ここから本文です

なぜ今、「転売NO」と訴えたのか――チケット高額転売問題、音楽業界の“本音”

ITmedia ニュース 10/14(金) 15:27配信

 「チケット高額転売に反対します」――音楽業界4団体が8月、100組以上のアーティストの賛同を得て発表したこんな声明が、ネットで議論を巻き起こした。

【数十万円で転売されるチケットも】

 ライブチケットを買い占め、価格を釣り上げて転売する“ダフ屋”行為を批判し、「チケット転売問題をみんなに考えてほしい」と訴えたこの声明。賛同の声が多く寄せられた一方、「転売問題は何年も前からあったのに、なぜ今さら?」「ニーズの高いチケットが高額になるのは当然の市場原理では」など疑問も上がった。

 音楽業界はなぜ今、「転売NO」と訴えたのか。転売チケットの問題点と解決策は――声明を出した4団体の1つ、コンサートプロモーターズ協会の石川篤総務委員(ディスクガレージ常務取締役)に聞いた。

●チケット高額転売、問題点は

――チケット高額転売の問題点はどこにあるのか。

 悪質な業者が転売目的でチケットを買い占め、本来欲しい人の手に届かなくなっている。業者はチケット購入サイトに何百も会員登録し、専用プログラムを使うなど特殊な方法でチケットを買い占め、「チケットキャンプ」など転売サイトで高額転売する。あるアーティストの公演では、チケットの3分の1が転売サイトに出品された例もある。

 転売サイトの存在が、転売チケット全体の相場を上げてしまう問題もある。転売サイトの出品額は、売る側の言い値だ。数十万円など極端な高額で出品されることで、実際の取引価格とは別に心理的な相場観ができあがり、転売チケット全体の価格が上がっている面がある。

 せめて数千円プラスして売るならまだいいが、元のチケットの10~20倍の価格で売られてしまうと、コンサートに10~20回行けたはずの人が1回しか行けなくなり、グッズなどの購入予算も奪われてしまう。結果として音楽業界にお金が回らなくなり、業界を衰退させる。

●「転売NO」、きっかけは「チケットキャンプのCM」

――チケット転売問題は以前からあった。「転売NO」の声明を、今出したのはなぜか?

 過去十数年、音楽業界は、CDから主な収入を得てきた。だが、CDの売り上げが減少し、ライブが大きな柱になってきた今、いかにライブで収益をあげるかを考える必要が出てきた。そのため、日本音楽制作者連盟(ミュージシャンが所属する事務所で構成する業界団体)と、コンサートプロモーターズ協会(プロモーターで構成する業界団体)が昨年初頭ごろから、定期的にビジネス検討会を行ってきた。

 そんな中、昨年7月、チケットキャンプがテレビCMを打ち始めたことで、話し合いの場が転売対策を考える場に変わった。

――「ヤフオク!」や「チケット流通センター」など、チケットキャンプ以前にもライブチケットの転売は行われていた。なぜ、チケットキャンプのみを問題視するのか。

 「ヤフオク!」はチケット専業ではなく、「チケット流通センター」は派手な広告はしていなかったため、音楽業界としても、それほど問題視していなかった。利用するユーザーの意識も、ちょっと“闇”っぽいとか、後ろめたい感情もあったと思う。

 だがチケットキャンプのテレビCMによって、転売サイトがあたかも世の中に認められた“公式”というイメージになり、ユーザー側にも罪悪感がなくなってしまうと危機感を覚えた。そのため、まずはアーティストが声をあげ、チケットキャンプは公式ではなく、チケットの高額転売には反対だと明確に示すことが必要ではないかと考えた。

 アーティストに声をかけたところ、あれだけの賛同が集まった(計172組・26の音楽イベントが賛同)。賛同者として載っていないアーティストも、話を聞いた全員が、チケットの高額転売に反対だと話していた。

――チケットキャンプは2013年にスタートした新興サービスだ。チケットキャンプによって転売市場は変化したのか。

 ライブチケットの2次流通マーケットは500億円程度あり、うち6割・300億円近くをチケットキャンプが握っていると推定している。チケットキャンプ誕生以降、2次流通マーケットは2倍近くに急拡大し、転売チケットの価格も上がったと考えている。

●チケットキャンプと交渉もしたが……

――チケットキャンプと直接、交渉はしなかったのか?

