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年内為替相場を占う3つの注目点~金融市場の動き(10月号)

ZUU online 10/7(金) 19:20配信

■要旨

◆トピック

年内のドル円相場を考えるうえでの材料を点検すると、まず日銀の影響力はかなり限定的になる。日銀の追加緩和余地はもはや限られているうえ、手段としてもマイナス金利の深堀りが主体となるとみられ、円安を促す力は殆ど残っていないためだ。従って、注目点は海外材料となり、特に注目すべき点は米大統領選、米利上げ、原油相場の3つと考えている。

大統領選については、トランプ氏が大統領選に勝利すれば円高に、クリントン氏が勝利すれば円安に振れるだろう。利上げについては、基本的には12月利上げの場合はドル高要因、見送りの場合はドル安要因になるが、利上げの副作用への警戒が高まれば、円高になるおそれもある。

また、来年以降の利上げペースへの見方も重要になる。原油価格については、下落すると市場がリスク回避的になり、円買いが進む。以上の注目点を踏まえた筆者の年内の見通しは3つの時間帯に分かれる。

まず、大統領選までは一進一退の推移が続く。その後12月FOMCにかけては、大統領選でクリントン氏が勝利したことでドルが買いやすくなるうえ、利上げが一段と意識されることで最大1ドル107円~108円程度まで円安ドル高が進む。

12月FOMC後は、利上げ決定と同時に今後の利上げは慎重に進めるメッセージが発信されることで、利益確定のドル売りが入ることなどから、年末は105円程度で着地するとの見立てだ。なお、原油相場については、利上げに伴って一旦調整が入る可能性が高い。影響は限定的ながら、原油価格調整を通じて円高圧力が高まる局面も想定される。

◆日銀金融政策

日銀は9月会合において、総括的な検証を実施、金融緩和の新しい枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。緩和の持続性は高まったが、手詰まり感は払拭できていない。しばらくは緩和手段を温存するだろう。

■トピック:年内為替相場を占う3つの注目点

ドル円相場は、米国の経済指標改善を受けて、年内利上げが再び意識されていることなどからじわりと円安が進み、直近では一時1ドル104円台を回復した。ただし、7月終盤からは概ね100円から105円のレンジを行ったり来たりしており、方向感が定まらない展開が続いている。

今年も残すところ2ヵ月を切ったが、まだいくつかの大きな材料が控えている。年末までのドル円のポイントを改めて整理し、相場の展開を考える。

◆3つの注目点

まず、今後のドル円相場を考えるうえで、日銀の影響力はかなり限定的と見てよいだろう。日銀は9月に緩和の枠組みを変更したが、追加緩和は見送り、緩和の持続性を高めたに過ぎない。日銀の追加緩和余地はもはや限られているうえ、手段としてもリスク回避の円買いを誘発しかねないマイナス金利の深堀りが主体となるとみられ、円安を促す力は殆ど残っていない。

実際、今年に入ってからの日銀決定会合後のドル円レートは、一度も円安基調が続いたことはない。9月の緩和の枠組み変更後も円安反応はわずか数時間しか続かず、日銀の手詰まり感が市場に浸透しているとみられる。

また、年内という時間軸では、追加緩和余地が限られる中で、日銀は手段をなるべく温存するとみられ、滅多なことでは動きそうに無い。基本スタンスは様子見だろう。

したがって、今後の年内相場を考えるうえでは、主に海外材料が注目点となる。足元ではポンドが急落するなど、様々な材料が存在するものの、特に注目すべき点は3つと筆者は考えている。具体的には米大統領選、米利上げ、原油相場である。

(1)米大統領選

まず、目先の注目点は11月8日に実施される米大統領選になる。民主党のクリントン氏も共和党のトランプ氏も共にドル安志向とされるが、筆者はトランプ氏が大統領選に勝利すれば円高に、クリントン氏が勝利すれば円安に振れると予想している。

トランプ氏が勝利すれば、(1)米国経済の先行き不透明感が格段に強まるほか、(2)財源なき大規模減税によって米国の財政赤字が大幅に拡大するとの連想も働き、大幅なドル安圧力が発生するだろう。

