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【月刊『WiLL』(1月号)より】脱原発・再エネ推進のドイツを真似ると大ケガします

2016/12/2(金) 20:27配信

WiLL

ドイツは「再エネの理想郷」か

 ドイツに長年住んでいて、時折、日本に来ていますが、福島第一原発事故後の人々の考え方を観察していると、両国ともに現実的な思考が欠落していると強く感じます。ドイツ人は、脱原発を決めた自分たちはすごく立派なことをしていると信じているし、日本ではドイツを「再生可能エネルギーの理想郷」のように考えている人が多い。元々ドイツと日本では、地政学的に置かれた立場がまったく違います。しかも、ドイツで進められているエネルギー転換政策は大きな矛盾を抱えているのに、日本ではそれらの問題を無視したまま、ドイツの政策を手本にしようとしている。それどころか、「原発反対」の論拠にまでしています。
 これを是正しなければ、日本のエネルギー政策はますます混乱し、国のあり方が根本的に揺らいでしまいます。間違いなく、社会的、経済的な衰退を招くでしょう。先日、日本の本屋さんに立ち寄り、エネルギー関係の本がどれだけあるのかを調べてみました。たくさん並んでいたのにはびっくりしましたが、八割がたが「反原発もの」でした。これでは、国民の多くがドイツの「脱原発」を礼賛するのも無理はないと思いました。
 ドイツは、石炭、特に褐炭を豊富に産出する国です。褐炭というのは、石炭の中でも質の悪く、CО2を多く排出する燃料です。これら石炭資源がドイツの産業の発展に大きな役割を果たしてきたといえます。1960年代になると、安くて、使い勝手のいい輸入石油にエネルギー資源の主役の座を追われ、原子力発電の開発・建設にも取り組みました。
 ところが、1973年に石油危機が起き、石油価格が急上昇したために、石炭中心のエネルギー政策に再転換が図られました。また、1975年にはドイツ初の原発が商業運転を始め、その後、次々と原発が建設されました。ただし、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年)のあと、原発反対運動が活発化。1998年に社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権ができて、2002年に原子力法が改正され、原発は32年間の運転後、閉鎖されると決まりました。
 これに対して、2005年に就任したメルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)は、産業界の要請もあり、原発の稼働年数を延長するタイミングを探っていたというのが実情です。私も担当官庁の幹部から「連立体制が変わったら、エネルギー政策も変わります」という話を聞いていました。そして、この話の通り、2009年、反原発のSPDが政権から外れて、保守の第二次メルケル政権がスタートすると、さっそく翌年には、32年間とされた原発の運転期間を平均12年間延長させる原子力法改正が承認されたのです。
 ただ、この決定は脱原発を願う国民のあいだで評判が悪く、大きな抵抗運動が巻き起こりました。つまり、CDUは想定外の窮地に陥ったわけですが、困っていたところに、偶然、福島事故が起こった。そこでメルケル政権は、急激な「脱原発」に方針を転換し、2011年7月に、古い原発八基を閉鎖、2015年、2017年、2019年に各1基、2021年と2022年に各3基と、段階的に停止していくことを決めました。その代わりに、再エネを大量導入していこうというのが、ドイツの野心的なエネルギー転換政策です。そして、国民はその決断を称賛。メルケル首相の脱原発は、環境のためではなく、ほぼ100パーセント政治的な決断だったと、私は思っています。
 日本では、すでにドイツでは全ての原発が閉鎖され、それを再エネで見事にカバーしているかのような認識を持っている人が多いのですが、実際にはまだ八基の原発が動いており、安定したベース電源として総発電量の15%程度を担っています。さらに、石炭・褐炭火力の発電比率も約45%を占めています。
 これまでメルケル首相は、産業界とうまく関係を築きながら、政策を進めてきました。非常に優秀な政治家であることは間違いありません。しかし、最近は少し違います。国民が何を考えているかにものすごく敏感で、ひいては、世界が自分をどう評価するかということに、とてもこだわっているように感じます。その結果として、原発問題も難民対応も、ポピュリズムに流れてしまった。環境や人道を前面に出した政策ではあるけれど、本当に環境と人道に貢献しているかというと、そうとは言えないところが多いのです。
 彼女は、旧西ドイツのハンブルクで生まれ、生後間もなく牧師であった父親とともに一家は旧東ドイツに移住します。つまり、メルケル氏は36歳まで旧東ドイツで暮らしていたわけで、旧ソ連の政治家に見られるような、微妙な風向きを見ながら意見を修正する手法を持っているように感じます。本当の信念がどこにあるのかが、非常に見えにくい。

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最終更新:4/27(木) 15:59
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