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「同じ趣味の相手とネットでつながる」を初めて体験したときのこと

ITmedia PC USER 10/20(木) 6:10配信

 ネットがあれば、同じ趣味をもつ相手とつながることができる。マイナーな趣味に夢中になって、周囲には同好の士がいなくても、ネットの中で見つけることができる。これは本当に感動的なことだった。

 1999年、ネットをはじめてすぐの頃に、私はその素晴らしさを体験した。今回はそのときの話をしたい。

●『RPGツクール』に夢中になっていた

 中学から高校にかけて、『RPGツクール』に夢中になっていた。その名の通り、自分でRPGを制作できるシリーズだ。私はノートに設定やシナリオを書き、授業中も構想を練り、平日の夜と休みの日を利用して、せっせとゲームを作っていた。

 完成すると誰かにプレイしてほしくなる。しかし周りの友達は真剣にプレイしてくれなかった。はじめのうちは適当にクラスメイトの登場するRPGを作る。これは非常にウケる。モンスターに教師の名前でもいれれば完璧だ。みんな爆笑してプレイしてくれる。しかし内輪ネタを禁じて作ると「へえ、作ったんだ」という冷たい反応に変わる。このあたりの友達の反応は残酷なものだった。

 同じだけの熱量でRPGツクールをやっている友達がほしかった。二人で語り合いたかった。お互いのゲームの感想を言い合いたかった。しかし学校には誰もいなかった。私は一人でゲーム制作を続けていた。

●同じ趣味の相手とネットで知り合う

 そんなとき、家がネット回線につながった。なんとなくYahooに「RPGツクール」と入力してみると、制作のテクを紹介するサイトを見つけた。ユーザーの集まる掲示板もあった。大勢の人がRPGツクールについて語り合っていた。まさに「同好の士」を見つけた瞬間だった。私は感動して掲示板を読み進めた。そして1つの書き込みを見つけた。

 ゲーム完成したのでプレイしてくれる人探してます。

 興味のある方はメールください。

 簡単なプロフィールも添えられていた。名前は黒川さんといった。東京在住の24歳。私はすこし前に取得したばかりのgooのフリーメールで、メールを送った。

 僕もRPG作ってます!

 黒川さんのゲームやってみたいです!

 すぐに返事がきた。作ったゲームを郵送してくれるという。現在ならばネット経由でデータを送れそうだが、当時はそんな技術はなかった。「プレステのメモリーカードを封筒に入れて送る」という物理まるだしの方法だった。私は住所を教えた。

 数日後に届いた。封筒には黒川さんの手書きの文字で住所が書かれていた。それだけでドキドキした。手書きの文字を見ると、ネットの相手が現実に存在すると実感されて、ものすごくドキドキするのだ。

 母親にはけげんな顔をされた。「なんなの、これ誰なの?」と怪しまれていた。確かに、高校生の息子のもとにナゾの男から分厚い封筒が送られてくれば、おどろくだろう。中身はメモリーカード数枚なんだが。

●黒川さんのRPGのクオリティーに感動する

 黒川さんの作ったゲームは王道のファンタジーだった。市販のRPGと同じくらいのボリュームがあった。クリアまで30時間(!)も遊べた。登場キャラは多く、シナリオやセリフも練られており、戦闘のバランスは考え抜かれていた。アイテムやモンスターの名前は中世ヨーロッパ風のもので統一されていた。RPGツクールはさまざまな素材を組み合わせて作るシステムだ。だからこそ自分との違いがよく分かった。同じ素材で、ここまでのものが作れるのか!

 「きみの作ったゲームも送ってほしい」

 黒川さんはメールにそう書いていた。田舎の高校生である私は「きみ」と呼ばれたことにすらドキドキしていた。人生で誰かにそんなふうに呼ばれたことはなかった。同時に「恥ずかしくて送れない」と思った。自分では熱心に作っているつもりだったが、学校の友達と比較してのことにすぎないと気付かされた。私の作ったRPGは、わずか1時間でクリアできるものだった。

●自分のRPGはメチャクチャだったと気付く

 黒川さんと比べると、完成度も低かった。世界観はとっちらかっており、中世ヨーロッパ風の村からはじまるのに、次の街には東京ドームが出てきた。自分では『クロノトリガー』や『moon』のような、複数の世界をみごとに統合したRPGのつもりだったんだが、残念なことに、当時の私に統合の技術などなかった。

 主人公は画家なのに、3人の仲間は、プロ野球選手、アンドロイド、ニワトリだった。中世なのか現代なのか近未来なのか鳥類なのか、さっぱり分からない作品だった。セリフのテンションも無駄に高かった。主人公はすぐに「やるぞー!」と絶叫した。貧しい画家という設定なのに、内面はノリのいい高校生なのだ。

 そして制作の体力がないから、1時間でクリアできるボリュームにもかかわらず、後半になるほどストーリーは雑になっていた。最後の仲間であるアンドロイドなど、何もない空間に1人で立っているのだ。主人公が話しかけるとアンドロイドは言う。

 「オレモ行ク!!!」

 それで仲間になる。あまりにも唐突だ。しかし主人公の画家は元気いっぱいに答える。

 「行くぞー!!!」

 そしてファンファーレが鳴る。

 「パッパパァーン!!!」

 後半になるほど、ノリと若さだけでシナリオが進んでいた。黒川さんのRPGを見たあとでは、自分の制作のアラが見えて仕方なかった。これはとてもプレイしてもらえない。だからメールで設定だけを教えた。主人公は画家で、仲間はニワトリと野球選手とアンドロイドで、色んな世界を旅する話で、イメージとしてはクロノトリガーみたいな……。

 「きみのゲーム、すごく面白そうじゃないか!」

 そんな返事が来て、私は一人で照れていた。確かに設定だけ聞くと変な魅力があったのかもしれない。実際は雑なだけだったんだが。「パッパパァーン!」だし。

 その後も黒川さんとメールのやりとりは続いた。そのうち好きなマンガやゲームの話もするようになった。お互いのゲーム制作の構想についても語り合った。私は自分のゲームがちゃんと完成したら送ると約束した。黒川さんも次作が完成すればまた送ると言ってくれた。

 しかし約束が果たされることはなかった。ネットの人間関係でよくあるように、二人とも少しずつメールの返信が遅くなり、最後は自然消滅した。私はRPGツクール自体をしなくなり、今度はホームページ作りに夢中になった。黒川さんのその後は知らない。しかしあれは本当に、「同じ趣味の人とネットでつながる」ことの原体験だったと思う。

<ライター:上田啓太>
1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

最終更新:10/20(木) 6:10

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