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着々と進む密告・監視社会への司法大改悪(1) 穴だらけの「取り調べ可視化法」 山口正紀さん

アジアプレス・ネットワーク 10/19(水) 5:10配信

◆取り調べ可視化 負の代償

5月に成立した「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」は「取り調べ可視化」を口実に盗聴法を改悪し、司法取引の導入など、新たに権力に強大な権限を付与した司法大改悪です。

法案の出発点は冤罪ラッシュでした。2007年、鹿児島の志布志事件、富山の氷見事件など冤罪事件が続発し、10年から3年連続で足利事件、布川事件、ゴビンダさんの事件と再審無罪が確定しました。10年には厚労省の村木厚子さんが無罪。大阪地検の証拠改ざんが発覚し、日本の刑事司法を見直すべきだという声が高まりました。

11年5月、民主党政権の江田五月法相(当時)が法制審議会に諮問し、特別部会が設置されました。可視化を具体的に検討してほしいという趣旨でしたが、警察・検察側の委員が「全面可視化」に強硬に反対し、「可視化すると供述を取れなくなる。それに代わる武器が必要」などと主張し始めます。14年9月の答申は、可視化の対象を全事件の数パーセントにとどめる一方、警察の権限を拡大するものになってしまいました。

◆通信傍受を拡大

昨年3月、法案が国会に上程されました。取調べの一部録音録画、司法取引導入、通信傍受=盗聴拡大が三つの柱。刑訴法だけで9項目、通信傍受法など五つの法律「改正」を一括法案にした「抱き合わせ法案」でした。安倍政権の常套手段です。

日弁連執行部が賛成してしまい、メディアも「可視化法案」などと一斉に報じました。そのため法務省はすんなり通ると楽観していたようですが、冤罪被害者を中心に反対の声が広がり、参院で継続審議になりました。しかし今年5月、参院法務委員会で民進党が土壇場で審議打ち切りに応じ可決、衆院本会議で再可決・成立してしまいました。

最大の問題は、この司法大改悪の恐ろしさを知らない人が多いことだと思います。

◆ごく一部に過ぎない取り調べ時の録音録画

具体的な中身と問題点について見てみましょう。

「取り調べの録音録画」は対象になる事件を極めて狭く限定、被疑者が身体拘束されている裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件に限られています。起訴にいたる事件のわずか2、3パーセント。起訴にいたらない事件を含めたら全逮捕事件の0.8パーセントです。

「被疑者の供述が取りにくい」と取調官が判断すれば録音録画しなくもいいなどという抜け穴もあります。任意の取り調べ、参考人聴取も録音録画の対象外です。

ほとんどの冤罪事件は任意の取り調べで自白させられた後、逮捕されています。逮捕してから録音録画すれば捜査側に都合のいい自白部分だけが録音録画され、裁判員に有罪の心証を与えてしまいます。部分録音・録画は「ニセ可視化」。冤罪被害者たちはかえって冤罪の道具になると危惧していました。

その危険性が明らかになったのが今年4月、宇都宮地裁で無期懲役が言い渡された「今市事件」判決でした。物証がなく、「客観的事実のみから被告人の犯人性を認定することはできない」としながらも、長期拘束・取調べのごく一部の「自白」の映像により「自白には任意性が認められ具体的で迫真性に富んだ内容」だとして有罪を認定しました。裁判員の一人は「映像なしに状況証拠のみの裁判だったら結果が変わっていたと思う」とコメントしています。(続く) (整理 うずみ火新聞/栗原佳子)

※本稿は2016年9月10日、大阪市立福島区民センターで行われたジャーナリスト山口正紀さんの講演「報道されない『戦争する国』の治安法」の要旨です。

最終更新:10/19(水) 11:59

アジアプレス・ネットワーク

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。