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小説化でヒット記録「コーヒーが冷めないうちに」

オリコン 10/8(土) 7:00配信

 発売から9ヶ月で累計発行部数28万部を超えるヒットを記録中の『コーヒーが冷めないうちに』は、脚本家の川口俊和氏が、脚本と演出を手がけた同名舞台を自身で小説化。小説化までの経緯や、作品に込めた思いなどを川口氏に聞いた。

『コーヒーが冷めないうちに』セールス推移(表)

 その古びた喫茶店には都市伝説があった。ある席に座れば、タイムトラベルができる。ただし、座った席から動くことはできず、過去にどれほど干渉してもその後の現実に変化はなく、さらに時間を移動できるのは、コーヒーが冷めるまでのわずかな間だけ。それでも時間を遡り、どうしても叶えたい願いと事情を抱えた人々がその店を訪れる。 

 脚本家である川口俊和氏の小説『コーヒーが冷めないうちに』は、恋人、夫婦、姉妹、親子という親密な関係性それぞれにまつわる4章で構成。小さな喫茶店という限定空間、細かなルールや手続きに縛られた時間移動などのギミックが、逆にストレートに読者の感情を揺さぶる鮮やかな物語を描き出すことに成功している。

 「原型は一般の方も参加するワークショップ公演のために書き下ろした脚本です。その頃、もっとシンプルでわかりやすいこと、例えば10年後でも楽しめるような、より普遍的な芝居を書きたくなった転換期だったこともあり、誰にとっても身近な親子、恋人、夫婦、姉妹といった人間関係に取り組んでみようと決めました。あえて奇をてらわなかったことが共感性の高いお話を書けた理由かもしれません」(川口俊和氏/以下同)

 この公演が好評だったことから同作はその後舞台化となる。そして、同公演をたまたま観て感動した現編集担当者が、その日のうちに小説化を打診したことから書籍化プロジェクトは動き出したが、出版までには足掛け4年を要したという。

 「構成もセリフも95%以上は脚本と同じです。演出家として伝えたかったことをセリフの合間に膨らませる作業でしたが、小説そのものを書いたことがなかったので、時間はかかりました。それこそ、人称や視点も混乱しているような第一稿の段階から、担当さんに辛抱強くアドバイスをもらい、並走いただいてようやく完成できました」

 こうして、初演時には延べ120人ほどの観客しか目撃できなかった同作が、いったん小説という別メディアにコンバートされたことで、一気に数十万人規模の読者の共感を得、さらに今後はドラマや映画など、より多様なメディアに展開できる可能性をも獲得し、実際にさまざまなオファーが現在届いているという。

 「演劇というのは基本的に観客の記憶にしか残らないものですから、以前から何か残るものにならないかという漠然とした希望は持っていましたが、こういう方法で実現できたことがとてもうれしいです」

 さらに12月には、舞台での再々演も決定している。

 「これまでのような、新しい舞台脚本を精力的に書いていくという活動を今はあまり考えていませんが、この作品の舞台については今後も関わっていくつもりです。今、数ヶ所での地方公演を予定していますが、今後はもっと多くの場所で展開していきたいです。この作品を軸に、地方の劇団でお芝居をやっている人たちや、未経験の人たちなどとも交流しながら、ゆっくりと、大切に取り組んでいけたらと考えています」

 現在は第2作目となる『コーヒーが~』の続編を執筆中。ベースとなる舞台版は存在しないため、別種の生みの苦しみを味わっているが、手応えは感じているとのこと。17年初頭に予定される新作の刊行を待ちたい。
文/及川望
(コンフィデンス 16年9月19日号掲載)

最終更新:10/8(土) 7:00

オリコン

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