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井上陽水、百戦錬磨のミュージシャンと紡ぐ音の妙 遊び心も満載/ライブレポート

MusicVoice 10/19(水) 16:10配信

 シンガーソングライターの井上陽水が10月11日、東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールで全国ツアー『井上陽水 コンサート2016秋「UNITED COVER 2」』東京公演をおこなった。アルバム『UNITED COVER 2』を引っさげておこなわれているこのツアーは、昨年から続くロングラン。東京公演は3月におこなわれたNHKホール以来、約半年ぶり。ザ・ビートルズの「Here, There and Everywhere」や「あの素晴しい愛をもう一度」、そして、代表曲「氷の世界」や「夢の中へ」などアンコール含め全21曲を披露し、“陽水ワールド”に観客を誘い、魅了した。

■めくるめくボーイズアンドガールズです

 Bunkamuraオーチャードホールは、シューボックス型を採用した国内最大規模のホール。天井の高い開放感あふれるホールに約2000人が井上陽水のコンサートを楽しもうと、期待感を胸に抱きながら続々と集まってきた。定刻を少々回ったところで会場は暗転。バンドメンバーとともにゆっくりと陽水がステージに登場した。沸き上がる歓声の中、アコースティックギターを肩にかけ「ラブレターの気分で」でコンサートの幕は開けた。

 エレキギターでも弾いているかのような低いポジションでアコースティックギターを奏でる陽水。そこにセクシーで存在感のある歌声がホールに響き渡る。一節、声を発しただけで一気にホールを陽水の世界観に変える。そして、長田進(Gt)のスライドバーとボリュームを使った効果音が印象的なイントロから「カナリア」でさらにその世界観を強固なものにし、「Make-up Shadow」で陽水独特のグルーヴ感と節回しで観客を魅了していった。転調するたびに趣を変える陽水の歌のスキルに高揚感を煽られる。

 MCでは、「めくるめくボーイズアンドガールズです」と自身とバンドメンバーを紹介。無邪気にピースサインをする陽水。「僕には不吉な曲が多い」と自虐しながらも会場がそのユーモアある話に和んでいった。陽水のフィンガースナップと口笛がホールにこだまする。始まったのは「娘がねじれる時」。ジャズブルーステイストに溢れたナンバーだ。体を動かしながら抑揚をつけ、エロティックな雰囲気を醸し出していた。


 椅子に座って落ち着いた雰囲気の中、「移動電話」を披露。陽水の安心感のある低音と包み込むようなコーラスのハーモニーに癒されるようだった。そして、フランク永井のカバーで昭和の名曲「有楽町で逢いましょう」を陽水の独特のタイム感で歌い上げる。陽水は「巨大なカラオケ会場で歌っているみたい」とカバーに満足気な表情を浮かべていた。

 フォークソング界の盟友、吉田拓郎の「リンゴ」をボサノバ調のアレンジで聴かせる。小島良喜(Key)のコンテンポラリーなフレーズが、お洒落感を一層明確なものにしていく。マイルドな陽水の歌声によって、オリジナルとはまた違った味わいに。


 NHK『ブラタモリ』のテーマソングになっている「女神」を陽気なラテンのリズムで届けた。山木秀夫(Dr)のダイナミクス豊かなリズムワークと陽水の温かい歌声によって、朗らかな曲調の中にも情熱が宿る、まさにギリシャ神話のアテナのような力強さと優しさを合わせ持った演奏で魅了。続いて同番組のエンディングテーマの「瞬き」で心地よい清々しい朝を迎えたような感覚にさせてくれた。

 どういうアレンジにしようか迷ったという「あの素晴しい愛をもう一度」では、家族旅行で訪れた熊本県の天草から得たインスピレーションからアレンジを構築したという。ステージ天井から神々しい光が陽水を照らす。スピリチュアルなコーラスとシンセのシーケンスが楽曲のイメージを鮮明にし、言葉一つ一つを丁寧に歌い上げていく。「すごく良い曲」と演奏前に話していたように、フォークソング往年の名曲に、リスペクトが強く感じられた曲でもあった。

■ザ・ビートルズの「Here, There and Everywhere」を披露

 休憩を挟み、再びステージに登場した陽水は、今堀恒雄(Gt)、長田の3人によるアコースティック編成でザ・ビートルズの「Here, There and Everywhere」を演奏。陽水の弦とピックが擦れる音がリアルに響き、ファルセット(裏声)を巧みに使い情緒豊かに届けた。何を演奏しようかを徹夜3日、4日して考えて決めたと、冗談交じりに語った「Just Fit」。3人のアコギのサウンドが壁のように迫ってくるワイルドなアレンジ。そのサウンドに乗る陽水の歌声にも力が入る。陽水独特の雄叫びも随所に見られ、観ているこちらも胸を熱くさせられた瞬間であった。

