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井伏鱒二の未公開書簡見つかる 162点、広島・福山大研究チーム公表

山陽新聞デジタル 10/13(木) 22:21配信

 広島県福山市出身の小説家・井伏鱒二(1898~1993年)が大正から昭和にかけて故郷の同級生に宛てた未公開書簡162点が見つかり、13日、福山大人間文化学部の青木美保教授(日本近現代文学)の研究チームが公表した。最初の作品集「夜ふけと梅の花」を発表した30年以前のものが約半数含まれており、人の心を動かす作品が書けないことへの悩みや鬱屈(うっくつ)した心情を吐露している。青木教授らは「文壇デビュー以前の空白期を埋めるとともに、井伏の内面がうかがえる貴重な資料」としている。

 書簡は、福山中学(現福山誠之館高校)の同級生・高田類三さん(故人)宛てのはがき129枚と封書33通で、中学を卒業した1917年から代表作「黒い雨」の雑誌連載が始まる65年までのもの。高田さんは中学時代に芸術活動を一緒に行った親友で、井伏が早稲田大に進学した後も親交があった。

 井伏が教授とのトラブルで大学を休学して間もない21年10月3日付のはがきでは「何故、えらい作家と同じ様にタマセヱ(魂のことか)をゆりうごかすようなものが書けないのかと日夜、そのため思ひなやみます」と明かしている。また、休学直前の同年9月21日付の絵はがきでは「何かえたいのしれない圧迫許(ばか)り」「何(ど)うなるかしれませんが、書くことだけはよし度(た)く思ひません」と晴れない気持ちをつづっている。

 書簡の所有者は福山市在住の高田さんの長男。青木教授が2008年に井伏文学の研究で聞き取り調査を行った縁で、昨年12月に書簡を託され、調査、研究を依頼された。

 この日行われた記者会見で、調査チームの兵庫教育大大学院の前田貞昭教授は「作品ではうかがい知ることができなかった井伏の内面が生々しく書き表されている。書簡を研究することで井伏文学の形成過程が分かる」と意義を説明した。

 井伏の直筆原稿や書簡を多数所蔵するふくやま文学館(同市丸之内)の岩崎文人館長は「地元の同級生とのやり取りがまとまって出てきたことで、井伏の本音に迫ることができる。井伏文学の源流をたどる上で役に立つ」と話している。

 井伏鱒二(いぶせ・ますじ) 広島県安那郡加茂村(現福山市加茂町)生まれ。福山中学卒業後、早稲田大に入り文学の道に進んだ。1938年、「ジョン万次郎漂流記」で直木賞。戦後、原爆をテーマにした「黒い雨」を発表し、66年には文化勲章を受章している。

最終更新:10/13(木) 22:21

山陽新聞デジタル