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経済予測に頼りすぎる投資家が失敗する理由

ウォール・ストリート・ジャーナル 1/11(水) 10:32配信

 神はどうしてエコノミストを作ったのか。気象予報士の引き立て役にするためだ。

 英イングランド銀行(中央銀行)のチーフエコノミスト――業界では最も重要な役職の1つ――が経済学者と気象予報士の最大の失敗を比較したことで、その古いジョークは息を吹き返した。

 英中銀のアンドルー・ホールデン理事は、(大嵐を予測できなかった)大失態後の気象学のように、より多くのデータと高度なコンピューターが経済予測を2007~2009年の金融危機の予測失敗から回復させるのに役立つ可能性があると楽観視している。

 だが、それは楽観が過ぎるだろう。問題は気象予報と経済予測が異なっていることではない(後で触れるが、実際に重要な点が異なっている)。その2つが非常に似通っており、両方ともある状態から別な状態に、ごくわずかな変化で傾く可能性がある複雑なシステムを予想しようとしていることが問題なのだ。

 気象予報士たちが来年のあなたの誕生日に雨が降るかどうかを教えられないのには理由がある。それを予測するのは難し過ぎるのだ。信頼できる気象予報士であれば、特定の日や月の詳細な予測ではなく、非常に大まか(雨が多い、乾燥した、例年並みといった具合に)な長期予報に広範な可能性を持たせるだろう。

 あまりにも変数が多過ぎる経済についても同じことが言える。2017年の米国の経済成長率はどれぐらいになるのか。正しい答えは、「状況次第」である。ドナルド・トランプ氏が大統領として権力を行使して中国やメキシコからの輸入品に高い関税を課し、その両国が報復措置を取れば、経済成長率はそれをしなかった場合よりもかなり低くなるだろう。原油価格が1バレル=20ドルの場合と150ドルの場合でも成長率は大きく異なってくる。中東における紛争、中国の信用危機、株式市場の暴落、ユーロ圏での新たな危機などはすべて成長に打撃を与える可能性が高い。そうした明らかなリスクの他にも、予期せぬ銀行の破綻やジョン・メイナード・ケインズ博士が指摘したつかみどころがない「アニマルスピリット」もある。

 それでもエコノミストたちは答えを用意して待っている。経済調査会社コンセンサス・エコノミクスが先月に集計した予測の平均によると、米国経済は2017年に2.25%の成長を示すという。最低1.7%から最高3%までの幅はあるが、エコノミストたちの前年末時点の予想がそれよりも狭い範囲に集中したことは同社がこうしたデータを集計し始めた1989年以来で2度しかなかった。

 過去のデータはこうした数値がほとんど当てにならないということを示唆している。先週、ホールデン理事が指摘したように、経済学は国の経済の大きな転換点――事前の警告が最も必要とされているまさにその瞬間――の予測が非常に苦手なのだ。

 国際通貨基金(IMF)の調査局で開発経済学の責任者を務めるプラカシュ・ルンガニ氏とその共同研究者たちによる研究は、景気後退予測の失敗を示してきた。2008年と2009年には世界中で62もの景気後退が発生したが、コンセンサス・エコノミクスが前年の9月時点で集計した予測の平均では1つも的中していなかった。1度だけ米国経済縮小の予測が当たったことがあるが、そのときにはすでに景気後退が始まっていた。

 「経済予測において点推定があれほどまでに注目されるのはなぜなのか、私は少し当惑している」とルンガニ氏は述べた。

 投資家は経済学をジョークの本の中に追いやり、それを気にせずに生きていきたいという気持ちになるかもしれない。しかし、それは間違いだろう。経済学が役に立ち得るのは、異なるシナリオを評価するために正しく使われたときのみである。国の経済の具体的な予測には確率や明確な前提が欠かせない。しかもそうした前提は経済モデルや付録に隠されているのではなく、その予測のユーザーによって大いに吟味される必要がある。

 昨年6月の英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の前に英財務省が発表した景気後退予測は、そうした前提の重要性を明白にした。その予測の前提は、金融政策は変更されない、首相は約束通りにEU離脱の手続きをすぐに開始するというものだった。

 どちらの前提も結果的に間違いで、英国経済は今のところ景気後退に陥っていない。問題は経済学ではなく、政治的選択に関する前提である。予測当時にブレグジットに対して警告を発した人やその後に批判した人はこれを概ね無視していた。キャメロン首相は辞任し、英中銀は景気への懸念に利下げで対応し、EU離脱手続きはいまだに始まっていない。

 経済学と気象学の最大の違いはここにある。気象予報が天候を変えるということはないが、経済予測は経済を変え得るのだ。中央銀行が景気後退を予測すると、その結果、中銀が景気後退を防止するかもしれない利下げを実施する公算が大きくなる。EU離脱手続きの開始が景気後退を引き起こすと警告した政治家たちは、少なくとも今のところ、慎重な姿勢を見せている。

 そうした予測のフィードバック効果は、経済学が気象予報のように改善されるというホールデン理事の楽観的観測が実現しそうにない理由の1つとなっている。また別な理由としては、数百万アイテムのオンライン価格を通じてインフレを測定するというマサチューセッツ工科大学(MIT)の取り組みのように、ビッグデータは多くの興味深い結果を生み出しているが、必然的に不完全に終わるということもある。スイスの金融大手UBSのエコノミスト、ポール・ドノバン氏が指摘しているように、実店舗での価格を無視することは「置き去りにされてきたが、より強く主張するようになってきた少数派」を除外することになるのだ。

 投資家にとっておそらく一番なのは、市場がある方向に行き過ぎているのを示すことが多い過剰な信頼感の監視装置として経済予測を利用することである。

 経済政策に関する不確実性が急激に高まっているにもかかわらず、エコノミストたちが成長見通しで概ね一致しているという事実は、彼らがサプライズに備えていないということを示唆している。1年前、そうした見解の一致は市場でポジションが集中している証拠の1つとなった。その後すぐに株価と国債の利回りが急落した。トランプ氏の大統領選出に触発された米国債から米国株への急激な資金の移動の後、今日の市場も悪いニュースに対して同様に敏感になっているようだ。

By JAMES MACKINTOSH

最終更新:1/11(水) 10:32

ウォール・ストリート・ジャーナル

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