ここから本文です

【アグネスのなぜいま(7)】 クリントン氏の反撃ミスがトランプ氏を助けた

ニュースソクラ 10/9(日) 19:20配信

世界を左右する米大統領選に目を凝らして

 11月8日の投票日に向けて、いよいよラストスパートに入ったアメリカ大統領選挙。9日にはクリントン氏とトランプ氏の2回目のテレビ討論会が開かれます。

 前回の討論会は歴代の大統領選のテレビ討論会の中で、最も多い8400万人という視聴者を獲得しました。アメリカ国民の大統領選に対する関心の高さが伺えます。

 両候補は、ともに異色の候補者として注目を集めてきました。もしクリントン氏が勝てば、アメリカ初の女性大統領となり、しかも元大統領夫人という経歴も極めて珍しいことです。一方、トランプ氏は政治経験のない一般人で、経済的にも外交的にも差別的な極論を繰り返しています。しかし、それでも彼はアメリカの世論を2分にするほどの人気を盾に選挙選を戦ってきました。

 テレビ討論会を見て、二人の違いがよくわかりました。クリントン氏は準備してきた台本から決して外れる事なく、トランプ氏を追及しながら、自身の政策を話しました。トランプ氏は彼女の挑発にはまり、何度も失態を見せる場面を連発しました。その結果、討論会はクリントン氏の圧勝とされ、支持率も5ポイント程上がりました。しかし、本当は徹底的にトランプ氏を倒す場面がいくつもあったにもかかわらず、台本から離れられないクリントン氏のミスパンチがトランプ氏を生き残らせる結果になったと言ってもいいでしょう。そのためにクリントン氏は、有権者の心を完全に捕える事が出来なかったのです。

 例えば、税務署に提出する確定申告を公表していないトランプ氏に対して、「あなたは税金を払っていないのでは?」と追及したクリントン氏に対して、「それは僕が賢いことの証明です」と答えたトランプ氏。その場でクリントン氏は、「今、あなたは自分が税金を払っていない事を認めたのですか?払っていない人が賢いのなら、払っている人は愚かですか?あなたは国民を馬鹿にしていますね?」と追及すべきでした。しかし、クリントン氏はただ「もし税金を払っていないとしたら。。。つまり学校にも福祉にも、引退軍人のためにも、何も貢献していないのですね」と台本の続きを読むだけでした。

 さらに、「倒産を理由に、仕事をしてくれた下請けにお金を払わなかったり、高い授業料をとりながら、全く講義をしなかった「トランプ大学」のことを追及されると、トランプ氏は「それがビジネスという物です」と答えました。普通なら、呆れて、「お金のためなら、人を騙したり、傷つけたりしていいのですか?」と聞くべきでしょう。しかしクリントン氏は台本に答えがないので、それ以上の追及はしなかったのです。このような中途半端なやり取りを見て、クリントン氏の支持者はずいぶん歯がゆい思いをしたはずです。


 トランプ氏の支持層はいわゆるブルーカラーで、特に白人の労働者が多いと言われています。メキシコ人や中国人から職をうばわれ、中所得者層から脱落してしまった人たちが中心です。生活が苦しくなり、希望を失い、怒りを抱えて生活している人は、確かにたくさんいます。トランプ氏は彼らに対して「NAFTAをひっくり返す。TPPは断固として反対。中国から仕事を取り戻す。メキシコとの間に壁を作る。イスラムの人々は入国させない。日本には駐留しているアメリカ軍の費用をすべて支払わせる。 NATOの維持費は今後払わない」と威勢のいいことを言い、自分は金持ちでビジネスマンだから、経済を立て直す事が出来ると訴えています。

 しかし、それらは国際社会から見ても、アメリカの政府関係者から見ても、とんでもない愚策です。さらに、メキシコ人を麻薬犯罪者、強姦者、強盗と呼び、違法在住者は徹底的に追い出すといいます。太った女性を「豚」「犬」と呼ぶ差別主義者でもあります。常識のある人なら、当然、トランプ氏が大統領になることを否定するはずですが、彼の支持率は40%前後を維持しています。つまり、40%のアメリカ人にとって、彼の言っている事は、暴言どころか、耳心地の良い歌なのです。


 もちろんこの現実を受け入れがたいアメリカ人もたくさんいます。しかし、残念ながら、クリントン氏は今の所、その40%のトランプ支持派の考え方を変えるほどの明確なアピールが出来ていません。

 今、両候補が狙っているのはミレニアルと言われる24歳から35歳までの若者と白人の女性の一部です。さらに18歳から23歳の大学生もターゲットです。クリントン氏は最新のCMでトランプ氏の過去の女性に対する侮辱的な発言を取り上げ「トランプ氏が女性の敵であること」を強調しています。

 それでもトランプ氏は優越感を持った白人男性としての振る舞いかたを止めようとはしません。「アメリカをもう一度偉大な国にする」を合言葉に、他の国や有色人種を見下ろしています。経済的に追い詰められ、自尊心を無くし、今の苦況を誰かのせいにしたいトランプ氏の支持層は、こうしたトランプ氏の態度に共感し、熱狂するのです。

 クリントン氏は、こうしたトランプ支持層に対し、もっと気配りをする事が必要です。「クリントンが大統領になっても、今まで通りで、何もいいことはない」という人々の声にも、謙虚に耳を傾けるべきです。

 今の予測ではクリントン氏が多少、有利な状況となっています。それは人口の多い州の黒人とヒスパニック系の方の大半がクリントン氏を支持しているからです。白人票だけでは、選挙に勝てないのは明らかです。しかし、最近のデータでは20%から30%の有色人種がトランプ氏に投票するという予測もあり、勝敗の行方はまだわかりません。心中穏やかでないのは、私だけではないと思います。

 世界の将来に大きく影響するアメリカの大統領選挙。結果だけでなく、その過程も含めてしっかり見つめていきたいと思います。

■アグネス・ M ・チャン(教育学博士)
1955年香港生まれ。本名金子陳美齢。72年日本で歌手デビューしトップアイドルに。上智大学を経て、トロント大学(社会児童心理学)を卒業。94年米スタンフォード大学教育学博士号取得。98年日本ユニセフ協会大使。2016年ユニセフ・アジア親善大使も兼務。

最終更新:10/9(日) 19:20

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

信用履歴が(まだ)ない人のためのスマートローン
TEDフェローのシヴァーニ・シロヤのスタートアップ企業InVentureでは、携帯電話のデータを使って個人の信用情報を作り上げることで、新興世界に眠っている購買力を目覚めさせようという事業をしています。「クレジット・スコアのようなシンプルなもので、自分の未来を自分で築き上げる力を人々に与えることができるのです」 [new]