一方、クリントン氏勝利については、既に市場は同氏の勝利をメインシナリオに置いているとみられ(そうでないなら、現状の堅調な米株価は説明できない)、同氏がドル安志向であることは織り込み済みであること、また、同氏はオバマ大統領の後継者と目されており、米国経済の先行き不透明感が払拭されることから、ドルが買いやすくなる。

9月下旬以降、1回目の大統領候補討論会と副大統領候補討論会が実施されたが、あと2回の大統領候補討論会が予定されており、まだ予断を許すような段階ではない。

(2)米国の利上げ

二つ目の注目点は米国の利上げだ。今年の残りのFOMCは11月2日と12月14日の2回だが、11月FOMCは大統領選の直前にあたるうえ、議長会見の開催されないタイミングであるため、利上げはまずないと見てよい。従って、12月に利上げが実施されるかどうかが大きな焦点となる。

FEDウォッチなどによると、直近での市場の12月利上げ織り込みは6割程度に過ぎないため、基本的には12月利上げの場合はドル高要因、見送りの場合はドル安要因になるが、利上げの副作用(新興国からの資金流出や資源安、人民元安など)への警戒が高まれば、リスク回避の円高になるおそれがある。

また、来年以降の利上げペースへの見方も重要になる。現在FRBメンバーの見通しでは、今年の1回の利上げに続き、来年は2回、再来年は3回の利上げが想定されているが、市場の織り込みは来年・再来年合わせても2回に満たない。この先行きの利上げ観測低迷が、米金利がなかなか上昇しない大きな理由となっており、ドル円の上値を抑制している。

(3)原油相場

そして、三つ目の注目点は原油相場だ。年初に原油価格が急落し、円高が進んだことはまだ記憶に新しい。今年のドル円相場において、原油価格の下落は円高要因となってきた。原油価格下落に伴い、それがもたらす悪影響への懸念から市場がリスク回避的になり、リスク回避の円買いが進むというのが、最も大きな波及経路だ。

また、米国は原油産業の存在感が大きいだけに、「原油安→米実体経済悪化→利上げ後ろ倒し」という連想が働くことも円高に繋がる。逆に、原油価格が上昇基調にある時や高値で一進一退の時間帯は、ドル円は底堅く推移してきた。

最近の原油相場は、米国で在庫減少が続いていることに加えて、9月28日のOPECによる減産合意というポジティブサプライズもあり、50ドル台に乗せている。ただし、9月に決まったのは、OPEC全体としての生産枠であり、利害が激しく対立する各国への割り当ては11月末のOPEC総会まで持ち越していることから、まだ最終的な合意に至るかはまだ不透明な状況にある。

◆ドル円相場の年内見通し

以上の注目点を踏まえた筆者の年内の見通しは以下のとおりである。

i)大統領選まで:米大統領選を控えた警戒感が燻り、一進一退の推移が続く

ii)大統領選~12月FOMC:米大統領選で現状優位に進めているクリントン氏が勝利し、米国経済の先行き不透明感が払拭されることでドルが買いやすくなる。さらにこの頃には12月利上げが一段と意識されることがドル高を促す。結果、最大で1ドル107円~108円程度まで円安ドル高が進む。この際、利上げを警戒して米株価が一時軟調になることがドルの上値を抑える。

iii)12月FOMC~年末:FOMCで利上げが決定されるが、同時に今後の利上げは慎重に進めるメッセージが発信されることで、利益確定のドル売りが入ることなどから、年末は105円程度で着地

なお、原油相場については、11月OPEC総会での最終合意は不透明ながら、合意に至らない場合には継続協議となることが予想され、原油価格の底割れは回避されると予想している。ただし、米利上げは原油価格の下押し材料となるだけに、利上げ前後には一旦調整が入る可能性が高い。影響は限定的ながら、「利上げ(観測)→原油価格調整→円高圧力の高まり」という局面も想定される(上記シナリオに利上げ後のドル円下落材料として織り込み済み)。

