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対談「AIで株価は予想できるのか」 荻野調(財産ネット社長)+尹 煕元(サイバーファイナンスラボ主幹)

ZUU online 10/18(火) 18:40配信

金融庁と日本経済新聞社主催で9月20-21日に行われたフィンテックサミット「FINSUM」のピッチランコンペにて「野村証券賞」と「大和証券賞」をダブル受賞したベンチャー企業がある。デイトレーダー向けの株為替予報サイト「兜予報」を昨年9月から運営する財産ネットだ。

■FINSUMピッチランコンペでダブル受賞した「兜予報」

「兜予報」は、経済ニュースがその関連企業の実際の株価にどう影響するか、すなわち「上がるか、下がるか、織り込み済か」といった情報をアナリストやトレーダーが分析して投票し、さらに人工知能(以下、AI)による分析を加味してその予測を公開する独自のニュースキュレーションサービスである。2015年12月期には予想数260強で予報精度81.1%を達成している。

受賞が発表された9月21日から2日後、丸の内のFINOLAB(フィノラボ)において開催された私が主幹をつとめるデジタルハリウッド大学大学院サイバーファイナンスラボ主催のイベントにおいて、同社荻野調社長と「AIで株価は予測できるのか」をテーマにしたトークセッションを行った。

今回はその対談の模様をお伝えしたい。

■ニュースと市場の関係 株価を動かす1%のニュースを検出する

尹 兜予報さんではニュースを基に株価を予測するサービスを提供されていまが、ニュースと市場の関係については私も2002年に論文を書いています。ニュースのような定性的なものがマーケットに及ぼす影響を定量化できないかとモデリングを試みたわけです。

結論だけを言えば、ビッド・アスク・スプレッド(売り手と買い手の思惑の差)を流体力学のモデルにあてはめることで情報の質を判別する方向論を説いたのですが、たとえば9.11の前後の相場環境をモデルにあてはめて分析すると「同時多発テロという出来事が市場に与えたインパクトはそれ以前の5倍だった」ということがわかります。実は9.11が起きる前の夏、金融のプロ達の間では「経済が落ち込むのではないか」という懸念があったんです。でも、そういった漠然とした不安よりも、同時多発テロというわかりやすい不安は「ニュースとしてのエネルギーが大きかった」と評価することができました。

ただ、私がやったことは「大きなニュースが市場全体に及ぼす影響」の数値化です。荻野社長の場合は、個別銘柄ごとにニュースと株価の相関関係を予想されているわけですよね?

荻野 そうですね。ある銘柄のIRやPRが流れたら1、2分後には分かる仕組みになっていますし、あとは突発的な情報を漏らさず拾うためにツイッターも見張っています。それらを独自のクローラーを使って収集し、そのなかから株価に影響をもたらしそうなものだけを厳選して予報対象としています。

世の中のニュースの99%は株価の視点ではノイズですから、株価には影響がありません。株価の変動の多くは理由もなく取引のなかで作られていくものです。しかし1%のニュースは株価を動かします。

それ故、キュレーションサービスが必要とされているだろうという思いが当初からありました。検出に必要なシステムはIR、PR、ニュースをクロールしてくるクローラー、その中から「Hot Topic」となったものを検出するSNSアラートなどです。

ではどうやってノイズではないデータを厳選できるのかというと、過去の事例があるからです。「こういうネタがあったときに株価がこう動いたよね」と因果関係がはっきりしているものを蓄積しています。そうした情報だけをAIに学習させているからこそ、その後の予測精度が高まります。

単になんでもかんでも学習データとするのではなく、そこに因果関係があるのかどうかの判断をする人間を介在させることが情報の精度アップには必要です。

尹 因果関係といっても、いろんなパターンがありますよね?

荻野 あります。誰が見ても「いい話」であれば株価に織り込まれるまでのタイムラグは短いですし値幅も大きいですが、たとえば地方銀行同士の包括提携のニュースなどは初速が遅かったり、内容が専門的なバイオテクノロジーや医療関連といったニュースは大して動きしなかったりする場合もあります。そういったさまざまなパターンも学習データとなります。

■株価への織り込み時間はわずか1年で半分以上短縮

尹 いまタイムラグという話がありましたが、私が書いた論文でも「ニュースはダイレクトに市場に影響を与えるのではなく、まるでスライムのようにぐにゃーと流れる」と指摘したんですが、株価に織り込まれるまでのタイムラグは日に日に短くなっていませんか?

