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不動産価格サイクルの先行的指標(2016年)~大半の指標がピークアウトを示唆~

ZUU online 10/13(木) 18:20配信

■要旨

●取引ベースの不動産価格指数(*1)の公表により、価格動向の把握が以前より早期に可能となり、一部で価格下落が確認された。

●株価とJ-REIT価格はともに頭打ちとなっており、マイナス金利政策の導入による一時的なJ-REIT価格の上昇も、必ずしも不動産投資市場への資金流入を示唆するものではなかった。

●不動産取引は件数、金額ともに減少し、明らかに不動産投資市場の活力は失われつつある。

●東京の賃貸オフィス市場では、高水準のオフィス稼働率が横ばいで推移しており、新築ビル募集賃料やAクラスビル成約賃料が頭打ちしている。

●海外の先行的市場では、ロンドンのオフィス価格指数がBrexitの影響から大きく下落するとみられ、また、香港のオフィス価格指数は高値圏で横ばいに推移している。

●大半の指標が不動産価格サイクルのピークアウトを示唆しており、今後は価格下落がより明確になるとみられる。加えて、国債バブルといえる現在、長期の視点から、改めて将来の金利上昇局面での対応も検討しておきたい。

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(*1)国土交通省「不動産価格指数(商業用不動産)、日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」
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■はじめに

2015年下期に中国経済の失速懸念などを背景とした急激な株価下落、円高がみられて以降、金融市場では不安定な動きが続いている。一方、取引価格動向の把握が難しい不動産投資市場では、価格下落は確認されず、マイナス金利政策も導入されたことから、依然としてアベノミクス以降の価格上昇が継続しているとの見方が多い。

このように金融市場と不動産投資市場で隔たりが感じられる中、本稿では、不動産価格サイクルの現状を先行的な指標を用いて確認し、今後の不動産価格見通しの参考としたい。

■不動産価格データ

まず、不動産価格の現状を公表データで確認する。不動産価格に関しては、従来から鑑定評価額ベースの価格指数、および投資家アンケートベースの期待利回りが公表されているが、これらは実際の取引動向に遅行する性質があるため、現在のところ価格上昇および利回りの低下が継続している。

また、2012年から、実際の取引ベースの価格指数として中古マンション価格指数(リピートセールス法)が公表されているが、これについても現在まで価格下落は確認されていない。マンション市場では、実需による取得が大半を占めており、取得者は今後の価格見通しよりも取得条件を重視する傾向がある。当面、低金利のもと有利な取得条件が続くとみられ、マンション市場での価格下落はオフィスなどの不動産投資市場に遅れると考えられる。

一方、2016年3月から商業用不動産(オフィス、商業店舗などを包括)を対象とした取引ベースの価格指数(ヘドニック法)も公表されるようになった。鑑定評価額に比べ、実際の取引価格の推移は変動が大きく、直近の2016年第2四半期時点、南関東ではオフィスおよび住宅価格は高止まりしているものの、商業店舗価格の頭打ちが顕著となっている。

このように、取引ベースの価格指数の公表により、以前より早期に不動産価格動向の把握が可能となった。ただし、これらの取引ベースの価格指数の直近値は、3~8ヶ月前(*2)の取引を反映したものである。また、取引価格の把握は重要なものの、株価同様、過去の価格推移の把握と将来の見通しは異なる。以下では、今後の不動産価格を見通す上で参考となる各指標について確認していく。

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(*2)四半期分を3ヵ月後に公表するため、直近値は更新直後に3~5ヶ月前、更新直前では6~8ヶ月前の取引を反映。
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■株価動向

(1)株価の先行性

今後を見通す上で有用な指標といえば、まず株価が挙げられる。株価は将来のポジティブ要素を織り込みながら上昇し、その後、追加的に織り込めるポジティブ要素が減少し、悪化要素が上回った時点で下落に転じる。

