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不妊症治療に光 「世界初」iPSから卵子作製 九大などマウスで成功

qBiz 西日本新聞経済電子版 10/18(火) 11:50配信

 マウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から体外培養だけで卵子を作ることに世界で初めて成功したと、九州大大学院医学研究院の林克彦教授らのチームが17日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。全ての過程を培養皿の上で行っており、卵子の形成中に起こる不妊症の原因究明や治療法の開発に寄与するとして注目される。

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 従来の手法としては、京都大などのチームが胎児のiPS細胞から卵子のもとになる「始原生殖細胞」を作ることに成功し、雌の体内に移植して卵子を作製していた。

 九大のチームは、生後10週(ヒトの25~30歳に相当)の雌の尻尾のiPS細胞から始原生殖細胞を作り、液や器具を変えながら培養。胎児の卵巣細胞を混ぜて分化を導き、一つ一つの細胞を手作業で離して成長しやすい配置にし、約4千個の卵子を形成できた。この過程で大切な遺伝子刷り込みも培養皿上で確認した。

 これらの卵子と雄の精子を体外受精させてできた約1300個の受精卵を雌に移植したところ、8匹のマウスが誕生。順調に成長して子どもをつくり、iPS細胞から作製した卵子が正常であることを確認した。

 不妊症や胎児の発育異常は、卵子の形成過程に起因するケースが指摘されている。林教授は「ブラックボックスだった分裂過程などが観察でき、異常を発見しやすい。ヒトの遺伝子異常の原因解明や創薬などにつなげたい」として、現在は霊長類のマーモセットで同様の研究を続けている。

 小川毅彦横浜市立大大学院教授(生命医科学)は「従来の手法ではがん化の可能性もあり、ヒトへの応用に大きな障壁となっていた。不妊症だけでなく絶滅危惧動物の保護や生命誕生のメカニズム解明にも大きな一歩となる」と評価している。

ヒトへ応用慎重議論を

 iPS細胞による卵子作製は、不妊や先天性疾患の原因究明につながると期待される一方、ヒトへの応用には倫理的問題をはらみ、慎重な議論が求められる。

 研究に関する国の指針では、ヒトのiPS細胞から卵子や精子を作ることは認めているが、受精は人為的に命の源を生み出す行為として禁じている。昨年9月には政府の総合科学技術・イノベーション会議生命倫理専門調査会も、受精が必要といえる研究段階には達していないと結論付けた。

 ただ、一部には「受精させなければ正常かどうか分からない」と解禁を求める声がある。iPS細胞による生殖細胞研究は国外でも進んでおり、皮膚などから卵子を作る方法が確立されれば、不妊に悩む人が相次いで海を渡る可能性がある。

 一方で調査会は、研究が細胞の分裂段階に至った場合などに検討を再開するともしている。九大チームはこの段階まで達しており、今後、ヒトへの応用論議にまで一気に深まる可能性もある。


■人工多能性幹細胞(iPS細胞)…神経や筋肉、血液などさまざまな組織や臓器になる能力をもつ新型万能細胞。皮膚などの体細胞に数種類の遺伝子を導入して作る。京都大の山中伸弥教授が2006年にマウスで、07年にヒトでの作製に成功。病気や事故で失った細胞や組織の機能を回復する再生医療などへの応用が期待されている。がん化の恐れなど安全面で課題もある。

西日本新聞社

最終更新:10/18(火) 11:50

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