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ソニーがハイエンド商品を続々投入できた理由、そして欧州のオシャレな有機ELテレビ事情――麻倉怜士のIFAリポート2016(後編)

ITmedia LifeStyle 10/12(水) 22:11配信

 2016年のIFAでは、多数のハイエンド製品を発表したソニーや、欧米における復活の第一歩を歩みだしたシャープなど、モノとテクノロジーの本質が垣間見えるブースがあちらこちらで見られた。リポート後編は、こうした製品やブースにおける各社のコンセプトを麻倉怜士氏独自の目線で読み解いていく。

フィリップスのデザインテレビ「アンビライト」

――前編はパナソニックとソニーのテレビを中心に見ましたが、ソニーブースは先生のイチオシだったそうですね。確かに今年のソニー前評判も上々でしたが、具体的に何が良かったのでしょうか

麻倉氏:今年のソニーブースに関していうと、まずブースデザイン自体が素晴らしかったですね。ソニーブースに入ると気持ちが良くなりました。オーガニックがテーマで全体的に中間色が多く、無垢の木材も使われていて木の薫りがするほか、植物も配置され葉っぱの緑色もあちこちに見えました。

――確かに、ソニーのブースはアップルストアを思わせるようなウッドパネルのテーブルが使われていたりしましたね。世界規模の展示会とは言え、わずか数日間の仮設展示にもかかわらず、まるで常設ショップかと言思うほどのぜいたくな作りのように思いました

麻倉氏:以前はソニーも普通のブースデザインだったのですが、正方形だった場所から長方形の場所に移動した2014年からオーガニック路線を打ち出しました。機械を機能で訴えるだけではなく「技術と人のふれあい」として、生活にどう技術が入るかということを切り口に攻め、現在に至っています。

 今年はスクリーンを支える構造材として逆V字の柱を使用しており、テーブルに関しても従来は化粧板を張った合板だったものを、北欧の無垢スプルス材に変更しているので、そこから醸し出されるヒューマンな味わいを感じました。柱にはハンガーをかけて機能性を出すなど、DIY的な演出も見られましたね。

――木材の柱やそこにかかるハンガーからは、まるでログハウスのような印象を受けました。他社ブースが白一色のテーブルだったりする中でソニーだけは有機的なマテリアルがふんだんに使われており、新鮮なだけでなく落ち着きも感じましたね。

麻倉氏:ブースの天井に横たわる巨大なスクリーンは単純なフラットではなくグネグネと波打った通路に沿って湾曲していて、デザインにリズムが生まれるだけでなく、どこから見ても大きな”SONY“のロゴが見えるという機能面の利点もあります。このようにブース全体が非常にこだわり抜かれており、戦略的な演出が効果的でした。

――一北エントランスに隣接する横長のソニーブースは、単なる展示スペースにとどまらず、北から入ったお客さんにとって各ホールへ抜ける通路にもなります。その際にこのグネグネと曲がった通路というのは、お客さんを通路沿いの展示へ誘導するための上手い仕掛けになるとも思いました。導線という機能面からも極めて効果的なデザインですね。

麻倉氏:昔のソニーは「ソニーの技術は世界一!」「好きなようにやるから俺についてこい」といった上から目線の感じが結構ありましたが、今は人の中に溶け込み、人とうまく関わり合いながら生活のクオリティーを向上させるという一歩引いたモデストなモノづくりに変わってきており、そういった変遷がブースデザインにも現れているのでしょう。出展コンセプトがハッキリとしたブースデザインでした。

 ブースデザインは各社それぞれのコンセプトを立てており、例えば私がとても不愉快と感じたのはドイツの通信最大手Tmobileのブースです。全面をマゼンタの原色で塗りたくった、まるで爆発するような、火山のような、極めて攻撃的な配色で、居るだけで不愉快になるものでした。ですがそれも1つのコンセプトで、そこにはやはり出展に関わるメッセージが込められているのですね。

――「速いは正義」の通信業界ですから、落ち着いたトーンよりもエネルギッシュなトーンを打ち出す方が業種的には合っているといえますね。最も、Tmobileの場合はマゼンタがコーポレートカラーという理由が大きいでしょうけれど……