株価は需給や市場関係者の思惑から短期的に過剰に動くことも多いが、各投資家が自身の利益追求、損失回避に徹する結果、総じて将来の景気動向を反映する。その意味では、不動産価格も将来の景気動向および賃料収入の変化を反映するものだが、両者のサイクルを比べると、やはり株価が不動産価格に先行している。

株価が不動産価格に先行する理由はいくつか考えられるが、収益の変動性の違いが大きい。一般に企業業績は景気に連動して大きく変動するが、不動産収益はかなり安定している。実際、TOPIXと東証REIT指数の構成銘柄のEPS推移を比較すると、全体の企業業績と不動産収益では大きく変動性が異なっている。

相場の転換点では、様々な環境変化が企業業績に影響するとの予想から、株価が先行的に動き、安定的な不動産収益への影響は段階的に織り込まれるため、不動産価格の動きは遅れる。

加えて、投資市場の流動性も不動産価格の遅行要因といえる。不動産取引では、市場に売り出された物件が、実際に取引されるまでに一定の時間を要する。また、仮に株価の底打ちと同時に不動産投資家が強気に転じたとしても、新たに高値の物件が売り出されるまで価格上昇は認識されにくく、加えて、物件の個別性が大きいことから、強気に転じた投資家がすぐには取得せず、希望に沿う物件の売り出しまで待つ場合が多い。

このように、収益の変動性および投資市場の流動性の違いから、株価は不動産価格に先行して動き、また、J-REIT価格も投資市場の流動性の違いから不動産価格に先行して動く指標といえる。

(2)マイナス金利政策の影響

現在の株価をみると、TOPIXは2015年以降、明らかにピークアウトしており、J-REIT価格も頭打ちの状況といえる。ともに弱含みの株価とJ-REIT価格だが、両者を比べると直近の1年間はJ-REIT価格のアウトパフォームが顕著となっている。大幅上昇していた株価が反動で下落した面もあるが、マイナス金利政策の発表がJ-REIT価格を押し上げた部分も大きい。

マイナス金利政策が発表された1月29日、東証REIT指数は5.6%上昇し、TOPIXの2.8%を上回った。2月以降も安定的に推移し、東証REIT指数の上昇幅は、一時、マイナス金利政策の発表以降16%に達した。こうしたJ-REIT価格の上昇は、不動産投資市場への資金流入の増加や不動産価格のさらなる上昇を示唆するものとして注目を集めた。

この間のJ-REITの売買主体をみると、一連の価格上昇は外国人投資家に起因するものであった。マイナス金利政策発表後の2月と3月、外国人投資家はJ-REITを各月1,000億円前後買い越していた。

しかし、外国人投資家の動きを株式市場全体でみると、2月と3月には世界的なリスクオフの動きから、各月2兆円以上も日本株を売り越していた。

つまり、J-REIT価格の上昇は、株式投資資金のセクターシフトの一環で、日本株を月間2兆円売却した一部の1,000億円が、安定セクターであるJ-REITに向かったものといえる。実際、外国人投資家による日本株の売り越しが一巡した4月以降、J-REIT価格は頭打ちとなり、マイナス金利政策をポジティブに捉えた新たな資金の流入は限定的だったとみられる。

このように、J-REIT価格の一時的な上昇は、必ずしも不動産投資市場への資金流入の増加(*3)や不動産価格のさらなる上昇を示唆するものとはいえない。さらなる不動産価格の上昇には、株価上昇の裏付けが必要であり、グラフでみる限り、再び株価が2015年上期の水準(TOPIX、1600ポイント)を回復するような展開が必要と思われる。

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(*3)不動産投資市場とは異なるが、相続税の節税に有利な貸家の新設着工は顕著に増加している。
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■不動産取引件数および金額

不動産投資市場では、取引件数が先行的に変化し、不動産価格動向に先行するとみられている。実際、取引件数は1999年や2006年に、不動産価格サイクルのピークよりも1年以上早く頭打ちしていた。

一般的な不動産取引では、売却希望価格が提示される中、市況回復時には、買い付けが増加し、取引増加に伴って新たに高値の物件が売り出され、一方、市況悪化時には、買い付けが減少し、取引縮小に伴って既存の売却希望価格の引き下げが進む。

