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苦境のドイツ銀行、米の罰金以外にも根深い問題

ニュースソクラ 10/11(火) 13:00配信

メルケル政権に追い打ち

 ドイツ銀行と言えば、JPモルガン、シティー、HSBCなどと並んで世界のトップバンクの一角を占めている。また長年、ドイツ産業界を支配してきたことで有名である。

 よく例として出されるのが世界的な自動車メーカーであるベンツである。ドイツ銀行がハウスバンク(日本で言えばメインバンク)であり、かつ同行頭取が取締役会より影響力のある監査役会議長を務めてきた。そのドイツ銀行が低迷に喘いでいる。

 メルケル首相にとっても、ドイツ銀行問題は難民問題、排気ガスデータを操作して信頼を失ったフォルクスワーゲンと並び、下手をしたら支援のための公的資金注入などで財政赤字を拡大させる三大事件と言われるものだ。しかし、ドイツ銀行から多額の罰金を科せられた米国政府への罰金減額の口利きを依頼されたものの、来年の総選挙を控えて、断ったと伝えられる。

 どこの国でも銀行はいつも税金を使って救済されるのに経営陣は信じられない高給を食んでいるとして一般国民から不人気な業界である。難民問題で人気急落に遭っているメルケル政権として敢えて救済に動かないのは当然の選択である。

 ドイツ銀行の業績不振には根深い問題がある。日本人の心象としては、ドイツ最大の銀行として国内で圧倒的な営業基盤を有しているに違いないと思うであろう。しかし、ドイツでは伝統的に州立銀行や信用組合などの公的金融機関がリテール取引では優位に立ってきた。

 ドイツ銀行は国内で儲からないのでモルガン・グレンフェルなど海外の投資銀行を買収して投資銀行業務での収益稼得を目指してきた。この間の歴史に触れると長くなるので割愛するが、結論的に言えば、ドイツ人と日本人はモノづくりには優れているが、獲物をみれば獰猛に襲いかかる狩猟民族である英米のアングロサクソンには投資銀行業務では一敗地にまみれたと言える。

 さらに悪いことに2年前に欧州の投資銀行が市場環境の悪化と規制強化で一斉に白旗を上げて投資銀行業務の縮小を図ったのに対して、ドイツ銀行は80億ユーロの増資に踏み切った。当時の経営トップは「ドイツ銀行は欧州に残った唯一のユニバーサルバンクとして米銀に対抗する」と意気軒高であったが、当然のようにこの賭けは失敗に終わり、Jain、Fitschenの共同経営者は退陣を余儀なくされた。

 海外市場業務におけるトレーディング不振、規制強化、米銀の圧倒的優位はいまも続いている。それに加えて、欧州中央銀行(ECB)による相次ぐ利下げ、マイナス金利への突入も元々利鞘の薄い国内貸出業務の収益悪化を加速した。昨年のドイツ銀行の収益は68億ユーロの大幅赤字を記録した。株価はこのところ10ユーロ台と株価純資産倍率(PBR)で0.25倍程度(時価総額が純資産額の1/4しかない)まで下落した。

 ドイツ銀行は遅ればせながら買収したポストバンク(ドイツの郵貯)を売却したいとアナウンス(資産評価額は50億ユーロ程度とみられるが、まだ買い手は見つかっていない)、さらに10万人の総職員の約1割に当たる9千人のレイオフ、アルゼンチン、ニュージーランドなど海外ビジネス拠点並びに国内300拠点の閉鎖、などを打ち出して経営再建を誓っている。

 しかし、その後も収益の悪化は止まらない。マイナス金利の拡大や英国のEU離脱もリテール業務やアドバイザリー業務を直撃する。このため、ドイツ銀行は投資銀行分野でリスクの高い証券化ビジネス分野からの撤退などのリストラ策を追加して280億ユーロのリスクアセットを削減することを打ち出した。しかし市場筋ではこれでもまだ不十分と厳しい評価が多い。

 悪い時には悪いことが重なる。ドイツ銀行は9月16日に米国司法省から住宅抵当証券の不正販売で140億ドル(1兆4千億円)の罰金を科せられた。元々、訴訟リスクに対する脇が甘く、世界各国で7千件を上回る訴訟を抱えている同行とはいえ、この金額はあまりにも巨額である。

 冒頭で触れたメルケル政権に対する米国への罰金減額要請とはこの件のことである。日本ではこの罰金支払いでドイツ銀行が窮地に追い詰められているかのような印象を持たれがちである。しかし、いま見てきたように、もともと不得意の投資銀行業務を拡大してきた咎めがでてきたこと、国内のリテール営業基盤が脆弱なこと、ECBのマイナス金利の悪影響が深まっていること、などもっと根深い問題が根底に横たわっている。9月にクライン(Cryan)頭取は公的資金注入の可能性を否定したが、予断は許さない状況と言えよう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:10/11(火) 13:00

ニュースソクラ