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「IT企業と話し合って関係を改善したい」とFBIサンフランシスコ支局長 iPhoneロック解除のキーパーソン

ITmedia ニュース 10/7(金) 11:03配信

[AP通信] 2016年3月のとある日曜日、米連邦捜査局(FBI)特別捜査官のジャック・ベネット氏(52)はバージニア州クワンティコにあるFBIのコンピュータ犯罪捜査のラボにいた。外部の企業がFBIに対し、前年12月にカリフォルニア州サンバーナーディーノで起きた銃乱射事件の犯人が使用していたiPhoneのロック解除方法を教えにきていたのだ。

【ベネット捜査官(AP Photo/Eric Risberg)の画像】

 このツールを使えば、iPhoneのロック解除をめぐるAppleとの争いに終止符を打つことができる――。だが現場にお祝いムードは一切なかったという。

 「ハイタッチをする人も、廊下で歓声を上げる人もいなかった」とベネット氏は当時を振り返る。「皆、完全に仕事に集中していた。“よし、実際にiPhoneでやってみよう。このツールを購入するにはどうすればいい?”といった具合だった」

 iPhoneのロック解除をめぐる争いは、FBIとシリコンバレーのIT企業の間にある亀裂を浮き彫りにし、個人のプライバシーと国家の安全との適切なバランスをめぐる議論を巻き起こした。当時、FBIのデジタルフォレンジックラボの所長として、この議論の中心にいたのがベネット氏だ。デジタルフォレンジックラボはコンピュータなどのデバイスから証拠を見つけ出すための専門組織であり、サンバーナーディーノでの銃乱射事件の犯人が使用していたiPhoneのロック解除を任されていた。

 現在FBIサンフランシスコ支局長を務めるベネット氏は、「シリコンバレーのIT企業とFBIとの溝を埋めること」を自らの役割の1つと考えている。

 ベネット氏は2016年5月に特別捜査官としてFBIサンフランシスコ支局長の任務を引き継いだ。同氏は30年近く前にジョージア州捜査局(GBI)で麻薬捜査官としてキャリアをスタートし、米麻薬取締局(DEA)とともに南米のコカイン密輸の根絶に取り組んだ。

 その後は、FBIで子どもに対する性犯罪や過激派動物愛護団体の捜査などを担当。FBIサンフランシスコ支局では特別捜査官補佐を務めた。

 「米政府はときには、企業にとって何が重要かを見失うことがある。プライバシーは非常に重要だ」。同氏は先日、自身のオフィスで取材に応じ、そう語った。オフィスのコーヒーテーブルに置かれたガラスの展示ケースには、1930年代にスパイが持っていたようなトンプソン・サブマシンガン(短機関銃)が飾られていた。

 それでもベネット氏は、FBIがiPhoneのロック解除を要請したことについて謝罪するつもりはないようだ。

 「この件がこのような形で国民的議論に発展し、非常に驚いた。想定外だった。私たちは、14人が殺害されるという事件を受け、1台のiPhoneのデータにアクセスしようとしただけだ」と同氏は語る。

 AppleとFBIの対立は、銃乱射事件の容疑者が職場で支給されて使用していた「iPhone 5c」のロック解除をめぐって起きたものだ。サイード・リズワン・ファルーク容疑者は2015年12月、妻とともに、サンバーナーディーノ郡の職員が集まっていたクリスマスパーティーの会場を銃撃し、14人を殺害した。米司法省はAppleに対し、このiPhone 5cのセキュリティ機能を回避するためのソフトウェアを作るよう要請した。

 この要請を受け、Appleのティム・クックCEOは「FBIが当社に求めているのは、他のiPhoneのロック解除にも使える“バックドア”の作成であり、そのようなことをすれば、顧客データを危険にさらすことになりかねない」と協力を拒否。「FBIの要請に従えば、危険な先例を作ることになり、個人情報入手のために他の件でも協力を要請されることになりかねない」と危惧を示した。

 裁判所がその後Appleに対し、FBIの要請に応じるよう命じたが、Appleはこの命令にも異議を唱えた。GoogleやFacebook、MicrosoftなどのIT大手もAppleへの支持を表明し、裁判所に提出した意見書において、「この命令は国の最高機密情報のセキュリティを脅かすことになりかねない」と懸念を訴えた。

 その後、両陣営は法廷で直接対決することになっていたが、司法省は3月下旬、Appleの助けを借りずに容疑者のiPhoneをロック解除する方法を見つけたと発表し、突如訴えを取り下げた。AP通信などのメディア3社はその後9月に、FBIがiPhoneのロック解除のために誰にいくら支払ったかを明らかにすることを求め、FBIを提訴している。

 ベネット氏は誰がFBIに協力したかについては明言を避け、「FBIにロック解除方法を提案してきた国内外の数社の企業のうちの1社だ」とだけ述べた。FBIのジェームズ・コミー長官は先頃、FBIがロック解除ツールに100万ドル以上を支払ったことを示唆する発言をしている。

 問題のiPhone 5cからは結局、何も重要なデータは見つからなかったという。

 ベネット氏は「FBIがAppleに対し、他のiPhoneにもアクセスできるツールを要請した」との指摘には異議を唱え、「要請したのは1回限りの解除だった」と語っている。

 ベネット氏はIT企業との関係改善を望んでいる。これは称賛すべきことだ。だがWebブラウザ「Firefox」を開発するMozillaで最高法務責任者と最高事業責任者を兼任するデネル・ディクソン・セアー氏によれば、暗号化技術について両陣営が合意に至ることはないかもしれないという。

 「まだ緊張関係が残っている。それは確かだ」と同氏は語る。

 一方、複数のコンピュータセキュリティ企業に投資するKleiner Perkinsのベンチャーキャピタリスト、テッド・シュライン氏は、ベネット氏には技術的なバックグラウンドがあるので、「IT企業に何を要請し、どのように協力を仰ぐべきか」についてFBIがより良い判断を下す助けになるかもしれないと期待を寄せる。

 データへのアクセスに関するIT企業とFBIの意見が今後も合致しない可能性については、ベネット氏も認めている。だが同氏は話し合いの必要性を指摘する。

 「企業がFBIへの協力について懸念を抱くのは至極もっともなことだ。だがお互いに話し合うことも必要だ」と同氏は語る。

 「捜査当局がテロ攻撃や子どもの誘拐、国家の安全にかかわる事件を阻止または予防できるよう、民間企業が安心して協力できる方法が何かあるのではないだろうか」と同氏は問いかける。
(日本語翻訳 ITmedia ニュース)
(C) AP通信

最終更新:10/7(金) 11:03

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