■日銀金融政策(9月):「総括的な検証」を受けて枠組みを変更

◆(日銀)金融緩和の枠組みを変更

日銀は9月20日~21日に開催された金融政策決定会合にて、事前の予告通り「総括的な検証」を実施した。

検証の中身は概ね予想された通り。まず、従来の量的・質的金融緩和の効果を前向きに評価し、物価目標未達の理由は外的要因(原油安・消費税率引き上げ・新興国経済の減速など)にあるとした。さらに、その外的要因がもともと「適合的な期待形成」(過去の物価状況が続くだろうという見方に引っ張られる)要素が強い日本の予想物価上昇率を押し下げたことが物価上昇を阻害したと結論付けた。

マイナス金利については、その効果を強調しつつも、マイナス金利によって生じたイールドカーブの低下・フラット化については、過度に進むことで金融機関収益圧迫を通じて金融仲介機能に悪影響を与える可能性がある点に言及。また、保険・年金の運用難や退職給付債務増加などを通じて、マインドに悪影響を及ぼす可能性にも言及するなど、その副作用を指摘した。

そして、この検証を受けて、金融緩和の新しい枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入された。具体的には、これまでの短期金利操作に加えて長期金利にも操作目標(ゼロ%程度)を設定する「イールドカーブ・コントロール」と、消費者物価上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を続ける「オーバーシュート型コミットメント」がその柱となる。

前者は長期・超長期金利が過度に低下することを防止する狙い、後者はより高い目標を掲げることで人々のインフレ期待を高める狙いがある。一方、量的緩和の主軸である国債買入れについては、現状程度の買入れペース(年間80兆円増)を「めど」としつつ、「金利操作方針を実現するよう運営する」と、操作目標から格下げした。日銀は事実上、限界のある「量」重視から「金利」重視へとシフトしたことになる。

なお、今回はマイナス金利の拡大といった追加緩和措置は見送ったが、声明文において、今後の追加緩和手段として、(1)短期政策金利の引き下げ、(2)長期金利操作目標の引き下げ、(3)資産買入れの拡大、(4)マネタリーベース拡大ペースの加速、の4つを具体的に挙げた。

黒田総裁は会合後の会見にて、イールドカーブ・コントロールを中心とする新しい枠組みでは、「経済・物価・金融情勢の変化に応じてより柔軟に対応することが可能」であり、「政策の持続性も高まる」と説明。長期金利の操作については、「短期金利と全く同じようにできるとは言っていないが、(中略)イールドカーブ・コントロールは十分にできる」と自信を示した。

一方、国債買入れ額については、「80兆円をまず固定するよりも、むしろ経済にとって1番好ましいイールドカーブを考え、それを実現できるような国債買入れをする」、「その時々の経済、物価あるいは金融情勢によって上下する」とし、将来の減額を否定しなかった。

物価目標の達成時期については、「最新の展望レポートでは、2017年度中ということになっているが、同時に様々な不確実性が大きい」とその不確実性に複数回言及したほか、「これはあくまでも見通しである」、「(日銀の)コミットメントは、できるだけ早期に2%の物価安定目標を達成すること」などとし、後ろ倒しが続く達成時期の曖昧化を図っている印象を受けた。

今回、日銀はいずれペースダウンせざるを得ないという点で限界のあった量的緩和重視から、金利重視の姿勢に転換したため、金融緩和の持続性は高まったと評価できる。ただし、今後の追加緩和策が限られているという点で、手詰まり感は払拭できない。

今回あえて長期金利を釘付けにしたことから、今後の追加緩和はマイナス金利の深堀りが主軸となるとみられるが、副作用を考えると多く見積もってあと2~3回(▲0.3~▲0.4%)が限度になりそうだ。しかも、マイナス金利を深堀りしても、副作用への警戒もあり、緩和効果(インフレ期待への働きかけ、円安誘導、投資促進など)は限られるだろう。

