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「老人福祉・介護事業」の倒産が9月で年間最多数を更新

東京商工リサーチ 10/7(金) 15:00配信

2016年1-9月「老人福祉・介護事業」の倒産状況

 2015年4月の介護報酬改定から1年が経過したが、2016年1-9月の「老人福祉・介護事業」倒産が累計77件に達した。すでに9月時点で2000年1月から調査を開始して以来、最多だった前年(1-12月)の76件を上回り、年間最多記録を更新した。
 負債5千万円未満の小・零細規模が68.8%、設立5年以内が46.7%を占め、小規模かつ新規事業者を中心に倒産を押し上げている。また、事業計画が甘い安易な起業だけでなく、本業不振による異業種からの参入や過小資本のFC加盟社などの倒産も発生している。
 業界の大きな課題となっている介護職員の人手不足の解消が難しい中で、成長産業として注目されてきた老人福祉・介護業界に淘汰の動きも出てきた。
※ 調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む。

2016年1-9月の倒産は年間最多の77件
 2016年1-9月の老人福祉・介護事業の倒産は77件(前年同期比35.0%増、前年同期57件)に達し、これまで年間最多だった2015年の76件を9月時点で上回った。負債総額も82億9,600万円(同62.7%増、同50億9,600万円)と前年同期を上回った。
 負債10億円以上が2件(前年同期ゼロ)に対し、負債5千万円未満は53件(前年同期比39.4%増、前年同期38件、構成比68.8%)と大幅に増え、倒産は小規模事業者を中心にしている。

業種別、最多は「通所・短期入所介護」と「訪問介護」
 業種別では、施設系のデイサービスセンターを含む「通所・短期入所介護事業」と「訪問介護事業」が各32件(それぞれ前年同期比39.1%増、前年同期23件)と前年同期を上回った。この他、「有料老人ホーム」が7件(前年同期比250.0%増、前年同期2件)発生した。

設立別、5年以内が半数
 2011年以降に設立された事業者の倒産が36件(構成比46.7%)と半数近くを占め、設立から5年以内の新規事業者が目立った。従業員数別では、5人未満が53件(前年同期比39.4%増、前年同期38件)と大幅に増え、小規模事業者の倒産が全体の約7割(構成比68.8%)を占めた。このように、小規模で、参入間もない新規事業者の倒産が増えて件数を押し上げている。
 
原因別、販売不振が2倍増
 原因別では、販売不振が51件(前年同期比104.0%増、前年同期25件)で、2倍増となり同業他社との競争の激しさを物語った。次いで、事業上の失敗が10件、設備投資過大が5件の順。
 販売不振が全体の約7割(構成比66.2%)を占めたが、安易な起業だけでなく本業不振のため異業種からの参入失敗(6件)や過小資本でのFC加盟(3件)など、事前準備や事業計画が甘い小・零細規模の業者が想定通りに業績を上げられず経営に行き詰ったケースが多い。

形態別、事業消滅型の破産が9割
 形態別では、事業消滅型の破産が75件(前年同期比33.9%増、前年同期56件)と全体の9割(構成比97.4%)を占めた。一方、再建型の民事再生法はゼロ(前年同期1件)で、業績不振に陥った事業者の再建が難しいことを浮き彫りにした。

東北・関東・中国・四国の4地区で増加
 地区別では、全国9地区すべてで倒産が発生した。関東の26件(前年同期15件)を筆頭に、近畿16件(同16件)、九州13件(同9件)、東北8件(同2件)、中部7件(同7件)、中国4件(同ゼロ)、北海道1件(同4件)、四国1件(同3件)、北陸1件(同1件)の順。
 前年同期より上回ったのは、東北・関東・中国・九州の4地区。減少は北海道と四国の2地区だけで、中部・北陸・近畿の3地区が前年同期同数だった。関東の大幅増が目立ち、地区により“まだら模様”をみせているが、増加した同業他社との競争も影響しているとみられる。

2016年の主な倒産事例
 (有)ハイム(TSR企業コード:922085765、法人番号: 5310002017519、長崎県)は、当初はスーパーマーケット経営会社だったが、その後スーパー事業から撤退し、グループホームの運営を開始した。しかし、業績が低迷するなか不動産賃貸関連で訴訟トラブルが生じ、約2,200万円を一括返済せざるを得なくなり、8月17日に破産を申請した。
 (有)すてっぷ(TSR企業コード:712010327、法人番号:6260002013720、岡山県)は、訪問介護からスタートし、最近は通所介護を中心に事業を行っていた。だが、従業員の退職が相次ぎサービスの提供が困難になったため2015年10月に営業を停止していた。その後も事業再開の目途が立たないことから破産を申請し、9月7日に破産手続の開始決定を受けた。

 介護報酬改定から1年を経過し、「老人福祉・介護事業」の倒産はことし4月以降、6カ月連続で前年同月を上回っている。特に、2016年上半期(4-9月)累計は62件(前年同期比106.6%増、前年同期30件)と急増している。2016年は月平均8.5件ペースの発生で、このままの水準で推移すると年間100件を超える可能性も出てきた。
 東京商工リサーチの調査では、全国の老人福祉・介護事業者3,889社の2016年3月期決算は、「増収増益」企業の30.8%に対し、「減収減益」企業も30.8%と拮抗し、業績の二極化が鮮明に表れた。さらに、「減益」企業は52.0%と過半を占めている。同業他社との競合や人手不足を補うための人件費上昇が収益悪化を招く悪循環に陥るケースも目立っている。
 2015年4月の介護報酬改定では、基本報酬がダウンした一方、充実したサービスを行う施設への加算は拡充された。だが、小規模事業者は加算の条件を満たすことが難しいだけに、経営基盤が脆く、経営体力に乏しい小規模事業者への影響は小さくないことを示唆している。今回の報酬改定により体制が未整備の業者がふるいにかけられる一方、新規参入の障壁は高まっている。
 2016年に入り、参入企業の準備不足や競合、個人支出の抑制など、様々な要因から老人福祉・介護業界の淘汰が浮き彫りになった。高齢化社会の進行に伴い市場の拡大が見込まれるだけに、今後は新規参入や統合を促すため、補助金や融資支援など政策支援も必要になってくるだろう。

東京商工リサーチ

最終更新:10/7(金) 15:00

東京商工リサーチ