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ヘッドランプの進化とLEDが画期的な理由

ITmedia ビジネスオンライン 10/11(火) 6:31配信

 先週半ばの各社報道によれば、国土交通省は2020年4月以降に販売される新車から、ヘッドランプを自動点灯する「オートライトシステム」の装備を義務付ける方針だという。

【ハロゲンバルブ】

 問題となっているのは薄暮時の事故だ。ヒトの視覚システムには2系統のセンサーがある。網膜が光を受けたとき、明るい環境では色を見分ける錐体(すいたい)細胞が中心となって働き、暗い環境では物の形を見分ける桿体(かんたい)細胞がメインになる。錐体細胞は鈍感で、暗い場所では機能できないためだ。桿体細胞は色を判別できないので暗い場所では色が分かりにくくなる。

 では、この暗い場所のスペシャリストである桿体細胞が光に当たるとどうやって信号を出すかと言えば、タンパク質とビタミンの分離によって視神経に信号を送る仕組みなのだ。タンパク質とビタミンが結合した状態に光が当たると分子の形が変わって分離する。これがセンサーの仕組みである。逆に言えば、タンパク質とビタミンが結合した状態でいてくれないとセンサーが機能しない。ところが、明るい場所で大量の光が網膜に当たっていると、この結合が切れてしまい。急に暗くなっても「結合状態」の在庫がない。しかも悪いことに結合には30分程度の時間が必要だ。

 暗い場所から明るい場所に出たとき、まぶしさを感じて視力が低下する明順応は1分程度で回復するが、明るい場所から暗い場所に入ったときに視力が低下する暗順応には30分を要するのはこの結合状態を作るのに時間がかかるためだ。

 薄暮時の事故が多いのはこうした人体の特性によるものだと言える。今回のオートライト採用は、暗順応への対処である。

●ハロゲンとHIDの時代

 ヘッドランプと安全性に関しては、暗順応だけではなく、さまざまなポイントがある。代表的なものでは絶対的な光量の問題や配光の問題が重要だ。そうした性能を向上させて、安全を実現するために、実際のクルマのヘッドランプのメカニズムはどのようなトレンドで変化してきたのだろうか?

 1970年代までの主流はいわゆる白熱電球だった。タングステン製のフィラメントに電流を流して発光させる。問題はこのフィラメントの構造だ。フィラメントは意図的に細い線材を用いて電気抵抗を高めている。電気抵抗が高いからこそ発熱発光するのだ。ところが、この熱によってフィラメントのタングステンが徐々に蒸発し、やがて断線してしまう。電球の球切れはこうして起きていた。

 これを改善したのがハロゲンランプだ。電球内部にハロゲン族のヨウ素や臭素を添加した不活性ガスを封入すると、一度蒸発したタングステンがフィラメントに付着して、フィラメントがどんどんやせていくのを防止するサイクルができる。この結果、断線の心配が減って、よりフィラメントの温度を上げることができるようになり、明るいランプが作れるようになった。ただし、この蒸発・蒸着サイクルはフィラメント全体に一様に起こるわけではないので、条件的に不利な部分はやはりやせていき、やがて電球が切れる。

 もう1つ、フィラメントの発熱量を上げる設計によって、電球の冷却の問題が発生した。電球はレンズとリフレクターで構成される箱状のユニット内に設置される。このユニット内の容積を大きくしないとユニット内の温度が上がりすぎて、電球の寿命が短くなる。それに対処するためにヘッドラップユニットが大きくなり、クルマのフロントマスクデザインへの制約が大きくなった。

 デザインだけでなく、運動性能においても、大型のヘッドラップユニットは当然重くなり、かつほぼ例外なく車両の前端部にあるため、クルマの自転運動を起こすときも、止めるときも、慣性が大きくなってしまう。

 特に初期は発熱に耐える樹脂が普及していなかったため、レンズはガラス製にせざるを得ず、その弊害は少なくなかった。後に樹脂製に代わってから、重量面でのネガは軽減されることになったが、熱が樹脂に与える影響は大きく、古くなるとレンズが白濁したり黄ばんだりする原因になっている。それでも、寿命と明るさでは従来の電球を圧倒しており、1990年代までは、このハロゲンバルブ(球)が自動車用ヘッドランプの主流だった。

 1990年代後半に急速に普及し、ハロゲンランプに取って代わったのはHIDヘッドランプだ。呼び方は、キセノンヘッドランプ、ディスチャージヘッドランプなどさまざまだが、すべて同じ物だ。

