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アートと暮らしの距離問う 黄金町バザール2016

カナロコ by 神奈川新聞 10/11(火) 20:02配信

 アートによる町の再生を目指し横浜市中区の黄金町地区で2008年から始まったアートイベント「黄金町バザール」が今年も開かれている。9回目となる今回はアートと暮らしの距離感を問う「アジア的生活」をテーマに、日本をはじめとする東南アジア出身のアーティストら50組以上が創造の多様性を示している。

 同イベントは、かつて違法飲食店が立ち並び、売買春が行われていた同地区一帯を、アートによって再びにぎわいのある町にしようと始まった。

 主催する黄金町エリアマネジメントセンターの事務局長を務める山野真悟ディレクターは「地域のイメージが変わって人が来るようになったとの評価をいただくことがあるが、果たして『アートだから』といえるのか。アートは必要なものとして住人の皆さんに受け入れられつつあるのか確認したい」と話す。

 そんな思いから、今回はアートと日常生活の関係性をテーマに据えた。「アジア的」としたのは、同じアジアでも各国でかなり文化が異なり、そこに住む人に対して果たすアートの役割も異なるのではないかという前提による。

 ゲストアーティストは日本、韓国、中国、台湾、ベトナム、タイからの14組。同地区で長期にわたって滞在制作中のアーティスト40組も参加している。いずれも京急線日ノ出町駅から黄金町駅を結ぶ高架下のギャラリーや、一帯に点在する“ちょんの間”と呼ばれた間口の狭い元違法飲食店を改装したアトリエで展示。同地区の歴史を感じながらさまざまな表現に触れることになる。

 渡辺篤は自らの引きこもり体験を生かし、他者の傷に寄り添う作品に取り組んでいる。セメントで固めた円形に金文字で書かれたのは、一般の人々から寄せられたつらい体験だ。

 「変われないのかな。たすけて。」といった悲痛な叫びは、一度割ったところを金継ぎの手法でつないである。「何度でもやり直せる」という渡辺の強いメッセージを伝えている。

 映像作品を手掛ける韓国のユ・ソンジュンは、故郷で失われつつあるシャーマンに取材した作品や、同町で撮影したゲームの世界で進むラブストーリーというユニークな短編映画などを展示。「黄金町の日常の中で発見したものを取り入れた。小津安二郎監督が好きでアングルをまねてみたシーンもある」という。

 染織に関心を持つ台湾のカン・ヤチュウは当初、シルクの歴史に関わる作品を予定していた。だが制作のため同町に来てみるとセミの抜け殻が目に付き「黄金町に住むことの象徴のように思えてきた」という。和紙やオーガンディを素材にした巨大なセミの羽には、滞在中に出会った人々の顔を編み込んだ。

 「日常生活から生まれるアートもある」と山野ディレクター。バザールコレクターズの試みでは、住民に作品を1カ月間預けて飾ってもらうという。来場者は飾った様子を撮影した写真を見ることができる。展示終了後は住民にアンケートを取る予定で、日々の暮らしにどれだけアートが溶け込んでいるのかを探る取り組みが続く。

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 「黄金町バザール2016」は11月6日まで。10月11日と月曜休場。一般500円のパスポートで何度でも入場可。高校生以下無料。問い合わせは同センター電話045(261)5467。

最終更新:10/11(火) 20:02

カナロコ by 神奈川新聞