麻倉氏:ソニーブースを見たすぐ後にメッセベルリン専務理事のハイテッカーさんにインタビューをしたのですが、その際に「各社ともデザインを頑張っているので、ブースデザインのコンテストをやりましょう。プレスセンターの入り口に投票所を設けて、プレスの人達にお気に入りブースを投票してもらえば、ブースを作る人達も励みになるのでは」と提案したところ「それはなかなか面白いですね、業界団体に提案してみましょう」と前向きな返答が返ってきました。IFAのすぐ後に日本で開かれるCEATECは予算もあまりないという都合もあって、どうしてもモノを並べるだけで精一杯な向きがあります。対してIFAやCESでは「ブースデザインが会社のデザインであり姿勢であり主張である」というところがハッキリしているため、とても面白いと感じました。

●ハイエンド商品が続々登場したソニー

麻倉氏:さてソニーの展示内容に関してですが、今年はハイエンドがゴロゴロといった感じでしたね。例えば前編で取り上げたバックライトマスタードライブ搭載の100V型テレビ「KJ-100Z9D」は700万円! レーザープロジェクターの「VPL-VW5000」はなんと800万円!! 昨年アメリカで発表した際は「日本では高価格過ぎるので、マーケティングの都合上発売はしない」としていたのですが、あまりに反響が大きかったため、急きょ日本でも発売することになりました。

 もう1つは各所で話題沸騰中のシグネチャーシリーズです。20万円のヘッドフォン「MDR-Z1R」、27万8000円のヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」、30万円のウォークマン「NW-WM1Z」というラインアップですが、ワンセット全部合わせてまるっと導入すると、何と80万円近くになります。

――おー! 価格も立派なコンポーネントだ

麻倉氏:確かに、単品コンポでも結構良いものが買えるプライスですね。こういうハイエンドの提案ができるようになったのはソニーの変化の表れであり、状況が変わって元気になってきた1つの証拠です。体力がついてくれば以前のように薄利多売を狙う必要もなく、それはアジアのメーカーに任せてソニーは1歩2歩ハイレベルな「付加価値もあるけど値段もあるぞ」というところに意識的にシフトしています。これは間違いなくソニーの意図的な作戦なのです。

 渡欧前に社長の平井さんにインタビューする機会があったのですが、その時に平井さんは「ソニーは意識的に高級品を狙っていきますよ。“ソニー”というイメージがより良い本物のモノを売っていくことを目指すため、必然的に価格も高くなります」と言っていたので、高級化路線は間違いないでしょう。加えて平井さんは「ソニーが他のブランドと異なるのは“五感に強い”ということ」とも指摘していました。「五感に関わるものはクラウドにはなりません。だから『モノを作るなら五感に関わる感動をするものを作ろう』と社内では言っていました。そのメッセージとして経営方針発表会のときにふと思いついたのが『Last one inch』というキーワードなんです」というのが平井さんの言です。

――プレスカンファレンスにおいても、「Kando」(感動)という言葉と共に「Last one inch」をキーワードとして取りあげていましたが、これは言いえて妙だと思いましたね。確かにソニーの製品というのは、AV機器を中心としてアートとユーザーをつなぐキーアイテムとなるものがかなり多いです

麻倉氏:2000年代初頭のブロードバンド普及の際に、幹線はハイスピード化を達成しても家庭内のユーザー端末までのあと一歩がなかなか突破できず、これを「Last one mile」と言っていました。ソニーの切り口は2.5cm(1inch)のインタフェースで、例えばヘッドフォンやVR、テレビにしてもリモコンは手のひらサイズで、ウォークマンもやはり手で触って操作をします。そこでソニーは、人間と機械との接点となる「Last one inch」での感動を最大限化する製品やシステムやコンポーネンツやコンセプトコンテンツを作る、というのが平井さんの主張なのです。人間までの「あと一歩」を大事にすると、画質や音質、あるいは質感や素材感といった触覚に関わる部分を磨くことになります。

