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子どもの写真をアップしまくって大丈夫なのか 親が知らない「本当の危うさ」

ITmedia ビジネスオンライン 10/13(木) 8:14配信

 2016年9月、世界ではこんな話題が大きく取り上げられた。

 オーストリアのケルンテン州に暮らす18歳の女性が、自分の子供時代の写真を両親が許可なくFacebookに掲載したとして訴えを起こした。父親は自分で撮影した写真だから、好きなように掲載する権利があるとし、娘が要請するように写真を削除することはしないと主張。結局、両者の意見がこじれて裁判で争うことになったのだ。

【子供の写真をアップする前に……】

 オーストリアの有力な週刊誌『Die ganze Woche』で最初に報じられたこのニュースは、英字メディアがこぞって取り上げたことで瞬く間に世界中に拡散された。もともと、FacebookなどのSNSに我が子の写真をアップする人は世界中にたくさんおり、子供の写真を掲載することについては以前からその賛否が議論されてきた。

 実は、このニュースはその後に急展開を見せるのだが、とにかく世界ではこの騒動をきっかけに、改めて子供の写真をSNSなどに掲載することについての議論が再燃している。

 まずこのオーストリアのケースをもう少し詳しく見てみたい。

 ケルンテン州の18歳の女性は、親が彼女の同意なく500枚ものプライベート写真を掲載したとして訴えを起こした。幼少時代からの画像は両親のFacebook上の友だち700人にシェアされており、プライバシーの侵害に当たると主張している。

 『Die ganze Woche』の取材に対し、この女性は次のように語っている。「両親には恥も制限もない。私がおまるに座っていようが、ベッドで裸で寝ていようが気にすることもない。成長のすべての段階が写真に収められて、一般に公開されている」。そして、それらの写真のせいで恥ずかしい人生を送っていると主張し、両親に写真を削除するよう頼んでも応じる気配はないので、訴訟を起こすことに決めたという。

●深く考えずに無防備のまま写真を掲載

 18歳ともなれば、進学で新しい生活を始めることもあるだろうし、就職をする人もいるだろう。だが誰かがインターネットで自分の名前を検索すると、子供時代に「裸でおまるに座る」写真などが出てきてしまったら、それをショックに感じる人は少なくないはずだ。同級生や同僚になったばかり、またこれから知り合っていく人たちが自分の「歴史」を知っているなんて、あまり気持ちのいいものではない。

 日本でも子供の写真を頻繁に、大量にSNSやブログなどでシェアしている人は少なくない。例えば芸能人も子供の写真をアップする人は多いが、セキュリティーの問題もあり、顔をぼやかすなど個人が特定できないようになっている場合がほとんどだ(子供を有名にする目的で公にしている場合もある)。だが一般人で子供の写真を公開している人の中には、深く考えずに無防備のまま写真を掲載してしまっている人もいる。

 Facebookなど公開範囲が指定できるものでも、制限なく写真を公開しているケースも見受けられる。こうしたケースでは、ひょっとしたら将来的に子供から訴えられてしまう可能性も出てくるかもしれない。欧米でも、SNSは比較的新しいメディアということもあり、今後何年かすると、今では想像できないような何らかの「反発」が子供側から出てくるかもしれないと、専門家らは警告している。米ミシガン大学とワシントン大学が2016年に発表した、249組の親子を調べた調査結果では、10~17歳の子供たちの多くは親が自分のことをインターネット上で公表することに「かなり心配している」と答えている。

 英国の調査では、両親が子供の写真をシェアする場合、Facebookが一番人気だ。さらに親は平均で、子供が5歳になるまでに200枚、15歳になるまでに1500枚近い写真をSNSにアップするという。英国ではそうした親は「ぺアレント(親)」にからめて、「シェアレント(シェアをする親)」とも呼ばれている。ただ問題なのは、そうした親のうち85%ほどが、公開範囲を制限するセッティングを気にしていないと答えていることだ。また79%は、アップした写真が他人に見られる場合があると思っていないという。

