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新卒一括採用が「若き老害」を生み出している

ITmedia ビジネスオンライン 10/6(木) 21:41配信

(常見陽平)


●職場で話題になる「○年入社組」問題

 日本人は「○年組」というくくりが大好きだ。アイドルの世界では、「花の1982年組」という言葉がある。松本伊代さん、堀ちえみさん、三田寛子さん、小泉今日子さん、石川秀美さん、早見優さん、中森明菜さん、伊藤さやかさん――などがデビューした。また、宇多田ヒカルさん、椎名林檎さん、aikoさん、浜崎あゆみさん、MISIAさん――など大型新人が多数デビューした年は日本人女性ボーカリスト界で「花の1998年組」と言われた。

【採用テーマは毎年変わる】

 しかし、私たちがこの「○年組」という表現をよく耳にするのは、むしろ企業においてである。最近では、西暦の桁を利用し「イチロク組(2016年入社)」のように呼ばれることもある。

 10月、企業では内定式が開かれる。今年は1日が土曜日なので、3日の月曜日に開いた企業も多かったようだ。新卒一括採用という慣行のある我が国らしい光景である。この慣行もまた「若き老害」(20代後半~30代前半で老害化している社員のこと)を生み出す原因の一つである。「○年入社組の同期」を作り出すこのシステムが、「若き老害」の誕生を助長しているのだ。

 新卒一括採用というこの慣行自体、定義が揺らぎつつあり、対象も多様化しているのだが、基本的には未経験の新卒者を定期的に組織に迎え入れる行為のことを指す。毎年、一定の時期に社員が入社してくるが故に、「○年入社組」という表現が生まれる。

 よく批判される新卒一括採用だが、一定の時期に人をまとめて採用し、トレーニングできるという意味で合理性がある。企業の文化に染めやすいのもメリットだ。

 また、都度スポットで採用するよりも、数十人、数百人とまとめて採用するが故に同期内で多様性が生まれやすい。「何人かは変わり者をとっておけ」「あまり賢くなくてもガッツだけで勝負するタイプも入れておこう」という話になるからである。

 「同期」が形成されるのも、この慣行の特徴だ。同期内での仲間意識と競争が促される。その企業に内定した時点から、内定者の研修や懇親会などが多数開催され、同期意識が醸成される。

 このように、新卒一括採用は同期というつながりをつくる慣行だとも言えるのだ。

●なぜ、毎年「今年の新人は生意気」なのか

 「今年の新人は生意気だ」――これまたよく社内で発せられる言葉である。思えば、私も会社員時代はこのような言葉を叩きつけられたことがあったし、いつの間にか後輩に対して、そんなことを言っていた。採用担当者をしていた頃は、社員がそんな言葉を発している様子を見聞きした。お叱りの声も頂いた。「人事は、何をやっているのか」と。

 この「今年の新人は生意気だ」問題は、なぜ起こるのだろうか? 一般論として語られるように、世代間のギャップなどに起因する問題でもある。これは、人事部の採用戦略によってもたらされるものでもあるのだ。

 新卒一括採用という慣行のもとでは、毎年、採用戦略は変わる。求人倍率、就活の時期など、採用市場は毎年変わる。ビジネスモデルの変化、戦略的に投資する事業の変化などが起こり、求める人物像は変化する。このように、外部、内部の変化により、年度ごとに採用テーマは変わる。昨年よりも優秀な人材を採ろうと努力するのが、採用担当者の習性である。求める人材は毎年、高度化していく。故に、毎年やってくる新人はいかにもその企業に合ってそうな人材でありつつも、どこか生意気になりえるのである。

 もっとも、採用戦略をたてたところで、その通りに採用できるとは限らない。直近のデータを見てみよう。リクルートワークス研究所の調べによると2017年4月入社、つまり現在の大学4年生の代の新卒の求人倍率は1.74倍である。新卒の求人倍率は1.6倍を超えると売り手市場水準だと言える。リクルートキャリア社の調べによると、2017年卒の就活生は8月1日時点で2.4社の内定を持っている。

 入社する企業は1社だけなので、内定辞退が発生するわけだ。ここ数年、この内定辞退が深刻になっている。採用戦略は毎年変わるが、その戦略通りに採用が成功するとは限らない。高い目標を掲げても上手くいかない年もある。

 入社人数というのも、世代間闘争を促すものである。大量採用を行った年などは、同期もその分多いため、妙な影響力を持ったり、老害化するものである。

 個人的には「今年の新人は生意気だ」という声が出るのは、実は採用が上手くいった年だと思っている。もちろん、基礎力も潜在能力も高くないのにも関わらず、生意気なのは問題だが、「扱いづらい」という意味での生意気さなら歓迎すべきである。

 このように、その年度の採用戦略、そして、採用が上手くいったかどうかによって、「○年入社組」というものが作られ、世代間での競争が起こっていくのである。入ってきた生意気な、今までとは違う若者を見て、思わずマウンティングしたくなり、「若き老害」化してしまうのだ。

●その企業に「いつ入社したのか」問題

 もう一つ、期による世代間格差が生まれる原因に、その企業に「いつ入社したのか?」という問題がある。その企業の業界内シェア、規模、見え方は、入社時期によって変わってくるからだ。

 例えば上場したメガベンチャーなどは、従業員にとっての捉え方が入社した時期によって大きく変わる。黎明期から入社した者は、会社の歴史を知っているし、自分が功労者であるという認識すらあるだろう。一方、規模が拡大した後や、上場した後に入ってきたら「大企業に入った」という認識になってしまう。

 このあたりの見せ方のさじ加減は、経営者も人事部も悩むポイントである。創業期からいる40歳くらいの者は世間からみると、若くして出世した風だが、社内ではすっかり老人、リアル老害だ。上場してから入社してきた者も、“選ばれ者感”を醸し出して若き老害化し、上に噛みつき、新人たちをマウンティングする。

 企業によっては人手が足りず、誰でも彼でも採用していた時代だってある。採用力が弱く、第一志望に落ちた者ばかりを拾っていた時期だってある。その時期に採用された人は、劣等感と、会社を成長させたという自負が同居している。のちに世界シェアトップになった企業でも、業界シェアなどが上がる前に入った者は「ここしか行くところがなかった」という気持ちと、「俺がこの企業を大きくしたのだぞ」というドヤ感が同居する。そのリアル老害に対して、この企業に選ばれたというマインドで入ってきた若手が、若き老害化し、やはり上にかみつき、下の世代をマウンティングする。

 もちろん、これは当たり前のことではある。会社の中での入社した期による違いはこのようにして生まれるというのは一般論だ。また、新卒一括採用は昔から存在する手法だ。

 しかし、近年ではビジネス環境の変化が激しくなったことで、期によって大きな違いが生まれやすくなっている。いまの世代の若者(30歳前後)は昔以上に自分の生き残りに対する不安が大きく、そのため、ついついマウンティングしてしまい「若き老害」になってしまうのだ。

最終更新:10/7(金) 10:43

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