 そのケースは今回の展示にもあり、例えば無酸素銅ウォークマンのNW-WM1Zは1.8kgのインゴット(金属塊)から削り出したシャシーに回路を組み込んでいます。これもやはり重さが500g近くあり、持ってみるとズシリとくるんですよ。開発段階でさまざまなマテリアルを試したようですが、アルミや鉄板、あるいはプラスチック樹脂などのシャシーと比べても、この無酸素銅シャシーは圧倒的に音が良いんです。「NW-ZX2」や「NW-ZX100」といったこれまでのウォークマンも良い音を出していましたが、今回のものは次元が違う、本格的なハイエンドサウンドのウォークマンに仕上がっています。

 ヘッドフォンのMDR-Z1Rも「静かな表現ができる」というか、SN感がとても良く「ヘッドフォン的ではない、本格的なオーディオの音」がします。そういう意味で、オーディオのシグネチャーシリーズやテレビのバックライトマスタードライブをはじめとしたハイエンドモデルというのは、ソニーが一時の苦境を脱して、新しい時代の“ソニーらしさ”を作っていこうとしていることの象徴です。今回はまずハイエンドから作り、その後徐々にシャワー効果で幅広いモデルへブレイクダウンをしていくことになるでしょう。重要なのは「最高の製品を作れるようになってきた」ということで、それが現時点におけるソニーの立ち位置であり、ブースに表れているメッセージですね。

――ソニーのハイエンドというと個人的にはQUALIA(クオリア)を思い起こしますが、あれもやはり「感性に訴えかけるハイエンド」というところが出発点でしたね。あちらは経済状況の悪化などもあって潰えましたが、今度はしっかり腰を据えて展開していくことを期待したいです

麻倉氏:話を少々変えて、ハイエンドではなくソニーの先進的なところで面白かったものを紹介しましょう。1つはソニーの新しい研究開発プログラム「Future Lab Program」(フューチャー・ラボ・プログラム)で作られた“首かけスピーカー”「N」ですが、これはグッドなアイデアですね。ヘッドフォンのように耳を覆うのではなくオープンにし、耳からではなく首から音が出てきます。10cmくらいの極小エリアで左右の同じ位置から音が出るため、スピーカーとはまた違う濃密で高密度な音場で、加えて耳につけないのでとてもオープンな感覚です。

麻倉氏:いまだ完成度は低く低音が歪(ひず)んでいますが、これがもう少し低音が出て歪っぽさがなくなり、製品としてのレベルが上がってくると、スピーカー、ヘッドフォンに次ぐ「第3のオーディオ鑑賞ギア」になりそうな予感がします。スピーカーのように場所を選ばず、ヘッドフォンのような圧迫感もない、言うなれば「ウェアラブルスピーカー」です。

 これまでのパーソナルオーディオというと、ブックシェルフやテーブルトップの卓上スピーカーがありましたが、これはウェアラブル、スピーカーを身につけるというのは革命的です。電車の中ではうるさくて使用禁止ですが、上手くすると化ける可能性がありそうですね。

――パーソナルな空間やシチュエーションならば力を発揮しそうです。例えば車やバイク、あるいは自転車の運転中などに使えば、音楽鑑賞はもちろん、ナビ音声の聞き取りなんかが効果的な予感がします。通話機能を持ってくればマスツーリングの見方になりそう。

麻倉氏:同じくFuture Lab Programの「T」も紹介します。これは東大の先生になった暦本純一さんがソニーコンピュータサイエンス研究所時代にやっていたものにとても良く似ていて、上部のプロジェクターで投影された画に手をかざすと、新しい情報や絵が出てくるというインタラクティブなものです。デモには「不思議の国のアリス」のワンシーン、絵本の中からアリスが飛び出してきて花が咲くというコンテンツと、もう1つ住宅産業向けとして建物の模型に間取りが現れたり、ピンチやスワイプ動作で景色のシミュレーションをしたり、あたかもVRのような360°の全方位映像が二次元映像で出てきたりするものがありました。