 もちろんした。チケットの転売も定価以下に収めてほしいなどの要求を出したが受け入れられず平行線にまま今日に至っている。

 正直なところ、販売済みのチケットの2次流通は、メーカー(アーティストやコンサートプロモーター)にお伺いを立てなくても法的には問題ない。ただ、チケットは一般の工業製品と異なり、メーカーであるアーティストが意思を持っている特殊な商品。そういう商品に対して、もう少し配慮があってもよかったのではないか。アーティストとまったく関係ない人が、メーカーも知らないところで、専業として商品を扱い、もうけちゃうのは、ちょっと……。

 チケットキャンプには、もう少し業界を研究していただき、音楽業界とコミュニケーションしてからビジネスを立ち上げて欲しかった。チケットキャンプのシステムや資本を使って、音楽業界にもユーザーにも役に立つ方向はあったはずだ。

 高額転売チケットの購入でファンの財布が傷めば、音楽業界に流れるお金が減ってしまう。チケットキャンプは音楽業界がないと成り立たず、音楽業界を宿主とするといわば寄生虫だが、寄生虫だけが栄えると、やがては宿主を殺してしまう。

●チケット価格は「アーティストからのメッセージ」

――転売が横行する背景には、日本のライブチケットの価格が極端に安く、ほとんどのライブで前の席も後ろの席も一律料金になっているせいだという指摘がある。人気アーティストのライブの最前列のチケットでも定価は5000円~1万円程度。実際の市場価格を反映していないため、定価で手に入れて転売すれば、利益が得られることは明白だ。

 需給に基づいた相場観から見れば確かに、チケット価格は著しく安いかもしれない。ただ、値付けもアーティストからのメッセージであり、一般の経済原理と違う。中高生でも頑張ってお小遣いを貯めれば行ける価格に設定しており、「価格を上げたら、お金持ちでない人が見られなくなってしまう」という思いをアーティストは持っているし、最前列から最後列まで、どの席でも等しく楽しんでもらえるよう努力している。

 前方の席のチケットを高額するなど価格差をつけると、お金がない学生などからは、前方の席で見られたかもしれないチャンスを奪うことになるし、「金もうけに走るのか」とアーティストのイメージが傷つく恐れもある。前方と後方の席だけ売れ、中間の席が余るなど、席による売れ行きのばらつきが出るリスクを恐れる関係者も一部にいることも確かだ。

●米国ではチケット価格に差 日本ではなぜ一律?

――米国のアーティストのライブは、前方と後方の席で価格差が5~10倍あることはざらだ。チケット販売サイト「Ticketmaster」では、チケットの1次購入者が、利益を上乗せしてほかのユーザーにチケットを転売できる仕組みも導入されている。米国でできることがなぜ、日本ではできないのか。

 米国とは業界構造が違う。米国の市場はLive Nation(マドンナも契約する世界最大のイベントプロモーション会社)と、その傘下のTicketmasterのほぼ寡占状態。そもそもLiveNation自体が大資本だ。潤沢な資本を投下して大規模で高度なシステムを開発し、利益を最大化しようとしている。

 日本の音楽業界は、米国と比べると資本力が小さい。CD販売とライブを両方行っているエイベックスやソニーグループは好調だが、多くのレコード会社は経営が厳しい。アーティストは個人事務所に所属していることが多く、マネジメントからライブ、CD販売、チケット販売まですべて手がける企業はない。

――米国の音楽業界は大企業が支配し、市場原理がアーティストにまで浸透しているが、日本音楽業界はそうではなく、アーティストの「誰もが平等にライブを楽しんでほしい」という“思い”も強い。アーティストの思いを尊重すると、市場原理のままにチケット価格を上げることは難しいということか。

 そういう面はある。

――とはいえ現実問題として、人気のライブチケットを手に入れるのは困難で、どうしても行きたければ、転売サイトに頼らざるを得ない。アーティストは、一般の人がチケット入手にどれほど苦労しているか実感がないため、チケット価格弾力化の必要性も理解しづらいのでは。

 頭では理解していても、昔からのやり方から離れられないアーティストも多いと感じる。

――人気のアーティストは、ライブに行きたい人の数に対して売り出されるチケットが少なすぎるため、需給がひっ迫して価格が高騰する。公演数を増やすことで、需要と供給のバランスが取れないか。