 バンドセットに戻り届けられたのは、スローブルースナンバーの「映画に行こう」。長田のブルージーなギターが切なく響き、憂いを帯びた陽水の歌も情景を映し出すよう。懐の深さがうかがえる熱演に酔いしれていく。青を基調としたライティング、シリアスなイントロがゾクッとさせる「愛されてばかりいると」を披露。美久月千晴(Ba)の力強いダウンピッキングが疾走感を煽り、アップテンポで心地よいリズムにオーディエンスも体を揺らす。アウトロでは陽水のシャウトも会場に響き渡った。使用していたピックを客席に投げるサービスも。

 そして、ステージ中央で腕を組み佇む陽水。小島の奏でるピアノにゆらゆらと体を動かす。四方八方か閃光のようなライトがステージを照らすなか、「バレリーナ」を唯一無二の世界観で展開していく。その言葉には出来ない空気感にステージから目が離せない。曲の持つ魔力に引き寄せられていくようだった。

 続いての曲は「My House」。陽水の頭の中をトリップするような混沌とした感覚を与えてくれる不思議なナンバー。身近なことを歌っても壮大なスケール感を持ってしまうのは、自身の頭の中が宇宙のように無限大だということ証明しているかのようだった。

■百戦錬磨のミュージシャン達による名演

 山木のフィルインから大ヒット曲「氷の世界」へ。時代を感じさせない名曲。小節など関係なく自由に歌が紡がれていく様は圧巻。陽水にしか歌えない、誰にも真似ができないオリジナリティをまざまざと魅せつけられた。会場は総立ちで盛り上がる興奮の坩堝の中、その熱気を落ち着かせるように本編ラストは「海へ来なさい」を歌唱。波にさらわれるかの様に、儚く消えていきそうな歌声に観客も耳を傾ける。諭す様に歌い上げ、言葉と言葉の間が何かを訴えかけてくる様だった。

 アンコールを求める手拍子がホールに鳴り響く。訪れた観客に感謝を告げる陽水。「熱意は鏡みたいなものですから」と観客の熱意とステージの熱意は対となると話した。アンコール1曲目は「渚にまつわるエトセトラ」を披露。観客もスタンディングで一体感のある手拍子で盛り上がった。頭を空っぽにして聴いているだけで元気になれる楽曲で会場は大フィーバー。そして、メンバー紹介を挟み代表曲のひとつ「夢の中へ」へ。印象的なギターのイントロが響き渡り、演奏しているステージ上も楽しんでいる姿が伺えた。百戦錬磨のミュージシャン達によるアグレッシブなアレンジで楽曲のまた違う色を魅せてくれた。

 曲が終わっても鳴り止まない手拍子。ラストは「夏の終りのハーモニー」をしっとりと伸びやかに歌い上げる陽水。その佇まいから発せられる存在感は、40年以上をロードしてきた自信と貫禄に溢れていた。「どうぞお元気で」、このなんとも陽水らしい挨拶でコンサートの幕は閉じた。

 音楽はもちろんのこと、トークでも我々を楽しませてくれるコンサート。同じメンバーでツアーを回ってきていることで、演奏にも更なる遊びも盛り込まれた充実したライブあった。オリジナルとカバーで組み込まれたセットリストだが、陽水の歌によってカバー曲もオリジナルと言っていいほどの説得力。11月までまだまだツアーは続くが、ラストにはどのようなコンサートになっているのだろうか。想像するだけでも楽しみだ。(取材・村上順一)

■セットリスト

井上陽水 コンサート2016秋「UNITED COVER 2」

10月11日  東京・Bunkamura オーチャードホール

01.ラブレターの気分で
02.カナリア
03.Make-up Shadow
04.娘がねじれる時
05.移動電話
06.有楽町で逢いましょう
07.リンゴ
08.女神
09.瞬き
10.あの素晴しい愛をもう一度
11.Here, There and Everywhere
12.Just Fit
13.映画に行こう
14.愛されてばかりいると
15.バレリーナ
16.My House
17.氷の世界
18.海へ来なさい

19.渚にまつわるエトセトラ
20.夢の中へ
21.夏の終りのハーモニー

【ツアー情報】

井上陽水 コンサート2016秋「UNITED COVER 2」

10月24日 福岡 福岡サンパレスホテル&ホール
開場18:00/開演18:30
10月26日 福岡 アルモニーサンク北九州ソレイユホール
開場18:00/開演18:30
10月27日 長崎 アルカスSASEBO
開場18:00/開演18:30
11月3日 群馬 桐生市市民文化会館シルクホール
開場17:00/開演17:30
11月4日 神奈川 川崎市教育文化会館
開場17:30/開演18:00
11月9日 和歌山 和歌山市民会館大ホール
開場18:00/開演18:30
11月10日 大阪 フェスティバルホール
開場18:00/開演19:00
11月13日 長野 ホクト文化ホール (長野県県民文化会館)
開場17:00/開演17:30

最終更新:10/19(水) 16:10

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