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昭和の香り、スナックは人生の学び舎 客同士意気投合、人情味あふれる

福井新聞ONLINE 10/8(土) 17:46配信

 「いいですか1人でも…」。福井市の繁華街、片町(順化1、2丁目)の雑居ビル3階。店の扉をゆっくりと開く。「いいよー、入って」とママの明るい声が出迎えてくれる。そして、お客たちがつくるへつらいのない空気―。昭和の香りのする「スナック」は、お客の高齢化などで少なくなっているが、癒やしや接待だけでなく、仲間づくりや社交の場としてその力を発揮している。ちょっと恋しくなった人情味が、さりげなく添えられて。

 扉の外に漏れるカラオケの歌声。店内は十数人も入れば満席で、ミラーボールがまぶしい。年季の入ったカウンター席では常連のお客が話に花を咲かせている。ママが席に案内すると、すかさずお客たちに“橋渡し”。「どーもです」。

 ほろ酔い同士、ひと声交わせば、会話と酒が進む。次々にかかる歌に拍手。「歌いね、順番やざ」。ママがマイクを回してきた。雰囲気を読んで歌を選択。感情を込めて歌い始めると、常連客と思わず肩を組み熱唱へ。合いの手、手拍子で店内は一体感。帰り際、すっかり仲良くなった人たちと名刺交換をした。

 ◆夜の親睦会◆

 ボックス席には30~60代の男女、職業もファッションも違う8人組。それぞれ1人でお店に来るうちに、カラオケや趣味の話で意気投合。店の名を冠した親睦会をつくったという。

 「なんていうか、お互いに居心地がよかったんですね」と話すのは2年前に“入会”した福井市の会社員女性(41)。「月1回お店に来る日を決めて、おいしいお酒と歌を楽しみましょう」と、徐々に輪が広がっていった。

 20代のころ、初めて連れてこられスナックが気に入りファンになったというのは、同市の自営業男性(46)。「親身に話を聞いてくれたり、笑わせてくれたり、時にはしかってくれたりも」と、お客だけでなくママたちの魅力を語る。

 ◆人生の学び舎◆

 県外出身のママ、ゆりこさん(69)は、福井で暮らす前は幼い子どもを抱え地方の旅館で働いていた。「小さくても自分のお店を持ちたい」という夢を、23年前に片町で実現させた。「私も、お店も、多くのお客さんが育ててくれた。身の上話も肴(さかな)に、初めて会うお客さん同士が励まし合う姿を、カウンター越しに何度も見ましたよ」。スナックはまさに人生の学び舎だ。

 主に、県内のスナックやバーなどで構成する福井県社交飲食業生活衛生同業組合によると、組合員数は1989年の652人をピークに減少し、現在は273人にまで落ち込んでいる。同組合福井支部副支部長の大越謙二さん(69)は片町に店を構え34年になる。「バブル崩壊後は、会社などは経費節減し、人の財布のひもも固くなった。経営者の高齢化で廃業する店もあり悪循環が続いている」と現状を憂える。だが、40代を中心に新規のお客も確実に増えているとし「一定の料金で店巡りができる『はしご酒ラリー』のような恒例の企画を通して、多くの人に片町に親しんでもらいたい」と話す。

 外観や看板にもママの個性があふれ、どこか懐かしいスナック。立場を超え、飾らずに人と人が触れ合える空間。味のある接客に、ママが背負った人生がにじみ出る。愛情が詰まった手作りのお通し。そんな大人の社交場は人情味もたっぷりに今宵も明かりをともしている。さあ、その手で扉を開いてみよう―。

福井新聞社

最終更新:10/9(日) 8:17

福井新聞ONLINE