麻倉氏:ギアとしては焦点深度の深いプロジェクターが上にあり、それの投射で情報を解析してインタラクションするという仕組みで、これもすぐにでも応用ができそうですね。ウェアラブルスピーカーといい、インタラクティブプロジェクターといい、今の技術を使った今までにない新しい切り口のワクワクする「新時代のソニーらしい」提案だと思いました。

――スティーブ・ジョブズはアップルで「イノベーションとは今までにないものを創るに非ず、未来の当たり前を創るもの也」を実践していました。かつて音楽をキャビネットから街中へ開放したように、これからのソニーにも、今一度「未来の当たり前」を作ってもらいたいですね

●シャープの復活劇

麻倉氏:今年のIFAでは”シャープ”の復活劇に驚かされました。自社での出展ではなくヨーロッパでの提携先であるUMCのブースでシャープブランドとして出ていたのですが、「まるでシャープ」と言わんばかりの勢いでブースのあちこちにドデカい“SHARP”の看板がガバガバガバっと出ていました。

麻倉氏:ヨーロッパにおけるシャープの事業は昨年の段階でスロバキアのUMCというメーカーにブランド権と現地の工場を売却していました。IFAは昨年も出展こそしていたもののとてもお粗末なブースで、中国メーカーがたくさんいる区域の片隅にショボい液晶テレビとラジカセが置いてあっただけの「インチキシャープ」状態で「なんだかなぁ……」と思って眺めていました。それが今年は復活を遂げたというか、全てUMCにお任せするのではなくシャープ自身もサポートをしてブースを作っていましたね

――代わりに今年は同じ場所に昨年のシャープと同じ状態の「なんちゃって東芝」の姿が……。日本人としてはなんとも複雑な気分になりました

麻倉氏: シャープは鴻海傘下に入ることで、あちらのCEOであるテリー・ゴウさんの方針で「SHARPをもう一度世界のブランドへ羽ばたかせよう」と頑張っている真っ最中です。数年前までシャープは欧米でも事業展開をしていたのですが、現在のビジネスとしては中国と東南アジアだけで、世界市場に再び挑戦しようとしています。ところが先程も話した通り、ヨーロッパはスロバキア企業のUMCに、そしてアメリカは中国企業のハイセンスにブランド権を売ってしまっています。そのためとりあえずは彼等をパートナーとしてどのようにブランドを再建するかと模索しているのです。

 UMCは方針が明確で、シャープから技術を入れて現地生産をすることと、虎の子の先端技術であるIGZOを新分野に投入して再度ブランディングを図るというものです。UMCとしてはシャープの技術力を使ってUMCとしてのビジネスを進めるという構えなのです。今回のIFAではシャープディスプレイカンパニーの桶谷大亥社長もプレスカンファレンスで登壇し「我々が力を入れているIGZOは非常に将来性のある技術」とPRしていました。

麻倉氏:IFAにおける今までのシャープは、場所としては今のLGがいる18番ホールでした。空間としては今年のソニーと同じ広さを持っていたはずなのですが、半分がディーラー向けの商談スペースだったためにあまり広くは感じませんでした。このため以前の記憶を辿ってもそれ程印象的な感じがありません。ところが今回は実にインプレッシブで、シャープというブランドを大々的にアピールするためそこら中にとても大きな「SHARP」ロゴが舞っていました。そこでIGZO技術を使ったフリースタイル液晶や8K液晶、その他の4Kテレビなどが並べられており「シャープ大復活!」の印象を強く受けたという訳です。

 加えて今回のディーラーエリアには27インチの8Kモニターがありました。326dpiというiPhoneのRetinaディスプレイと同レベルの画素密度で、平たくいえばiPhoneをズラッと並べて27インチにしたようなものです。8Kの27インチというのは自分がその場にいる様な、あるいはそれ以上の体験と言うか細かさで、ひと目見ただけで「27インチの実世界」というものがそこにあるような感じがするほどの精細感を感じます。IGZOの活躍場面としてこういった極めて高精細な映像再現という所のニーズは確実にあるわけで、技術的シンボルとしてのIGZOだけでなく、それを現実のディスプレイへいかに応用するかというところがシャープとしてやりがいがある部分ですね。UMCとしても他にはない技術をシャープから得られるということで、今回のIFAでは両社がウィン・ウィンの良好な関係にあるような感じがしました。

