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アパート建設の過熱に潜む“罠” 専門家は「すでにバブルの様相」と警告

SankeiBiz 1/11(水) 10:15配信

 人口減少で需要が減少するはずのアパートの建設が急増する異変が起きている。一昨年の相続税増税に伴い、節税策として建設業者が地主らにアパート経営を持ちかけているためだ。長期の家賃保証をうたい、銀行から融資を受ける手伝いもするなど、あの手この手でアパート建設を提案している。だが、少子高齢化を背景に全国規模で空き家が急増する中で、郊外にアパートを建設しても経営が長期に成り立つとは思えない。事業としてのリスクを冷静に見極めたい。

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 東京郊外で農業を営むAさん(70)は一昨年春、自宅近くの土地に2階建て総戸数8戸のアパートを建設した。大手の建設請負会社から熱心に建設を勧められたからだ。「このまま土地を遊ばせておくと、お子さんに相続税で負担がかかるといわれた」という。

 アパートを長期一括で借り上げるサブリース(転貸)という手法を提案した営業マンは、向こう30年の家賃を保証し、地元銀行から融資を受ける手続きもほぼ代行してくれた。「契約の際には都内の本社ビルに呼ばれ、大きな会議室で役員と契約書を取り交わした。その後、ホテルで昼食もごちそうになった」とうれしそうに語る。

 しかし、契約に盛り込まれた家賃保証は現在の家賃収入を将来にわたって保証するものではない。その額は空室率によって最低保証額まで引き下げられる可能性がある。このほかに定期的な修繕費も必要になる。アパート経営の素人であるAさんには、こうした注意点について業者側から知らされなかったようだ。

 税制改正により、相続した財産から控除できる金額が縮小した。それまで相続税を支払うのは全体の4%程度だったが、改正で8%前後に増えると見込まれている。とくに都市部などでは多くの納税者が発生するとみられる。

 この動きに合わせて全国でアパート建設が急増している。アパートを建てると、相続した土地の評価額が下がり、相続税が安くなるためだ。国土交通省によると、賃貸住宅着工は、昨年1~10月までの累計で前年同期に比べて10%以上増え、34万5000戸となったという。これは住宅着工全体の4割超を占める水準だ。昨年10月単月をみると前年比22%増という高い伸びをみせた。まさに賃貸住宅が住宅市場の牽引(けんいん)役となっている構図が鮮明だ。

 建設費用を賄うアパート向けローンも増加している。日銀によると、昨年9月末現在の国内銀行におけるローン残高は約22兆円と前年同月より4%増えた。マイナス金利政策で金利が低下し、大家が借りやすくなったほか、金融機関も積極的な融資の開拓に乗り出している。

 なかでも熱心なのが地方銀行だ。設備投資を手控える地元企業には資金需要が少なく、比較的高い金利を設定できるアパートローンが融資を増やすための有望市場と位置づけられているからだ。地銀の中には地元の地主らにアパート建設を提案するため、専門チームを設ける動きもある。

 節税を望む個人と利ざやを稼ぎたい金融機関の思惑が一致した格好だが、そこには罠(わな)がある。需要が増えない限り、供給が増えれば価格は落ち込むのが経済原則だ。実際、アパート建設が増えた一昨年夏以降、首都圏におけるアパートの空室率は上昇傾向にある。

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 2013年時点の全国の空き家は約850万戸に達し、このうち半分は賃貸住宅が占めるという。それでも続々と新しいアパートの建設が続いており、専門家は「すでにバブルの様相を呈している」と警告する。

 地方都市の中心市街地では、閉鎖した店舗や老朽化した低層ビルをアパートに建て替える動きも広がっている。無秩序に進むアパートの建設が今後のまちづくりの支障になる恐れも指摘されている。

 思いがけず空室が発生し、当初見込んだ家賃収入が得られなくなった大家と、家賃保証をした事業者との間でトラブルも起きている。政府による取引の監視も検討すべきだろう。全国で広がる住宅市場の歪(ゆが)みから目を離してはならない。(産経新聞論説委員・井伊重之)

最終更新:1/11(水) 10:15

SankeiBiz

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