 こうした傾向は、将来的に子供が違和感を覚えてしまうだけでなく、危険でもある。米国のセレブなどについては、インターネット時代より前から、誘拐事件などを警戒して、子供の顔写真をメディアに掲載しないよう暗黙の了解があったと聞いたことがある。現在もSNSではそういう理由から写真のシェアを警戒している有名人もいるはずだ。

●社会的・心理的な問題になる可能性

 フランスでは、小児性愛者が親のアップした写真を参考にして子供を狙っていると報告されており、2016年に入ってフランス当局は、子供の写真を過度にアップするのは危険であると警告を出している。ちなみにフランスには厳しいプライバシー法があり、自分の子供を含む他人の私的な詳細を広めることで、有罪になれば1年以下の禁固刑または最大で約5万ドルの罰金が科される可能性がある。そんなことからも、子供の写真を掲載したことで罰金や禁固刑になる親が今後出てくるかもしれないと言われている。

 さらにフランス当局は、子供が成人した後でインターネット上に私的で恥ずかしい写真が掲載されていると知ることは、子供にとって社会的・心理的な問題になる可能性があるとも警告している。

 フランスのプライバシー法からも言えることだが、こうした子供のプライバシー問題は写真だけにとどまらない。文字で記録されたものも対象になる可能性がある。さらに言うと、SNSやブログなどをオープンに、かつ活発に行う両親をもっていれば、子供が大きくなったときに、自分の両親の仕事や趣味、イデオロギーや、はたまた好きな食事に至るまで、図らずも周囲に知られてしまうことになる。

 むろん、こうした子供にからむ問題はSNS側も認識している。例えばFacebookは、2015年に英ロンドンのカンファレンスで、将来的に写真をどの範囲にシェアするのか警告するシステムを組み込むと述べている。これによって、親が子供の写真をシェアする際に、もう一度再考するよう促す機能を実現するという。

 またFacebookやTwitterでは、公開されている写真の削除をリクエストすることが可能だ。例えば友人など第3者が、自分の子供が写った写真を勝手に掲載し、削除のお願いをしても聞き入れてくれなかったとする。この場合、Facebookであれば、その写真に写っているのが13歳以下の子供なら、親がFacebookに削除要請を出すことができる。13歳以上なら子供自らFacebookのメンバーになれるので、自分で削除要請を出せる。

●改めて「子供の写真問題」を考える

 ここまで否定的なことばかり述べてきたが、もちろん、SNSなどで写真をシェアすることは決して悪いばかりではない。公開やシェアの範囲などを確認しながら写真や動画を共有することで、なかなか会えない身内や友人、遠方にいる家族などと子供のつながりを保つことができる。要は使い方、ということだろう。

 ここまで見てきたように、オーストリアのケースはさまざまな議論に発展しているが、週刊誌『Die ganze Woche』の記事が報じられた後に、この「18歳が訴えを起こした」というニュース自体が実はすべて捏造(ねつぞう)だったのではないかとの疑惑が噴出した。別のメディアが取材に動いてみると、弁護士のコメントや裁判の予定に矛盾が生じていることが分かったためだ。

 すると、そんな疑惑を吹き飛ばすかのような記事が9月20日、同誌に掲載された。その記事によれば、娘の子供時代の写真の削除を拒み続けていた父親が、自分たちのケースが国際的に大きな騒動になっていることを知り、恐れをなし、写真の削除に応じたというのだ。しかも記事には、後ろ姿だが18歳女性だと思われる写真も掲載されている。

 結局、よく分からないまま、この裁判と騒動は消滅した。何とも中途半端な幕切れだ。だが改めて「子供の写真問題」について考えさせてくれたことには、意味があったと言えるかもしれない。

(山田敏弘)

最終更新:10/13(木) 8:14

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