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【コラム】映画『何者』を観る前に――ヤスタカ×米津、鉄壁の主題歌を考える

RO69(アールオーロック) 10/11(火) 19:20配信

ジャケットアートワークには、就職活動にまつわる膨大な量のフレーズがハッシュタグとして散りばめられた、『NANIMONO EP / 何者(オリジナル・サウンドトラック)』。就職という人生の節目にのしかかってくる重苦しさ、息苦しさを明確に伝える、秀逸なデザインだ。映画『何者』の公開が2016年10月15日(土)に迫っているところで、あらためてこの音源作品について考えてみた。

原作に『桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウ(『何者』で直木賞受賞)。監督・脚本に『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、『愛の渦』の三浦大輔。サウンドトラックは中田ヤスタカが手がけ、主題歌“NANIMONO”には作詞&ボーカルに米津玄師がフィーチャーされている。もちろん出演俳優含め、鉄壁としか言い様のない布陣である。さすがは川村元気の企画・プロデュース作品。中田ヤスタカと米津玄師のコラボを提案したのも、川村元気だったそうだ。

《踊り場の窓から 人並みを眺めていた/僕らはどこへ行こうか 階段の途中で》

米津玄師は、“NANIMONO”の歌い出し部分をそんなふうにしたためているのだが、これが余りにも素晴らしい。教室でもない、職場でもない、中途半端で宙ぶらりんな「踊り場」。視界に入るのは人並みだが、胸の内で向き合っているのは何者でもない自分自身だったりする。そんな青春の風景に、身に覚えのある人は少なくないのではないだろうか。とても鮮やかな心象描写だ。朝井リョウという若い作家の物語には、米津玄師という若いアーティストのビビッドな言葉と声が求められていたのだろう。米津は中田ヤスタカのトラックの上で、見事その期待に応えてみせた。

CD作品では、『NANIMONO EP』と『何者(オリジナル・サウンドトラック)』がコンパイルされており、映画に寄り添った多角的な音楽作品となっている点がまた興味深い。EPでは、中田ヤスタカ自身が表題曲のダンス性を強化した“NANIMONO -extended mix-”のほか、トランス色の強いリミックスを手がけたUKのダニー・L・ハールや、日本の鬼才TeddyLoid、ワールドワイドに活躍するbanvoxら若手辣腕リミキサーたちが活躍している。まさに人生の踊り場で、不器用に無様に踊るためのエモいダンスEPなのだ。

そして『何者(オリジナル・サウンドトラック)』。中田ヤスタカは、今や彼の代名詞と言える華々しいハウスミュージックの作法を封印し、美麗で情緒的なピアノ曲や、緊張感漂うダブ/アンビエントなど、意外性に満ちたトラックを多数手がけている。サントラ仕事においてもなかなかお目にかかれない、中田ヤスタカの一面だ。あるいは彼も、今あらためて立つ「人生の踊り場」の自分自身に思いを馳せていたのかも知れない。

ポップカルチャーにおいて、学生時代は表現のテーマや背景になりやすい。多くの人が共有できるテーマであり、背景だからだ。しかし我々が生きる現実は、「就職活動」という踊り場の向こうに、果てしなく広がっている。無職もキャリアも、ブラックもホワイトも、底辺も上流も、地方も都市も国内も海外も入り乱れて、すべての人にリアルな生活がある。40余年の人生の大部分が「踊り場」であるようなしがないフリーの音楽ライターなどは、この音源作品に励まされたりしつつ、『何者』の劇場公開を楽しみに待つのである。(小池宏和)

RO69(アールオーロック)

最終更新:10/11(火) 19:20

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