――UMC側がシャープの技術を高く評価していて、そのためシャープブランドを非常に丁寧に扱っているという感じを受けたのが印象的でした。長い間明るい話題に乏しかった同社ですが、IFAを見る限りは「まだまだ頑張れるぞ!」というメッセージが伝わってきたように思います

麻倉氏:次はサムスン電子のテレビについてお話しましょう。現在サムスンはOLEDに代わる技術としてクァンタムドット(量子ドット)の波長フィルターで液晶の色再現性を上げるとういうものを主流に据えています。IFAでOLEDが出てきたのは2013年頃で、この時はサムスンとLGの韓国2社が激しく競り合っていましたが、サムスンは年々規模を縮小してフェードアウトしていきました。数年前からの流れとしてサムスン的には「OLEDは過去のテレビで、最新のテレビはクァンタムドット」と言いたいのです。信頼できる情報筋によると、サムスンは高画質ながらも開発が困難な3原色OLEDの開発に失敗し、途中からLGと同じ製造が比較的楽な白色OLEDに転換して、一部関係者にも試作機の画を見せていたそうです。ですが経営陣の交代によってテレビになる大型OLEDの開発は中止され、中・小型にリソースをつぎ込むという方針転換が取られたということです。

 そういったこともあり、今年のサムスンブースでは一応曲面の自社開発の2KのOLEDテレビは置いてあったものの、「明るく色再現が良いクァンタムドットが素晴らしい」を言うための、まるでOLEDは過去のものと言わんばかりの展示でした。これはCESでも同じで、クァンタムドットの方が明るくHDRにも対応しているため、OLEDは当て馬のような置き方をされていました。

麻倉氏:興味深いことに、サムスンブースでは各色の寿命に対してOLEDとクァンタムドットの比較をしており、ある時点でOLEDは急落するという展示で「いかにOLEDの性能が良くないか」を見せていました。ここにはサムスンの矛盾が見られますね。実は来年投入される次期iPhoneにはサムスンが供給するOLEDが搭載されると業界筋ではもっぱらの噂になっています。中小型向けにはきっちりとOLEDをやっているのですが、大型のテレビ向けには放棄をしているという状態なんですよ。一方でOLEDを貶しながら、もう一方でしっかりとOLEDを売っているという状態です。

――日系メーカーが厳しい時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったのが、ここに来てなんとも言えない迷走ぶりを露呈していますね。一方のLGはどうでしょうか?

麻倉氏:LG陣営は昨年からOLED生産の歩留まりが革命的に向上し、一説によると80%を上回ったとのことです。生産台数も昨年は60万台だったのが、今年は160万台を見込んでおり、来年は200万台の生産を目指しているという好調ぶりですよ。パネルも第2世代になり、第1世代で指摘されていたノイズや階調などの問題にかなり改善の手が入りました。このあたりから各社もOLED採用の流れになり、今回のIFAでもLG(韓国)、パナソニック(日本)、Changhong(中国)、スカイワース(中国)、Metz(スカイワースグループのドイツブランド)、Loewe(ドイツ)、グルンディッヒ(ドイツ)、フィリップス(オランダ)、Vestel(トルコ)の9社が採用しているのを確認しました。今やIFA会場における民生用でOLED不採用の大手メーカーはサムスン、ソニー、ハイセンスの3社のみという状況です。

 中でも中国メーカーが面白いことになっています。今年7月に「中国OLED大会」が深センで開かれ、私も招待を受けて講演してきたのですが、この時のスカイワースは「昨年は2万台売ったのが今年は20万台を目標としており、ゆくゆくは液晶を駆逐して全てOLEDに」という力の入れ様をアピールしていました。

