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「残業(長時間労働)は仕方ない」はもうやめよう

ITmedia ビジネスオンライン 10/17(月) 6:40配信

●常見陽平氏に聞く 長時間労働問題

鈴木: 政府が「働き方改革」を打ち出し長時間労働を是正しようとするなか、電通の新入社員が過労自殺するという事件が起きました。いま、この長時間労働問題について世間の関心は非常に高まっています。

【サイボウズでは社員が希望する働き方を選択できる(出典:サイボウズ公式Webページ)】

常見: はい。単に長時間労働を是正するだけでなく、仕事をすることによって人が死ぬ、傷つくことがあるという現実とどう向き合うべきか真剣に考える必要がありますね。自殺未遂などの“自殺予備群”まで入れると、かなりの数がいるんですよ。

鈴木: 要因の全てが仕事によるストレスと関係しているわけではありませんが、確かに日本では自殺予備群が多いという調査結果もあります。

常見: 危険なのは、そうした精神状態になっていることに自分自身や周囲がなかなか気付けないということ。今回の件も、自分が気が付かないうちに深刻な「うつ状態」になってしまった。そして、SNSで自分の状況を発信しているのにも関わらず、周囲はその異変に気付くことができなかったわけです。

 実は私も昔、仕事のストレスでうつが発症し、突然倒れたことがあるのですが「こんな状態だったら死んで楽になりたいな」――と、自然に思ってしまった経験があります。

鈴木: そうだったんですね。長時間労働やプレッシャーなどによって精神を病んでしまう……こうした日本の労働環境は本当に変わっていけるのでしょうか。

●「残業は仕方ない」で終わらせるな

常見: 現実問題として残業(長時間労働)を完全になくすことは難しいでしょう。なぜこれまで残業がなくならないのかを突き詰めると、残業が企業にとって合理的だからです。ある人の仕事がとても忙しくなったとき、その仕事を任せられる同じスペックの人を雇うことの方が大変ですからね。もちろん、残業を肯定しているわけではありません。それによって体を壊したり、死んでしまう問題があるのですから。

 しかし、残業をさせた場合、企業はその人対して割増賃金(残業代)を払うくらいのペナルティしかない(80時間以内であれば)。しかも、労働者にとっては残業代が良い小遣いになったりもします。

 こういう構造にメスを入れて「残業は仕方ないもの」ではなく「残業は絶対によくない」という空気を社会全体で作っていかなければなりません。

●全員がバリバリ働きたいわけではない

鈴木: 具体的にはどんな取り組みが必要になるのでしょう。

常見: 会社の中でバリバリ働きたい人と、そうではない人をきちんと分けていくべきしょう。そもそも社員全員が必ず競争しなければならない環境っておかしいですよ。

鈴木: バリバリ仕事をする人より稼げなくても、プライベートの時間を十分に確保したい人向けの働き方も提供していく必要があるということですね。

常見: IT企業のサイボウズなどが良い事例ですね。同社では「ワーク重視型」と時短勤務ができる「ライフ重視型」のコースを用意しており、本人が希望する働き方を選ぶことができます。こうした取り組みによって、離職率は28%(2005年時点)から4%に減少し、女性社員の割合も増えたそうです。

鈴木: それは良い取り組みですね。

常見: 本来、非正規雇用のメリットはそういう自由な働き方ができる部分にあったのですが、結局、非正規も含めて過剰に働かせているんですよね。フリーランスという働き方もあるけど、それこそ残業代などのあらゆる保障がないわけで……。

 昔から「会社に捉われない自由」か「会社による安定」どちらをとるか――などと言われてきましたが、今は両方ありません。会社にいてもボロボロになってしまうわけですから。

●政府の「働き方改革」は「働かせ方改革」である

鈴木: 最近、常見さんは各メディアで「働き方改革」は「働かせ方改革」だと言っていますね。どういうことか、詳しく教えてください。

常見: どう働くかの前に、そもそもどうやって仕事の絶対量を減らすかという議論がないんですよね。とにかく多くの人を働かせたいってだけで……。いかに働かなくてもいい仕組みを作るかという視点をもってほしいですね。

鈴木: 先ほどのサイボウズの事例も一つの方法ですが、例えば、AIやロボットが得意なところは積極的に任せていくことも必要ですよね。

常見: そうです。どんどん人間から仕事を奪ってもらわないと。それなしに人口減少の中で成長しようとすれば、働く時間は増えていく一方ですから。

 政府の「働き方改革」には疑問視すべき点が多くありますが、それでも今後の状況は良くなると期待しています。今は人手不足で超売り手市場ですから、その分企業はようやく労働者にやさしくなっていくはずです。

鈴木: 労働者にやさしくない企業は、人を確保できすに淘汰(とうた)されていきますからね。本日はありがとうございました。


(聞き手 鈴木亮平)

最終更新:10/17(月) 6:40

ITmedia ビジネスオンライン