 ライブは生身の人間が自らをすり減らしながらやっているため、むやみに回数を増やせない。大きな会場を借りられればいいが、そのためにはリスクを張れる大きな資本が必要。日本の音楽業界は資本が小さいため難しい。首都圏ではホールや劇場が多数、改修工事に入り、ライブ会場が不足する「2016年問題」も起きている。フェスを開拓するなど機会を増やす努力はしているが、限界がある。

●チケット価格含め、変えていかなくては

――市場価値を反映しない「一律低価格」のチケットは、時代に合わなくなっている。

 多様な選択肢を求めるユーザーニーズが確かに存在し、チケットキャンプのような転売サイトがそれを満たしていたことは認めなくてはいけない。価格が極端に高騰しない、“健全な”2次流通マーケットの必要性はすごく感じている。

 それ以前に、1次販売のあり方も考えなくてはならない。「チケットぴあ」などで一部始まっているが、一度購入したチケットを定価以下で再販できる仕組みなど、ライブに行けなくなった人の救済は急務だ。その後、チケットの価格にメスを入れることも始めざるを得ないだろう。

 チケットの価格設定も含めて「変えていかなくては」という認識は、音楽業界にも広がりつつある。今回、「転売NO」のキャンペーンをきっかけに、ファンのマインドも、多様な価格のチケットを受け入れる方向に変わりつつあると感じている。寄せられたマーケットの声を、業界やアーティストと共有しながら考えていきたい。

●「本人確認で転売対策」には限界も

――転売を防ぐため、チケットを購入した本人しか来場できないよう、本人認証を厳格化する手段もある。

 チケット購入時にスマートフォンのSMSで端末を認証して本人確認し、スマホ1台あたり1回しか買えないようにする仕組みは今後、メインストリームになってくるだろう。

 チケット購入者が顔写真を登録しておき、ライブ会場で係員が照合する顔認証システムを導入しているアーティストもいるが、導入コストが大きく、チケット価格にコストが反映されてしまう。認証の厳格化にも限界がある。

――ネットダフ屋を規制するための法改正も訴えていくのか。

 イベント会場など「公共の場」に現れるダフ屋は、都道府県の迷惑防止条例で規制されている。ネット空間も「公共の場」と認められれば、ネット上でのダフ屋行為も規制できるようになるが、判例がない。物価統制令でもダフ屋を規制できるが、この「戦後のヤミ市対策」の法律を使って摘発されるケースはまれだ。

 迷惑防止条例でネット上のダフ行為も規制できるよう、「ネット空間を公共の場として認めてほしい」と、国会議員や都道府県、関連省庁に訴えているが、なかなか難しい。公共の場にネット空間が含まれると、ほかのさまざまな法律に影響が出ることや、実害が激しく出ているわけではないこと、明確な根拠法がないことなどが理由だ。

 サーバはどこにでも置けるため、ネット上でのダフ屋行為は、どこを発生地とみるかで議論が分かれる。ダフ屋行為を規制する条例がない県もあり、全国的に網羅するのは難しい。結局、リアル空間での現行犯逮捕しかない。

 コンサートプロモーターズ協会は、チケットの不正転売防止を目的とする協定を警視庁と結んでいる。今後も警視庁と情報共有し、摘発につなげていきたい。

――古物営業法違反での摘発例もある。嵐のチケットをネット上で無許可で転売した疑いで、香川県の女が9月、古物営業法違反の疑いで逮捕された。

 この事件は、転売チケットを仕入れてさらに転売しており、仕入れたチケットが中古品だったため、転売チケットが古物とされ、摘発につながった。新品のチケットを買い、それを転売してもうける場合は古物には当たらないため、古物営業法違反は適用できない。

最終更新:10/14(金) 15:27

ITmedia ニュース

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

「水中に潜む本当の危機」
インドガリアルとキングコブラはインドの象徴ともいえる爬虫類ですが、水質汚汚濁のために存亡が危ぶまれています。環境保護者のロミュラスウィトカーがこの素晴らしい動物たちの貴重な映像をお見せして、彼らのそして私達の生活を支えている川の保全を訴えます。