 それからTCL傘下のパネルメーカーであるチャイナスターの事例も挙げましょう。今は液晶専門ですが密かにOLEDの研究を進めており、最初はLGディスプレイと同じ蒸着方式で製造を開始し、2018年にはパナソニックがかつて研究していた印刷方式の実用化を、2025年頃にはさらに開発中のクァンタムドットを使ったOLED(QOLED)を作るとしています。

 このように中国では確実に液晶からOLEDへ流れがきています。現在は特にスマホやタブレットなどの中小型がブームですが、大型化を睨んで中央政府や地方政府が肝入で投資しており、その象徴がスカイワースの自社製造テレビといえるでしょう。OLED大会はこれで2度目ですが、話によるともう一度やるらしく、実はまた招待の声がかかっているんですよ。

――流石にカネが集まっている土地は勢いが違いますね。こういうダイナミズムは政府に強い力がある中国特有のものといえます

●欧州3ブランドの特徴的なOLED

麻倉氏:もう1つOLEDの特筆点は、MetzとLoewe、フィリップスというヨーロッパの3ブランドです。白黒ブラウン管の時代からヨーロッパで信頼されている地場のブランドがOLED採用というのはかなり大きなインパクトとなっています。このうちドイツのMetzとLoeweはデザインと技術力で高いブランドイメージを誇るメーカーで、特にLoeweに関しては5年ほど前にスマートテレビが注目された時、親画面と子画面に分けて映像と情報を個別に表示したり、フレームの着せ替えやカスタマイズといった個別化をしたりしており、私も注目していました。

麻倉氏:昨年はブースが見当たらなかったのですが、今年は25番ホールで大きなブースを構えており、デザインコンシャスで高機能かつOLEDを採用したテレビを展示していました。落ち着いた空間の中でデザイン美と機能美を主張する存在感のあるテレビでしたね。担当者に聴いてみたところ「パネルはLG」と隠しませんでしたが「機能や画作りは自社の自信作」と言っていました。地元ヨーロッパの人にとってこの流れはOLEDに対する信頼感を上げるものでしょう。

麻倉氏:フィリップスは自社でのテレビ事業をやっておらず、台湾企業と合弁のTPvisionでヨーロッパと南米のブランド展開をしています。ですがIFAのカンファレンスでは毎年必ず出てきており、TPvision作フィリップスブランドのテレビが大きく取り上げられます。新会社になってもフィリップスのアイデンティティを崩さず、テレビ背面にカラーLEDを配置し、映像に応じて光るアンビライトで従来のコンセプトをキープしているのです。

――アンビライトというと背面にライトを配置して、映像に応じた光を出すオシャレテレビですよね。そこに宿るフィリップスのアイデンティティとはどんな部分でしょうか

麻倉氏:われわれ日本の凡人的想像力ではなかなか理解し難い発想ですが、基本的にこれは壁掛けテレビなんです。ヨーロッパの部屋は基本的に暗く、照明が白熱灯で色温度が低く、そして間接照明ということで、光の演出にこだわる文化があります。そこにおいてフィリップスは元々ランプの専業メーカーから出発したため、光の演出には一家言持っているのです。

 光の演出という点ではアンビライトの前に「Hue」があります。RGBの組み合わせでさまざまな色を作ることができるこのHueがオープンライセンス化されることで、さまざまなアイデアが出る環境が近年整えられ、スマホやセンサーと連携して様々な照明空間をつくれるようになりました。例えばバスルーム(トイレ)の演出ではスイッチで一斉に点灯する従来の照明と異なり、Hueは近づくとグラデーション的に「じわっと明るくなる」というソフトな点灯動作が可能です。さらにHueとアンビライトを連携させて、部屋中全体をアンビライト化することができます。つまりテレビで青空が映るとすると、アンビライトでテレビ背面を青くしたと同時にHueで部屋全体が青くなるのです。