また、サイクルのピーク時には、取引金額の拡大が顕著になる傾向もある。実際、過去のサイクルのピークでは、リスク許容度が拡大した機関投資家による大規模投資や、財務基盤が改善した不動産会社による大規模再開発プロジェクトなど、様々な象徴的な投資が実施されてきた。

2015年は、取引件数および金額が減少し、ピークアウトを示唆する典型的な形となった。市場関係者の間では、取引縮小の原因は売却物件の不足にあり、引き続き投資家の買い意欲は強いとのコメントが聞かれている。しかし、客観的に取引データをみると、明らかに不動産投資市場の活力は失われつつあるといえる。

■賃貸オフィス市場

賃貸市場は基本的に不動産価格に遅行するものの、一部に比較的先行的な指標をみることもできる。賃貸市場の中では、オフィス市場の整備が最も進んでおり、市場データも豊富である。

賃貸オフィス市場では、まず、オフィス稼働率の先行性が目立つ。需給改善局面では、先にオフィス稼働率が高まり、次いで強気に転じたビルオーナーが募集賃料を引き上げるケースが一般的である。取引価格データの期間が短いため 、価格に対する先行性は確認できないものの、オフィス稼働率は賃貸市場で最もサイクル周期の早いデータとして重要である。

現在、東京のオフィス稼働率は、非常に高い水準で横ばいに推移しており、今後の頭打ちが懸念される。実際、2016年下期に竣工予定の大規模ビルをみると、満室竣工が相次いだ上期ほど入居予約状況は順調ではない。今後、市場のオフィス稼働率はやや悪化する可能性がある。

その他では、新築ビル募集賃料 やAクラスビル成約賃料が、平均オフィス募集賃料や鑑定評価額に先行している。特に、新築ビル募集賃料は、2008年初や2014年上期に賃料下落に転じたタイミングの早さから先行性が強いとみられる。

新築ビルをめぐっては、オフィス需給の逼迫が見込まれる際、竣工以前に入居予約が進み、残りの限られた空室スペースで高い募集賃料が設定される。一方、需給見通しに余裕があり、テナント側が急がない場合、大きな空室を抱えて竣工し、募集賃料を引き下げる。このように、新築ビルでは今後の需給見通しが募集賃料の変化として表れ易い。

加えて、賃料上昇期には収益見通しが楽観的になるため、オフィスビル開発が都心の好立地から周辺部にまで広がる傾向がある。よって、サイクルのピーク以降に竣工する物件は、先行の新築物件に比べて競争力が劣り、新築ビル募集賃料の低下要因になるとも考えられる。

オフィス稼働率と同様、データ期間が短いため、新築ビル募集賃料やAクラスビル成約賃料のオフィス価格に対する先行性は確認できないが、新築ビル募集賃料は、既に2014年後半に一旦下落し、その後上昇したものの、2016年に入り、再び頭打ちの状況となっている。

また、Aクラスビル成約賃料も、稼働率が非常に高い状況にもかかわらず、既に下落傾向を示している。最近のAクラスビル賃貸市場では、景気見通しの悪化につれて新規事業のオフィス需要が不足し、集約移転需要が中心となっている。

集約移転を予定する企業では、急ぐ必要がないため2018年の大規模供給局面を待つケースが多い。そのため、オフィス稼働率が非常に高い状況にもかかわらず、限られた空室をテナントが競い合う状況になっておらず、賃料が弱含んでいる。

■海外市場動向

また、近年、不動産投資市場のグローバル化が進むなか、海外の先行的市場の動向も参考になる。年金基金などの機関投資家は、国際分散投資の観点から世界の主要都市を比較して投資している。低成長として回避されていた日本市場でも、海外資金の流入が活発化しており、直近はやや縮小しているものの、市場の1~2割を占める買い主体として海外投資家の影響力は小さくない。

