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AIは営業の仕事をどう変えるのか?

ITmedia ビジネスオンライン 10/13(木) 7:40配信

 AI(人工知能)が囲碁のトップ棋士を打ち破り、名医たちが気付かなかったガンを見つけ出してみせる……ここ数年で、急激にAIに関するニュースが増えている。こうした特別な例を出さなくても、Amazonのレコメンド(おすすめ)機能や、iPhoneの操作を手助けてくれるSiri、Facebookの自動顔認識など、AIは私たちのごく身の回りのサービスにも存在している。

【AIによって営業の仕事はこう変わる!】

 身近になってきたAI。しかし、「AIに奪われる仕事」についてはなんとなくイメージできても、「AIが自分たちの仕事にどう影響を与えるか?」についてはうまく想像できない人も多いのでは。情報システム部門の人であればイメージを浮かべやすいかもしれないが、日本国内に800万人以上いると言われている営業職や店舗販売員は「正直、ピンと来ない」という人が大部分だろう。

 “物やサービスを売る”仕事は、AIによってどう変わるのだろうか。その未来予想図を見ることができたのが、米Salesforce.comの年次イベント「Dreamforce 2016」(10月4~7日、米サンフランシスコ)だ。Salesforceは営業支援や顧客管理のためのクラウド型サービスを提供している会社で、2016年9月にAI「Einstein(アインシュタイン)」を正式リリースした。

 Dreamforceに集まった17万人のユーザーの興味は、主にアインシュタインに注がれていた。それに応えるように、Dreamforceでは、AIによる影響がさまざまな方面から語られていた。AIが営業に与えるインパクトを、まずはストーリー仕立てで紹介してみよう。

●あるB2B営業マークの1日

 マークが朝起きると、アインシュタインからスマートフォンに通知が来ている。「このままでは予算目標を達成できない」。焦るマークだが、アインシュタインは同時に行動の指針も知らせていた。

 「予算を達成するには、このリード(見込み客)にアプローチするといい」「残念ながら今進行しているあの案件は見込み薄」――マークはAIの分析に従って、その日の行動を組み立てていく。

 これまで、リードや名刺情報は、集めるだけ集めたあと、誰に具体的にアプローチしていくかを担当者が判断する必要があった。しかし、アインシュタインは社名、部署、役職などを分析し、自動でリードにスコア(点数)をつける。マークはスコアを上の方から見ていき、より見込みがある顧客を優先してアプローチができるのだ。

 現在進めている案件についても、アインシュタインは分析をする。過去に成約した案件と比較して「メールの返信が遅い」「上層部とのつながりが薄い」「この人に連絡を取ってみると進展するかもしれない」とアドバイスを出す。マークはAIからの提案に従って、新たなキーパーソンに連絡を取り始めた。アポイントメントのスケジュール調整にお任せだ。

 メールの文章を作るのはマークではない。AIが自動にメールの文章を作成する。マークはその文章を、AIがオススメする時間帯に送信した。相手のメール開封時間や返信時間を分析しているのだ。

 1日の終わりに提出する日報も、1から書く必要はない。カレンダーに登録した行動やメールなどから、AIがレポートの下書きを作ってくれる。マークは日報を書く時間を、本来の営業の業務に使うことができた――。

 まるでSF小説のような光景だが、実は既に実現している。カード決済サービスのSquareやフィットネス製品のFitbitは、アインシュタインを正式リリースよりも先に使い始め、こうした“未来の営業”の仕事をし始めているのだ。

 Fitbitのジェームス・パークCEOはアインシュタインについてこのように評している。「これまでは『データを集めた。でも、それからどうすれば?』がなくなる。データを入れてクリックするだけでよい」。

●B2Cの“売り方”が大きく変わる

 B2Cの営業や販売担当者の仕事も、AIによって大きく変わる。本当の意味で“消費者1人1人のニーズ”に合わせて売ることができるようになるのだ。

 米国のスポーツグッズ専門オンラインショップを運営するFanaticsは、ワントゥワンマーケティングを、AIを使って行っている。これまでFanaticsは、メールマガジンやSNSを活用して売り上げを上げていた。しかしどのユーザーにどの方法でアプローチすれば効果が出るのかは、分析しきれていなかった。

 あまり広告を出し過ぎると、ユーザーは反応しなくなってしまう。ユーザーごとに適切なチャンネルでピンポイントに伝えるには、どうすればいいのか……。

 そこでAIを用いる。「Aさんはレッドソックスのファンで、朝に送ったメールマガジンをよく読んでいる」「Bさんはヤンキースのファンで、ランチタイムに表示したFacebook広告からの購入率が高い」――1人1人のデータを読み取り、ユーザーが欲しがるものを適切な手法でアピールできるようになる。

 ユーザーの個々の分析が進めば、グッズごとの売り上げ予測も立てやすくなる。

 「Fanaticsのグッズは、試合でどちらが勝ったかによって売り上げが変わる。AIを使うことで、勝敗によってどれだけ売り上げが変わるか、どれくらいグッズを仕入れておくべきかを予測できる。そして、メッツが勝った瞬間に、メッツファンにキャンペーンメールを送ることができる」(マーケティング&販売最高責任者クリス・オートン氏)

●AIの民主化

 Salesforceは、アインシュタインを「世界で最も賢いCRM(顧客管理システム)として、Salesforceの製品を使うユーザーのデータサイエンティストになる」とアピールする。

 アインシュタインは独立した製品ではなく、これまでの製品に組み込まれてツールのように使えるもの。データを取得し、アルゴリズムで自然言語処理や機械学習を行い、データの活用や将来予測の手助けをする。データが多ければ多いほどアインシュタインは“賢く”なり、より自社に即した分析をするようになる。

 アインシュタインのアルゴリズムは、そこまで複雑なものではない。製品ごとに組み込まれているため、機能も限定的。IBMのWatsonやAppleのSiriではなく、むしろ“将棋に勝つためだけに作られた”ソフトPonanzaに近い。

 Salesforceがたびたび強調しているのが「AIの民主化」だ。ビジネスユーザーがエンジニアやデータサイエンティストなしで使えるように、AIを簡素化している。

 「営業は、実際に“売る仕事”以外に時間を取られている。スマートにアインシュタインを活用することで、営業は売る仕事に集中できる」(Salesforceエグゼクティブバイスプレジデントのアダム・ブリッツァー氏)

 リードの絞り込み、メール送信、ユーザー分析、日報……営業がやらなければいけないことは多い。それをAIに任せることで、収益を生み出す仕事に注力できる。いつかは、単純な仕事はAI同士でやりとりするようになるかもしれない。AIは営業の仕事を、より効率がよく専門的なものに変えていく。

最終更新:10/13(木) 7:40

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