麻倉氏:このようにアンビライトはここ数年で着実な進化を遂げており、従来は単にLEDライトを配置して色だけを背面に映していたものが、昨年の段階でLEDプロジェクターを背面に搭載し、映像のカタチがフレームを越えて大きくなっていたのですが、今年はテレビ自体がOLEDへ進化しました。パネルはLGディスプレイの65インチOLEDです。実はフィリップスとLGには深い関係があり、というのも、もともとLGディスプレイはフィリップスとの合弁会社「LGフィリップス」としてスタートしていました。現在は資本関係はありませんが、フィリップスはLGディスプレイの創立と運営に深く関わったため、今でもLGパネルに愛着があるそうです。OLEDにより色が見栄し、自発光でコントラスト感が良くなったことに加えて、アンビライトで空間を演出するというのがフィリップスらしいですね。加えて今年は98インチ液晶の8Kアンビライトも登場しました。パネルの出処はLGかBOEか分かりませんでしたが、いずれにしてもこの特大サイズでのアンビライト化は「フィリップスのあらゆるテレビはアンビライトを抱く」という大きな仕掛けといえるでしょう。

――フィリップスのアンビライトはオシャレですよね。単なる情報表示デバイスというところにとどまらず、テレビをインテリアとして機能させるには何が必要かと考えられていると思います。さらにOLED化で画質が良くなるのですから、高級テレビとしてのポテンシャルはかなり高いといえます。

●オーディオになるヤマハの自動演奏ピアノ

麻倉氏:オーディオ系の話題としては、ヤマハの自動演奏ピアノが非常に面白かったです。既に発表済みのものですが、ヤマハの自動演奏ピアノに音楽伝送システムの「music cast」を組み入れたものを展示していました。同じ部屋の中にスピーカーがありアンプがありピアノがありという環境ならば、ピアノは自動演奏で生のピアノ音を出します。その他はMIDIで同期して、スピーカーからストリングやパーカッション、あるいはコーラスといった合奏が出てきます。

 ビックリしたのは、音楽と機械の関係について今まではピアノはピアノ、オーディオはオーディオという世界で進歩してきたのが、楽器とオーディオが融合というか、楽器と機械がハーモニーを奏でる世界というのが、次のオーディオの切り口になってきたことです。今はまだピアノだけですが、MIDIで音源生成すればそれらしい音が出てくる訳なので、技術的にはピアノ以外の楽器でも無限に出せます。

――DTM(デスクトップミュージック)の世界では極めてアコースティックに近い音源がありますね。音楽制作の現場でも用いられているようなハイクオリティーの音源であれば、アコースティックなピアノ音にも充分に耐えられるでしょう

麻倉氏:面白いのは実際の演奏を収録し、そのデータをピアノで自動演奏し、その他をMIDIにしてスピーカーへ振り分けると、融合した空間ではかなり生演奏っぽい演奏会になるという技術です。ヤマハの話では、例えば一時期同社のアドバイザーを努めていたピアニストのスビャトスラフ・リヒテルの演奏データといった貴重な物をはじめ、ヤマハには大量の演奏データがストックされているそうです。自動演奏という枠内で考えると、それこそCDを次々とかけ変えるようにさまざまなアーティストを集めたリサイタルを開けます。実際問題、グレン・グールドの有名な「ゴルドベルグ変奏曲」の自動演奏データを基にCDが作られ、演奏会が開かれたという前例はあります。確かに生演奏で出てくるその場の臨機応変なアーテュキレーションはありませんが、それでもグールド本人が弾いているということは間違いない訳です。

――あのリヒテルがヤマハのアドバイザーを努めていたというのは知りませんでした。しかしオーディオと自動演奏ピアノのセッションとは、なかなか面白い試みですね。楽器からエレキまでなんでもやっちゃうヤマハらしい挑戦です

麻倉氏:こういったことを含めて「自動演奏のオーディオ化」はかなり新しい可能性があるなと思わせる展開でした。ローランドやコルグも電子楽器事業を持っており、ローランドの発表会では全世界の会場をネットワークでつないでセッションをやったりしていました。IoTを使えばこういった事は確かにできるでしょうが、ここにはオーディオがありません。オーディオとアコースティックな楽器をMIDIで結ぶことで生演奏を再現するといったところが、新しい切り口だなと感じました。

最終更新:10/12(水) 22:11

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