荻野 短くなっていますね。特にラージキャップ(大型株)の場合は機関投資家が張り付いているので、ニュースが出て株価に織り込まれるまでの時間はたった数分の世界。個人投資家が気付くころには株価に織り込まれてしまっています。ですから予報を当てることは容易でも、「兜予報」で記事化してユーザーがチャンスを掴む時間がありません。

そこで、いま「兜予報」で対象としているのは中小型株です。そもそも大型株の値幅はせいぜい3%くらいでデイトレーダーにとっては旨味が少ないのですが、中小型株なら短時間でストップ高ストップ安まで動くことも毎日のようにあります。

そして、そのタイムラグは30分から1時間半くらいありますから、この間に当社が記事化し各アナリストがポジティブかネガティブかの投票をした上でユーザーがチャンスを掴む時間が残ります。中小型株といってもすべてが対象ではなく、デイトレーダーにとって面白そうな銘柄200種に絞って情報の分析と発信をしています。

ちなみに我々のシステムでは大型株の情報も収集しており、イベントが発生してから何分くらいで上昇し何分くらいで織り込みが終了するかという時間軸の予測計算も可能です。「兜予報」メディアとしては配信していませんが、ヘッジファンド向けにはそういったプロダクトも提供しています。

尹 御社のサービスの影響でさらにタイムラグが縮みそうですね。

荻野 実際、サービスを開始した2015年の9月の時点で情報が株価に織り込まれるまで2時間くらいかかっていました。それが今では1時間を切るようになりましたので2倍以上早くなったことになります。我々の記事が株価の方向性を動かすことはありませんが、織り込み時間への影響がないと言ったらウソになるかと思います。特に我々のユーザーさんはSNSでリアルタイムに情報を拡散しますので。

■トレーダーの判断を代行するサービス

尹 では実際にどういったことを「予報」として発信されているんですか?

荻野 このサービスを考える原点となったのは株価に影響を与えそうなニュースが出てきた際に、それがプロ投資家がいる株式市場からみて「良い話」なのか「悪い話」なのかという判断を個人投資家ではなかなか出来ないからです。だったら、ニュースを配信すると同時にポジティブかネガティブかのシグナルを出してあげようと。

しかし、実際にはトレーダーが行う判断は「上がるか下がるか」だけでなく、「いつ」動くのか、そして「どれくらいの値幅」で動くのか。この3つがセットです。よって、「兜予報」ではこれら3つの軸をもとに、アナリストの投票と記事の配信時間を起点として1時間以内に5~20%の値幅が期待できるデイトレーダー銘柄として情報をまとめ、発信しています。

尹 すべてですね(笑)。

荻野 そういうことになりますね。

■8割の精度はどうやって実現しているのか

尹 8割の精度と言われていますが、どうやって実現されているんですか?

荻野 大きくわけて2つありまして、一つは先ほど申し上げた「こういうニュースならこうやって動くだろう」と因果関係が判明しているニュースを蓄積していること。そしてもう一つは、アナリスト陣による投票制です。

みなさんもご存知と思いますがが、個々のアナリストの予想精度は、実はあまり高くありません。Yahoo!ファイナンス上に「投資の達人」というものがありますが、数回以上予想されている方の精度はせいぜい6割くらいが限界です。しかし「51%以上」ということが大事で、コンドルセの多数決論で示されている通り、半数以上の参加者が正しい判断を出来るという前提において、その総意は正しい判断を導き出すと言えます。この数字の裏にあるのは、金融のプロは「こういうニュースなら上がるよね」というものに対して間違った判断をしないということです。

統計的には6割の予想精度のアナリストを十数名集めた時の多数決の精度は8割程度まで上がります。世の中には投票系の仕組みを採用しているサービスがいろいろありますが、49%以下しか当てられない素人をいくら集めたところで足の引っ張りあいをするだけで統計的には集めれば集めるほど精度が落ちますので、結果的に3割程度になってしまっているかと思います。まあ、そのサイトを使って逆張りをするという使い方もありますが(笑)。

でもこれは、統計学的に言えば当たり前の話なんです。ですから我々としては個々の特別なアナリストを用意しているのはでなく、「統計理論という仕組み」を信用しているということになります。

尹 意見が分かれる場合もありますよね?

