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「洗った米、水に浸しっ放しは雑菌が急激に繁殖」おいしいご飯、科学が裏付け

西日本新聞 2/14(火) 10:49配信

 「あれ、ご飯がなんか変。パサパサしとる」。登校前の慌ただしい朝、茶わんを手に高校3年の長男が、けげんそうにつぶやいた。口に含んでみると、確かにその通りだ。妻と顔を見合わせ「いつもと違うね。何か変えた?」。「いいや、何も変えてないよ」

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 長男が出掛けて15分後、炊飯器からご飯をよそって食べた。今度はいつも通りの食感と味。あっ、とひらめいた。「もしかして蒸らす時間が短かったとか」「そうかも」。蒸らしがちょっと足りなかっただけで、こんなに違うとは。「おいしいご飯」は何と微妙なのか。でも「ご飯がおいしい」とはどういうことだろう。

「少量ずつこまめに買って冷蔵庫に保管」

 「ご飯のおいしさの解明」に取り組む東京農大(東京都)の辻井良政准教授(食品化学)に聞いてみた。おいしさの評価は「粘りと硬さの影響が7割を占める。現在は軟らかくて粘りのあるご飯が好まれる」という。成分で言うと、でんぷんの一種アミロース含有量と雑味につながるタンパク質が少ない方が好ましい。

 こうしたデータを基に、実際の食味も検討しながら品種改良を重ねてきた結果が、今の日本の市場で流通している米、とも言える。

 近年の研究では鮮度も味を決める要素だということが注目されている。確かに古米より新米がおいしいのは常識とも言えるが、なぜそうなのか。

 これは、時間の経過とともに米のさまざまな酵素が減少するのが原因という。例えば、炊飯中にでんぷんの構造を変化させて粘りを生む酵素や、米の細胞壁を壊して軟らかくする酵素などだ。新米の方がおいしく感じる理由を科学的に裏付けた形で、辻井准教授は「少量ずつこまめに買って冷蔵庫に保管しておくといいでしょう」と勧めた。

「水に浸しっ放しにすると雑菌が急激に繁殖」

 ただ、米が本来持つ「おいしさ」を生かし切れるかどうかは、炊飯次第だ。

 米の炊き方を確認しておく。料理研究家の土井善晴さんが著書「一汁一菜でよいという提案」(グラフィック社)の中で説明している米の扱いと炊き方を紹介したい。

 「乾物である米は洗った後、ざるに上げて水分を十分浸透させる。水に浸しっ放しにすると雑菌が急激に繁殖するので、水気を切ることが大切」という。例えば前夜に米を洗ったときなどは、乾燥させないようにポリ袋に入れて冷蔵庫に取り置くのが土井さん流だ。水気を吸うと白くふっくらと膨らむ。これを「洗い米」という。通常は40分ほど置くといい。

 水は米と同量を基本に、好みで増減して炊く。炊き上がって蒸らしたご飯は、しゃもじでほぐして余分な水分を飛ばす。おひつに移すのが理想だ。炊きたてもおいしいけれど「少し冷め加減の方がご飯の味がよく分かっておいしい」のだとか。

 炊飯の各工程にもそれぞれ理由がある。辻井准教授に解説してもらった。米をとぐのは、表面に残ったぬかを取るため。ただ近年は精米技術が進み、「とぐ」というよりは3~4回の「洗い」でよい。

 炊く前に水を浸透させる理由は、米のでんぷんを炊飯によって十分にのり状にするため。これが足りないと芯が残った状態になる。

 蒸らしは、ご飯から蒸発する水分を再びご飯に吸収させる。これが足りなかったため、長男のご飯は「パサパサ」したわけだ。

奇跡にも思える味

 「はじめちょろちょろ中ぱっぱ ぶつぶついうころ火を引いて ひと握りのわら燃やし 赤子泣くともふた取るな」

 かまどでご飯を炊いていたころから伝わる歌は、予熱から沸騰、強火での炊き上げ、蒸らしと必要な手順とこつを上手にうたい込んでいる。そこには先人が長年、試行錯誤を重ねて培った知恵が詰まっている。

 世界文化遺産に登録された和食は、ご飯なしにはあり得ない。おいしさを引き出す数々の炊飯の技とその科学的な理由を知れば、奇跡にも思える味である。時には一粒一粒に凝縮された先人の苦労も味わいたい。今日のごはんをきちんと炊いてくれたその人にも感謝して。

西日本新聞社

最終更新:2/20(月) 18:17

西日本新聞