。

 ざっと挙げただけでもこれだけの店が本を置くようになっています。

 では、それぞれの企業は本をどのような位置付けでとらえているのでしょうか。図表内のいくつかの店舗を見てみましょう。

 東京・有楽町にある「無印良品 有楽町店」は、無印良品として最大の売り場面積を持ちます。この店には2Fにつながる木製の書棚があります。店の書籍売り場「MUJI BOOKS」には、約2万冊の本が並んでいます。従来の無印良品の売場にも本はありましたから違和感はないのですが、その書籍在庫数の多さには驚きます。「食」や「生活」といったテーマを中心に本を品ぞろえし、中には小説や実用書、写真集もあります。本の近くには関連した雑貨を置くなどして売場内の商品の連動性を作っています。

 同社によれば、「本は商品の製造過程や素材のこだわりを伝えられる最高のメディア」とのこと。本があることによって無印良品が品ぞろえする衣料品や家具、家電、雑貨などの売場を回遊してもらうことができるという仕掛けです。

 来店客が普段はそのまま通り過ぎてしまうところを、本があることで商品に気付いてもらえる効果もあるのです。来店客の回遊性を高め、関連購買を促し、結果として客単価を引き上げる役割を本が果たしていると言えます。私が店頭で見ているときも3人に1人くらいが本をきっかけに店内の商品へと誘導されていました。例えば、料理関係の本をきっかけに鍋を見るなど、関連購買へとつなげるフックになり、本が客単価アップの一因になっています。

●CCCがきっかけに

 アパレルと雑貨を扱う「ニコアンド(niko and…」が2014年秋、東京・原宿にオープンした旗艦店「ニコアンドトーキョー」には書籍コーナーがあります。

 そこには作家・三島由紀夫の著書など約2000冊が並んでいます。同店はもともと衣料品に大胆に雑貨を加えることで成長してきた業態です。本を置くことによってその世界観にさらなる広がりが出ているように思います。「モノがあふれ、リアルな店舗では本当に必要なモノを見つけるのが難しい」(同社)ため、本があることで新しい発見をして購買につなげる効果があるのです。

 横浜・みなとみらいにある「マリン アンド ウォーク ヨコハマ」という商業施設に入っている店舗はライフスタイル提案をしている店が多いのですが、中でもフレッド シーガルやトッドスナイダーといった店は本を提案しています。

 旅行代理店大手のエイチ・アイ・エスは、2015年秋に東京・表参道の店を旅行相談窓口やカフェと併設して本を売る店、「旅と本と珈琲とOmotesando(表参道)」にリニューアルしました。店内には旅行とは別にカフェで本を楽しむ人も多く、結果的に新規顧客の集客に一役買っているようです。

 こうした店が増えるきっかけになったのが2011年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が開発した「代官山T-SITE」です。コーヒーを飲みながら、店内の椅子でゆったりと購入前の本が読めます。本を買うだけでなく、本がある雰囲気を楽しめる空間です。そこにはジャズレストランのブルーノートと協業して作ったラウンジや、スターバックスと一体になった空間、コンシェルジュがいる旅行カウンターまであります。

 本を中心とした新たな複合提案が、世の中のさまざまな業態開発のきっかけとなったのです。「これこそライフスタイル提案である」というきっかけを与えた店。それがCCCのT-SITEなのです。その後も二子玉川 蔦屋家電や大阪の枚方T-SITEなどを開発して話題になっています。

 本そのものは既に時代遅れ感のあるコンテンツとなっている節もあるのですが、店の品ぞろえの一環、空間演出の1つとして考えると、まだまだ非常に使い勝手の良いコンテンツです。人々が行きたくなる店を作ろうと思うと、ライフスタイル提案に直接つながったり、自分の求めるスタイルに気付かせてもらえたりする、とても効果的なアイテムになのです。

 先日、CCCの増田宗昭社長にお会いした際に興味深いお話を伺いました。「実はこのT-SITEの構想は1983年に創業したときから温めていたものだった」と言うのです。

 「(レディスファッション小売業の鈴屋に勤めていた時代に)ファッションを通じてのライフスタイル提案の限界を感じていました。すべての商品はファッション化していく。これからの時代は自分のスタイルを実現できるものやコトに人の興味は流れていく。自分の生き方やライフスタイルを見つけられるような店にこそわざわざ行く価値が生まれる。これこそが店の役割ではないかと思ったのです」

 増田社長のこの発想こそがTSUTAYAのライフスタイル店舗の核となる部分です。最近では図書館もカフェを導入するなどして今までのイメージとは異なる空間になっていますし、バーやカフェでも本格的に本を置く店が増えています。渋谷や表参道にある「森の図書室」(森俊介・図書委員長)などはその人気に火をつけた一例でしょう。

 書店数は減少の一途をたどっているのですが、実は図書館は1990年から2011年の間に1324館も増えています。これに大学の図書館などを加えると全国に5000館もあるそうです。

 本は今も「知的イメージ」を持ったコンテンツです。本を揃えるとそうした印象を与えるというのは店にとっても大きなブランディング要素です。

 本を売場に上手に取り入れていくと、空間に深みが出て、さらにライフスタイル提案をしやすくなるという点で、本のもたらす効果は大きいのです。今後は不動産業界でも、例えば、賃貸店舗の半分は書籍とカフェという店も出てくるでしょうし、コンビニでも本を圧倒的に強化した店が登場するかもしれません。本はさまざまな業態や空間でまだ利用価値のあるコンテンツなのです。

 出版社や取次会社も積極的に異業種へ働き掛けることで、本の売り上げを伸ばすことはできるかもしれません。さらに言えば、全国の書店がそれぞれの独自性に磨きをかけて、本を通じたライフスタイル提案や、異業種とのコラボレーションへと舵を切ると、生き残る方法はまだいくらでもあるのではないでしょうか。

 本というコンテンツは、我々の想像を超えた価値を備えたものです。出版に限らず成熟業種で働くビジネスパーソンの方々は、今回の事例を参考に新たなビジネスのヒントをつかんでいただきたいと思います。

(岩崎剛幸)

最終更新:10/6(木) 6:33

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