荻野 当然あります。プロであっても意見が割れていることもユーザーがわかるようになっているので、「専門家の意見が食い違っているということは手を出さない方が良い、あるいは大きな値動きはしないんじゃないかな」といった判断をする材料になります。

■短期売買と長期保有の本質的な違い

尹 「兜予報」ではあくまでも短期売買が前提ですね。

荻野 そうです。1時間以内にポジションをクローズする前提です。逆にそのスパンでみないとニュースと市場の関係をチャンスとみなす意味がありません。もちろん、その会社の業績が上がって株価も長期的に上がればいいのですが、市場はそんなに単純に動きません。結局、個別企業の株価は日経平均を含むマスマーケットの影響を大きく受けてしまうので、数か月後のマーケット状況に多分に依存してしまいます。

ですから、株を長く持つということは「日経平均を買う」または「セグメントを買う」くらいの認識がないとダメです。しかしながら、実際にはオーバーナイトで株を持つリスクについて理解していない方が多いんじゃないかと思います。日本時間の夜の間にFRBがどんな発言をするかわからないですからね。

一方で、超短期的な値動きにフォーカスするときの注意点としては「世の中がどう感じるか」という視点なんですね。たとえば去年、ある大手のメガネ屋さんがウェアラブル製品のプロトタイプを作るというニュースがありました。私のようなIT業界出身者から見れば「いまさらグーグルグラスのパクリ?」と感じたわけですが、結果として見れば株価は2時間で10%くらい上がりました。どういうことかというと、世の中ではグーグルグラスが製造中止になったことを知らない人が圧倒的に多いからなんですよ。

ですからそのニュースに対する正しいデイトレ判断としては、「ウェアラブルという流行りのキーワードが入っているニュースだから買いを入れて、上がったらすぐに売る」となります。その技術が企業にどういった長期的な影響を与えるかといった長期保有するときの株の選び方とは考え方が異なります。ちなみに現在、中長期の分析もやっており、データを蓄積しているフェーズです。

■AIを使いこなす基本は「食わせるデータの質」

尹 荻野さんのお話をうかがっていると、検索エンジンとデータ分析の部分ではAIを使っていますが、肝心な部分については人間が行っていることがポイントかなと感じたのですが、いかがですか?

荻野 おっしゃる通りで、AIを使うときの大原則は「何をデータとして食わせるか」です。つまり、元データがしっかりしていることが一番重要で、そういった意味では我々がもっとも重視しているのはAIではなく金融工学です。数学や統計学、それらの方が大事だと思います。

たしかにグーグルのような巨大なデータセンターを持っていたら、AIをブンブン回せば何かしら「予報っぽいもの」は出てくるんでしょうが、普通の企業には真似できません。だから、なんでもかんでもAIにデータを食わすのではなく、あらかじめ人間がモデリング化して、整理された状態まで持っていってからようやくAIに学習させる。このプロセスが欠かせません。

「兜予報」でいえば、「いつ動くか?」「どれくらい動くか?」「どっちに動くか?」。その3つが明確にわかっている過去のデータを集めて、AIに学習させることができるか。その集めるフェーズが重要で、我々にはそのノウハウがあります。こうやって根拠といいますか、理屈をちゃんと持っていれば、ベンチャー企業でもグーグルに対抗できるものは開発できると思います。

実際、当社では金融工学や統計学を専門としている大学院生を数名インターン・アルバイトとして雇用し、彼らに統計分析をさせ、そのなかででてきたものをAIに食わせる作業を行っています。

尹 なるほど。私も全く同感で、「AIはなんでもできる」という世の中の風潮は嘘だと思っています。人間の言葉に自然と受け答えをしてくれるAIがあったとしても、前提としているのは元データがあることであって、それがなければ何もできません。ですからベースとなる式やモデルを作って、そのパラメーターをどう調整するか。もっといえばそれをどう使うかということに関しては人間の仕事なんですよね。

荻野 そうなんです。私は昔、サーチエンジン開発にも携わっていたんですが、そのころの言語処理って結構大変だったんですね。自分たちでアルゴリズムも辞書も作らないといけない。それを経験している人は元データの価値を身を持って知っています。

でも最近のAIアプリケーションをみていると基本はコピペでできています。Github(オープンソース開発のプラットフォーム)に誰かが苦労して作ったライブラリ(プログラム)があって、それを引っ張ってくるだけ。でも本質を理解せずに使っているため、明らかに効率的ではないデータの食わせ方をしている人たちが大勢いるわけです。

■AIで株価予測はどこまで激化するか?

