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【千葉魂】 伊東監督、兄弟の契り 思い背負ってCSに挑む

千葉日報オンライン 10/7(金) 10:49配信

 その送別会は9月末に職場内の食堂で和やかな雰囲気の中で行われていた。社員が定年退職になることを受けて後輩社員たちが手作りで行ったアットホームなパーティー。50人ほどが参加したこのイベントの最後にビデオメッセージが流れた。同僚など様々な人の言葉が続いた。映像は終わった。その時、司会者はわざとらしく慌てた雰囲気で、言葉を発した。

 「大変、申し訳ありませんでした。もうひとかた、今回のためにビデオメッセージを頂いていた方がいらっしゃいます。今から改めて紹介させていただきます」

 会場は、少しざわついたが、その直後、誰もが画面にくぎ付けになった。実に凝った演出だった。そして誰もが驚いた。登場したのは千葉ロッテマリーンズ・伊東勤監督だったからだ。練習日にQVCマリンフィールドの監督室で撮られたその映像で、マリーンズの指揮官は神妙な表情で語り出した。

 「兄貴、長い間、お疲れ様でした。お互いもう歳をとって、兄貴も定年の年になりましたね。小さい頃から兄貴の背中を見て、ボクの中では常に目標の人間でありましたし、何とか兄貴を越えたいという思いで野球をやってきました。そのおかげでこうしてプロ野球の世界まで長いこと、生きて来られましたし、その感謝の気持ちはいつも変わりません。長いこと、ご苦労様でした」

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 2歳年上の兄である伊東修さんは今年、長い間、勤務した熊本市内の職場を退職する。兄が小学校2年で野球を始めたからこそ、指揮官も野球に興味を持った。ずっとその背中を追い掛けた。2人で野球に明け暮れた毎日。伊東監督は「兄貴との思い出といえば毎日、遅くまでキャッチボールをしながら、またけんかもしながら、そうやって野球をずっとやっていたこと」と当時を懐かしそうに振り返る。だから、兄がいた熊本工業高校に入学した。兄は甲子園にこそ出場しなかったが、注目の外野手だった。プロ入りの話もあり複数の球団が興味を示したが、あえて駒沢大学に進学することを選択。その後、社会人野球で活躍をした。指揮官は、その背中に憧れ、刺激を受けライオンズに入団。プロの世界で、輝かしい実績を残し54歳になった今は千葉ロッテマリーンズを率いている。

 大人になった今もよく顔を合わせる。オフに故郷で食事をしたりゴルフをしたり、福岡遠征に観戦に来てくれたりしている。監督にとっておいっ子たちは「自分の子供のように可愛い」と話す。そんな兄のために同僚たちが送別会を開き、兄を驚かせようと自分にビデオメッセージを依頼してくれた。会社の仲間たちに兄が慕われていることがうれしかった。そして深く感謝をした。5分を過ぎる長いメッセージになったが、兄弟への気持ちを短く伝えることはどうしてもできなかった。子供の頃からのいろいろな思い出が走馬灯のようによみがえった。今年は故郷・熊本で震災もあった。それらの思いが交差し、涙があふれそうになるのを必死にこらえた。

 「サプライズですので、お兄様にはくれぐれも御内密にお願いします」

 依頼者からの指示にコクリとうなずいた。後日、兄から電話が入った。「ビックリしたよ。とても盛り上がった。ありがとう」。その光景を目にしていないが、兄の明るい声に元気が湧いた。サプライズ的な演出が行われたことも聞かされ、思わずニヤけた。

 「お袋が一人暮らしをしていましたけど、今は兄貴夫婦と一緒に暮らしていますので、その点は非常に兄貴に頼って申し訳ないですが、おかげでボクとしては安心して毎日、仕事ができます。これから、私の方は大事な試合が控えていますので、ぜひファンの人たちの期待に応えられるような成果を、結果を出せるように一生懸命頑張ります。最終的に自分の話ばかりになってしまいましたけど、これまで兄貴の背中を追い掛けてやってきたのは間違いないですし、その兄貴が一線から引くのは寂しい気がします。これからはゆっくりと過ごしてください。またオフに熊本に帰った時には楽しくゴルフでもしましょう」

 ビデオレターはそう締められた。開場は万雷の拍手に包まれた。涙を流し、号泣する人さえいたという。きっと兄はうれしそうに自慢の弟のことを思ったはずだ。そしてその日、遠く離れた北海道で指揮を執っていた弟は、かけがえのない存在だった兄のことをずっと考えていた。

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 いよいよクライマックスシリーズが幕を開ける。舞台は福岡。「3位は悔しい。この悔しさをぶつける。暴れまわってきます。日本シリーズでマリンに戻ってきます」。最終戦セレモニーで指揮官はファンに約束をした。遠い昔、兄の真似をして始めた野球が今はかけがえのない仕事になっている。そして自らの采配は多くの人の夢や希望となり、ファンの人の期待を背負う存在となっている。重圧やストレスは数えきれない。ただ、弱音を吐くことも逃げることもしない。原点は兄と空き地で日が暮れるまで野球に明け暮れた日々。泣いて、笑って、けんかをした毎日。2人は、とにかく野球が好きだった。そして大きな夢を語り合った。野球が大好きだった兄の思いと共に伊東勤監督はクライマックスシリーズのタクトを握る。日本一を目指す次なる戦いがまもなく始まる。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

最終更新:10/7(金) 10:49

千葉日報オンライン

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