世界をみると、特にロンドンの不動産投資市場では、機関投資家から個人の富裕層まで、世界中の様々な投資家が集まり、海外資金による取引がほとんどを占めている。

以前からオフィスなどの取引価格指数が整備されるなど市場透明度も高く、世界のベンチマーク市場として不動産価格サイクルの周期も早い。実際、ロンドン中心部のオフィス価格指数と米国主要都市中心部のオフィス価格指数を比べると、ロンドン市場は2007年上期にいち早く下落局面に入るなど、米国市場に先行していた。

また、香港の不動産投資市場も世界での注目度が高く、オフィス賃料や取引価格はともに世界最高水準にある。アジアのベンチマーク市場と認識されており、シンガポールや東京の不動産に投資する際、香港との相対評価に基づいて判断する海外投資家も多い。

香港のコンドミニアムや区分所有オフィスは、個人投資家や中小企業による投機的な売買対象にもなっており、取引の流動性が高く、ロンドンと並んで世界で最も不動産価格サイクルの周期が早い、あるいは短い市場と認識されている。実際、2009年上期の回復局面をみると、香港セントラルのグレードAオフィス価格は、ロンドン中心部のオフィス価格よりも早期に回復していた。

このように、世界のベンチマーク市場にはある程度の先行性があり、さらに、オフィスなどの取引価格指数が公表されていることから、日本市場の参考にすることができる。

2016年第2四半期時点、高値圏にあるロンドン中心部のオフィス価格は、既に小幅な下落を示していた。また、今後はBrexitの影響が表れることから、かなりの価格下落が予想される。

一方、香港セントラルのグレードAオフィス価格をみると、2013年以降は上値が重くなったものの、堅調を維持している。ただし、香港景気は低迷しており、香港証券取引所と上海証券取引所の相互接続によって中国本土企業の香港進出が活発化した4という特需がオフィス市場を支えてきた面がある。中国をはじめアジア地域全体の景気見通しが芳しくないことから、今後のさらなる価格上昇は難しいと思われる。

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(*4)ご参考、増宮守「オフィス市場におけるインバウンドの影響~教育関連施設やアジア系企業の拡大などに期待~」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2016年6月30日 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53288?site=nli
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■おわりに

2015年9月時点には不動産価格サイクルのピークアウトを示唆する指標と堅調を示唆する指標が混在していたものの、今回、大半の指標が不動産価格サイクルのピークアウトを示唆する形となった。

今後、不動産価格の下落がより明確になるとみられるが、未曾有のマイナス金利環境のもと、大幅な不動産価格の下落を想像することは難しい。たしかに、近年の不動産価格の上昇と期待利回りの低下は金利の低下のみで説明可能となっており、不動産投資リスクプレミアムの縮小によって期待利回りが低下した2007年当時とは大きく異なっている。

言い換えれば、国債バブルが膨らんではいるものの、2007年当時のような過剰な賃料上昇期待はみられず、不動産バブルとはいえない状況である。

今後の不動産価格の上昇については、マイナス金利の深堀に対する反対意見も多いなか、一層の金利低下が不動産価格を押し上げる余地は限られ、景気見通しの改善による賃料上昇期待、つまり不動産投資リスクプレミアムの縮小が必要と考えられる。

一方、今後の不動産価格の下落リスクについては、各指標が示すとおり、サイクルに従った下落局面が予想される。当面は低金利の継続を前提に大幅な価格下落は想像し難いものの、低金利によって高騰してきた不動産価格は、マイナス金利の国債と同様、長期の金利上昇リスクを抱えている。

最近、日銀の買い取りを見込んだ短期の国債投資を傍目に、機関投資家が長期の国債投資を縮小している。流動性が低く、売買コストも高い不動産は、長期投資向きの資産であり、ましてや、日銀が直接買い取ってくれるものでもない。国債バブルといえる現在の不動産投資に際しては、長期の視点から、改めて将来の金利上昇局面での対応を検討しておきたい。

増宮守(ますみや まもる)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

最終更新:10/13(木) 18:20

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