尹 いまはアナリストの投票制も併用されていますが、将来的にAIだけで株価の予想ができると思いますか?

荻野 学習精度が高まったら自動化はできるとは思います。ただ、そんなに簡単な話ではなくて、アルゴリズムって「レアケース」に弱いんですね。それこそ尹先生がおっしゃった9.11のような出来事。それまでの前提がガラッと変わるような事態が起きたら人間は通常モードの思考をいったん止めることができますが、AIにその自動補正が働くのか。そこがポイントです。

自動補正についても当然、我々も取り組んでいるところで、たとえばBrexitのときは株価がイレギュラーな動きを見せましたが、このケースでは対応できており、しっかり分析をしていました。想定はあくまでも想定なので、それを外れたときにも使えるAIの実現は一筋縄ではいかない課題ですが、その分、期待も大きいです。

尹 私は日本で誰よりもHFT(高速取引)を分析してきた人間だと自負しているのですが、判断が自動化されるとタイムラグはミリ秒の世界になると思いますか?

荻野 HFTのような「アルゴリズム同士の勝負」をもし全員が使うようになれば、必然的に何ミリ秒早くデータをとり、結果を出すかという話になるでしょうが、全員がHFTを使うようになるとはあまり想像できませんね。

尹 そうなんですよね。私もよく「HFTはアルゴリズムトレードの一部に過ぎない」という言い方をしています。HFTだから儲かるのではなく、しっかりしたロジック、モデル式こそが儲けの源泉であり、速さは手段でしかないと。それでいうとAIも取引を有利にはしますが、それも手段にすぎず、やはりベースは数学であり、人間だということを今日のお話ですごく感じました。

荻野 私もけっこう「人間」が好きなので、アルゴリズムの勝負は行き着くところまで行くんだろうなとは思いながら、最後は人間の余地が残るんじゃないかなと期待しています。ようは業績が良いのにアルゴリズムの勝負の結果で株価が下がるといった形にはならないんじゃないかと。最後は人間の心理、感情なのかと思います。

(取材・構成=郷和貴)

荻野 調
財産ネット社長。20代は大学院に通いながらソニー等で500億円規模の事業再編を含む事業立上げを経験。30代は住友系伊藤忠系VCにてシリコンバレーを含む数十社に投資、数十社のM&A、IPOを実現。2011年よりグリーにてグローバル事業立ち上げ、事業開発部や子会社を率いて、提携・投資・Exit・事業立ち上げ・事業売却等に従事。2015年に起業。「財産管理をもっと簡単にもっと安全に」「プロの資産運用術をあなたに」「経済アナリストを番頭に」をモットーとしたフィンテックベンチャー企業「財産ネット株式会社」を立ち上げ現職。ハーバード大学修士号(Computer Science)、東京大学博士号取得。

尹 煕元(ゆん・ひうぉん)
CMDラボ代表。慶應義塾大学大学院博士課程修了(工学博士、数値流体力学)。証券会社にてトレーディング業務などに従事。2007年に最先端金融工学の開発・研究を行うCMDラボを立ち上げ、金融データの分析や可視化など先駆的な取り組みを続けている。デジタルハリウッド大学大学院「サイバーファイナンスラボ」主幹。同ラボの次回の予定は11月14日(月)。早稲田大学ファイナンス稲門会、東京大学i.schoolと合同で「ファイナンスにおけるイノベーションと戦略の融合」をテーマにしたパネルディスカッションを行う(申し込みはこちらから https://goo.gl/forms/nwZIeOU0QonPKcIh1 )。

最終更新:10/18(火) 18:40

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