 HIDヘッドランプとは要するに蛍光灯である。キセノンや水銀やヨウ化金属などのガスを充填した空間で電極間に放電を起こすとガス中の金属原子が発光するという性質を使った仕組みだ。光量に対して低電力で明るさや色の管理がしやすいほか、光源面積が小さいため、光束(照射方向と面積)のコントロールでも有利になる。

 一方、不利なのはコストとレスポンスで、ハロゲンランプより高価な上、スイッチを入れてから設計通りの明るさになるまでに数分を要する。レスポンスが悪いため、ハイビームとロービームを切り替える際に、光源のオンオフでコントロールすることが難しい。そのためHIDヘッドライトのシステムではハイビーム用に別途ハロゲンバルブを仕込んでいることが多い。これではハロゲンランプシステムの問題点を引きずってしまい。小型化軽量化が難しい。メリットは使用頻度の高いロービーム時の低消費電力だけだったのだ。

 ここまでのヘッドランプの進歩は、明るさと電力の関係改善がメインだった。要するに効率の改善である。ハロゲン以前の電球であっても電力を気にしないならいくらでも明るいものは作れる。つまり、妥当な電力という制約の中で明るさを競っていたのである。

●LEDが画期的な理由

 そして現在、新たな主流はLEDヘッドランプになりつつある。LEDは電気を流すと発光するという特性を持つ半導体を用いたランプで、従来の「電球型」や「蛍光管型」と比べると圧倒的にエネルギー効率が高い。

 そこまでは従来の効率競争の延長なのだが、もっと重要なのは光束の管理である。LEDの大きな特徴にレスポンスの速さがある。通電後ほぼ遅滞なく最大光量に達し、レンズ側にはほぼ放熱がなく、樹脂製レンズの長期劣化の心配が少ない。さらに容積の問題がほぼ解決され、ヘッドランプユニット前側のサイズを小型化できる。これにより、クルマの顔であるノーズ部のデザインの自由度が大きくなった。

 レンズ側では発熱が減ったが、LEDの場合、代わりに半導体部分では発熱が大きい。この問題は専用の冷却ファンを使うことで解決できる。しかしながら、この背面側の冷却のために、HIDシステムに対して大幅な小型化や軽量化はなかなか達成できないのが現状である。

 ただし、従来にないメリットもある。これまでのバルブ方式のヘッドランプユニットでは、球切れの際にバルブを交換するためのメインテナンススペースが必要だったが、走行中に突如球切れを起こす心配のないLEDの場合、ヘッドランプ裏側に手を突っ込むスペースが不要になった。エンジンルームに搭載する機器が増加を続けている現在、この省スペースは設計次第でいくらでも生かしようがある。

 ここまでLEDのメリットのうち、エネルギー効率と余剰スペースの削減について触れてきたが、実はLEDランプの最大のメリットはそこではない。配光の自由さである。前方への発熱が少ないので、半導体の発光素子を数多く並べることが可能で、マルチ光源によってより広い照射範囲に対して、それぞれの光量での配光が可能になった。つまり、しっかり明るく照らす部分と、薄くでも良いから配光して視野を確保する部分をそれぞれ自由に設定できるようになった。例えば、正面はできるだけ明るく遠くまで照らし、歩行者を幻惑しないように、両サイドは光量を落として配光することが可能になった。

 もう1つ、照射範囲内でマスキングが行えるようになった。前述のように光源を数多く並べて置き、その一部を消灯すれば、部分的に配光を減らせる。これによってハイビームで遠くを照らしながら、対向車を幻惑する部分のみカットするようなことが可能になった。この仕組みをアダプティブヘッドランプと呼ぶ。

 最近、SNSなどでも話題になったのでご存じの読者もいるかもしれないが、本来ヘッドランプはハイビームが基本である。対向車を幻惑する恐れがある場合のみ、減光装置(ディマースイッチ)によって、光量や光軸を変えるということになっている。都市部を走行していると、現実的にはこの「対向車を幻惑する恐れがある場合」が走行時間のほとんどなため、ロービームが基本で、特別な場合にハイビームを使うという認識になっているが、本来は逆だ。

 実際、対向車に幻惑されて前方が見にくい上に、ロービームで照射距離が短くなっていた結果、歩行者の発見が遅れるというケースはよくあることなので、アダプティブヘッドランプが夜間走行の安全性向上に大きく寄与することは間違いない。

 このアダプティブランプが今後普及すると、やがてハイビームとロービームという言葉は死語になる日が来るかもしれない。そのとき、クルマの夜間走行の安全性は大きく進歩しているだろう。クルマを買う際にもし選べるのであれば、アダプティブヘッドランプはぜひともお勧めしたい最新装備の1つだ。

(池田直渡)

最終更新:10/11(火) 6:31

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