日銀としては、出来る限りマイナス金利の深堀りを温存しつつ、物価目標達成に向けた追い風が吹くまで、緩和を長期継続するスタンスを取らざるを得ない。急激な円高進行などの際にはマイナス金利の深堀りが実施される可能性はあるが、為替への効果は殆ど期待できない。

■金融市場(9月)の動きと当面の予想

◆10年国債利回り

●9月の動き 月初▲0.0%台半ばからスタートし、月末は▲0.0%台後半に。

月初、日銀の総括的検証を受けた超長期債買入れ減額への警戒から、2日に▲0.0%台前半に上昇。米経済指標悪化を受けて一旦▲0.0%台後半に低下したものの、日銀副総裁講演で再び警戒が強まり、8日には再び▲0.0%台前半に上昇。しばらく、▲0.0%台前半から半ばを中心とする推移が続く。21日の日銀決定会合で長期金利に操作目標(ゼロ%程度)が導入された後は、ある程度の下振れも許容されるとの見方が台頭し、23日には▲0.0%後半へ。月末も▲0.0%台後半で終了。

●当面の予想

今月に入り、日銀が長期国債の買入れ減額に動いたことと海外金利の上昇を受けてやや上昇したが、足元も▲0.0%台後半で推移している。日銀が9月21日に長期金利の操作目標を「ゼロ%程度」に設定してから、その下方への許容範囲が焦点となってきたが、概ね▲0.1%未満との見方が市場で浸透しつつある。従って、0%から▲0.1%のレンジの間で、市場のリスクオン・オフや海外金利の動向を受けて多少上下動するという展開が続きそうだ。

◆ドル円レート

●9月の動き 月初103円台前半からスタートし、月末は101円台前半に。

月初、米国の早期利上げ観測が燻り、103円台での推移が続いたが、米経済指標悪化を受けて利上げ観測が後退し、8日に101円台半ばへ下落。

その後、日銀追加緩和期待から14日に103円台を回復したものの、日米金融政策の不透明感から続かず、19日には101円台後半に下落。その後21日には日銀の枠組み変更を受けて一旦乱高下したが、FOMCでの利上げ見送り・金利見通し下方修正を受けてドル安圧力が強まり、26日には100円台に突入。月末はOPECの減産合意を受けてリスクオン地合いとなり、101円台半ばに上昇。月末も101円台前半で終了した。

●当面の予想

今月に入って、好調な米経済指標やFRB要人のタカ派発言によって米国の年内利上げが意識され、足元は103円台後半に上昇している。目先の大きな材料は本日夜の9月雇用統計となる。好調な結果なら利上げ観測の上昇からさらに円安ドル高に振れると見ているが、同時に副作用(米株下落、新興国株・通貨下落)への警戒からリスク回避の円買いも入ることで、ドル円の上値が制約される可能性も。

また、大統領選という大きな不確定要因を抱えているという点からも、105円台の定着はまだ難しいだろう。一方、雇用統計が低調な結果であれば、素直にドル売りが入るが、100円を突破するような円高進行は当面見込まれない。

◆ユーロドルレート

●9月の動き 月初1.11ドル台半ばからスタートし、月末は1.12ドル台前半に。

月初、1.11ドル台での推移が続いた後、米経済指標悪化に伴う利上げ観測後退により、7日に1.12ドル台前半に上昇。長らく1.12ドル台での推移が続いた後、予想を上回る米CPIを受けて19日に1.11ドル台へ下落。その後、21日の米利上げ見送り・金利見通し下方修正を受けてドル安圧力が強まり、22日には再び1.12ドル台に。以降、月末まで1.12ドル台での推移が続いた。

●当面の予想

今月に入り、米利上げ観測が高まったことで、足元では1.11ドル台前半に下落している。目先は本日夜の米雇用統計次第だが、ドル円同様、ドル高圧力がにわかに大きく高まることはなく、ユーロドルは当面底堅く推移すると予想している。ただし、直近では、ECBのテーパリング観測が燻るなど、ユーロ圏の金融政策を巡る思惑も振れやすくなっており、20日のECB理事会前後には、ユーロドルが不安定になる可能性も。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

最終更新:10/7(金) 19:20

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
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