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円高は再び株価を押し下げるか-想定為替レートの変更事例から中間決算を読む

ZUU online 10/12(水) 11:10配信

■要旨

日経平均が1万7,000円を本格的に回復できない状態が続いている。円高による今後の業績下方修正を市場は警戒しているようだが、試算によると7%程度の下方修正は織り込み済みで、実際に下方修正となっても市場に大きなショックを与えることはないだろう。ただし、想定を超える大幅な下方修正や外部要因リスクが顕在化した場合は1万6,000円割れとなる可能性がある。

■アベノミクス以降、始めての現象

10月下旬から3月決算企業の中間決算が発表される。輸出企業を中心に円高による業績圧迫が危惧される中、円高の影響を株式市場がどの程度織り込んだか日経平均のPER(株価収益率)から考える。

PERとは株価が利益の何倍まで買われているかを示す指標で、この値が高いほど株価は割高、低いほど割安となる。図1は日経平均株価とPERの関係を示しており、緑色の雲のような部分がPER14倍~16倍に相当する。

日経平均は通常PER14倍~16倍で推移することが多く、市場が強気(先行きに楽観的)なときは16倍程度まで上昇する一方、市場が弱気(先行きに悲観的)なときは14倍程度まで下がることを繰り返してきた。

15年8月のチャイナショック、16年初頭の世界経済減速懸念など、悪いニュースが出るたびに株価は大きく下落したが、いずれの場合もPER14倍程度まで下がると割安とみなされ、株価は速やかに反転した。

ところが、今年6月の英国の国民投票でEU離脱が賛成多数となると、予想外の結果からPER13倍程度まで一時的に下がり、その後切り返したものの、7月下旬から14倍程度で張り付いたままだ。2ヶ月以上もPERが14倍程度で足踏みするのはアベノミクス始まって以降、初めての現象である。

■想定為替レートを円高に変更した企業は一部にすぎない

過去の例からはいずれ株価がゾーン内に戻るのが自然で、その方法は2通り考えられる。ひとつは株価が上昇すること、もうひとつはゾーン自体が下がって結果的にPERが15倍程度に収斂することだ(無論、この両方が起きる可能性もある)。

米国の利上げや大統領選挙、欧州金融機関の信用不安、原油価格の先行きなど様々なリスクがあるとはいえ、2ヶ月以上の間1万7000円台を本格的に回復できずにいることから、市場は前者よりも後者の要因を重視していると推測される。つまり中間決算で業績予想が下方修正されゾーン自体が下がることを既に織込んでいるのだろう。

というのも、想定為替レートを円高に変更した企業はまだ一部にすぎないからだ。東証上位500社(TOPIX500構成企業)のうち想定ドル円レートを公表している12月~3月決算の197社について、6月末時点と9月末時点の想定為替レートごとに社数を数えたものだ。

6月末時点では106円以上の円安を想定していた企業が166社(=106+48+12)あった(最も円安は126円を想定)。9月末までに67社が想定レートを円高方向に変更したものの、9月末時点でなお全体の7割に相当する139社(=108+20+11)が106円以上を想定している。ただし5円刻みで集計しているため、円高に修正した社数の合計は67社とは一致しない。

更に、想定レートを変更した67社について決算期別に調べると、12月決算企業は76%(29社中22社)が変更したのに対して、3月決算企業は27%(168社中45社)に過ぎない。これは、12月決算企業は7月~8月に中間決算を発表する際に見直したケースが多いが、同じ時期が第1四半期に該当する3月決算企業の多くは想定レートを据え置いたためだ。

既に想定レートを変更した67社の合計では予想当期利益は7.0%の下方修正であった。想定レートの変更幅が大きいほど予想当期利益の下方修正率も大きいとは限らないことが分かる。為替レートが業績に与える影響は企業によってまちまちなので当然だろう。

■株価は7%程度の下方修正を織込み済み

10月に入り一時1ドル104円台まで円安に動いたものの、10月後半から11月前半の決算発表シーズンには市場実勢と想定レートが乖離している企業、特に中間決算に当たる3月決算企業の多くが想定為替レートを円高方向に変更するとみられる。その場合、業績予想の下方修正を余儀なくされる企業も少なくないだろう。

仮に日経平均ベースの予想EPS(1株利益)が既に想定レートを変更した企業と同じ7%下方修正された場合、株価にはどのくらいの影響があるだろうか。

10月11日時点の日経平均の予想EPSは1,178円、PER14倍は日経平均16,492円に相当するので、1万6,000円台で膠着状態にある最近の株価水準をほぼ説明できる。今後、予想当期利益が7%下方修正されるとEPSは1,096円に減少する。このときPER15倍なら16,433円で、下方修正前のPER14倍の1万6,000円台半ばとほぼ同じ水準だ。

PER15倍は市場が強気でも弱気でもない“ニュートラル"な状態であることを示す。最近の市場の雰囲気は決して悪くないが明るくもない。つまり円高による業績圧迫が懸念されているものの、市場は業績予想が7%程度下方修正されることは既に織込んでおり、実際にこの程度で収まれば市場にショックを与えることなく、スムーズに中間決算を通過できるのではないか。

ただし、もし10%を超える想定以上の下方修正となった場合はこの限りでない。また、外部要因にもリスクの芽は点在している。例えば米大統領選挙が市場の期待と異なる結果になる、11月末のOPEC(石油輸出国機構)総会が不調に終わり漸く持ち直した原油価格が再び下落する、ドイツやイタリアの銀行の信用不安が高まるなどリスクが顕在化した場合は、図4右下に示した1万5,000円程度が視野に入るという話になりかねない。

問題は、これらの外部要因はコントロール不能で成り行きを見守るしかないことだ。となると、せめて1ドル=100円割れといった円高で日本企業の業績が一段と悪化するような事態に陥らないよう祈るしかないのだろうか。

また、7%下方修正された場合にはPER=16倍の1万7,500円程度が上値メドとなることを暗示している。11日には約1ヶ月ぶりに終値で1万7,000円を回復したものの、上値余地の乏しさが日経平均が勢い良く上昇できない一因でもあるようだ。

井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

最終更新:10/12(水) 11:10

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