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“手のひらサイズ”の人工衛星が拓く宇宙革命!ブームになりつつある超小型衛星に秘められた可能性とは?

HARBOR BUSINESS Online 2016/12/18(日) 9:10配信

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月22日、開発中の小型ロケット「SS-520 4号機」の記者説明会を開催した。SS-520 4号機は、従来から運用されている観測ロケットSS-520を改修し、人工衛星を打ち上げられるようにしたロケットで、(図らずも)「世界最小の衛星打ち上げロケット」になろうとしている。

 また説明会と併せて、そのSS-520 4号機に搭載されて宇宙へ打ち上げられる超小型衛星「TRICOM-1」(トリコム・ワン)も公開された。TRICOM-1は全長約30cm、幅約10cm、質量わずか3kgという、両手のひらで持てるほどのとても小さな衛星だが、カメラや通信装置などを搭載した立派な人工衛星である。

「キューブサット」と呼ばれるこうした超小型衛星は、高い教育的価値が注目され、世界中の大学生などが開発、運用に参加するなどし、ここ10年の間にブームとなった。そして民間企業によるビジネス化も始まり、さらにこうした超小型衛星を打ち上げることに特化した、超小型ロケットの開発もさかんになっている。

◆キューブサットとは何か

 キューブサットとは、10cm四方、質量1kgの立方体(キューブ)の形をした超小型衛星のこと。また、この立方体を2個、3個つなげたような形・大きさをしたものもあるが、いずれにしても全長数十cm、質量1kgから数kgの、両手のひらで抱えられるほどの大きさしかない。

 これほど小さな人工衛星がつくれるようになった背景には、電子部品の小型化、高性能化がある。一昔前と比べ、コンピューターやセンサーなどは小さくなった上に高性能になり、数十年前まで数トンの大きさの衛星が必要だったことが、今では数kg程度の衛星でも実現できるようになった。

 また、そうした電子部品の耐久性が全体的に高くなったことも大きい。従来、宇宙用部品は民生品と比べ、性能は劣る一方で高価というのが常識だった。宇宙は真空で、さらに強い放射線も飛び交っており、電子機器や機械にとってはきわめて厳しい環境である。しかも人工衛星は一度宇宙に打ち上げられると、故障しても修理しに行くことができない。

 そのため、宇宙用部品には「絶対に壊れないこと」が重要視され、特殊な造り方が必要な上に、厳しい試験を繰り返す必要もある。結果としてコストがかさみ、また新しい部品を作ると改めて試験を行わなければならないため、たとえ旧式で性能が劣っていても、すでに宇宙用部品として実績や信頼性のある部品が使われていた。

 しかし近年、巷にあふれる民生品でも耐久性が高くなり、宇宙でも問題なく使えるものが現れはじめた。そのため小型化、高性能化と相まって、それこそ秋葉原のパーツ屋で手に入るような部品で人工衛星を造ったり、あるいはスマートフォンをそのまま打ち上げたりといった感覚で、安価に、手軽に、誰でも、そしてそこそこの性能の人工衛星が造れるようになったのだ(もちろんそのまま使うわけではなく、ある程度の試験などは行う必要はある)。

 こうしたキューブサットの概念は、1999年に日米の大学を中心に提唱され、これまでに日本を含む世界中の大学や高専、高校などの教育機関を中心に、数多くのキューブサットが開発され、打ち上げられている。

 たとえ手のひらサイズでも、カメラで地球を撮影したり、通信したりできる、歴とした人工衛星である。学生のうちから本物の人工衛星の開発や運用にかかわれることの価値は大きい。実際、より大きく本格的な衛星や探査機の開発や運用にたずさわっている人の中には、「学生時代にキューブサットを造っていました」という人も多い。

◆東大が開発したTRICOM-1

 今回、SS-520-4号機で打ち上げられる超小型衛星「TRICOM-1」も、このキューブサットの一つである。全長は約30cm、幅は約10cmの直方体、質量は3kgで、基本形となる10cm四方、質量1kgの3倍の大きさをもつことから、「3Uキューブサット」と呼ばれる。

 衛星の開発は東京大学が担当した。東京大学は、2003年に世界で初めて打ち上げられた複数のキューブサットのうちの1機を開発したことにはじまり、数多くの超小型、小型衛星の開発を長らく続けてきており、この分野では高い技術と実績をもつ。2008年には、東京大学と、同じく黎明期からキューブサットに取り組んできた東京工業大学とがつちかってきた技術をもとに、超小型衛星の開発・販売を手がけるベンチャー企業も誕生している。

 TRICOM-1は、衛星の各面に1基ずつ、合計6基のカメラが搭載されており、地球を撮影して地球に送ることができる。また、地上から送られてくるデータを収集し、一旦内部に貯め、衛星が地上の管制局の上空に差し掛かった際にそのデータを送信する、「ストア&フォワード」と呼ばれる中継衛星としての役割をもっている。これはたとえば、日本ほど情報網が発達していない国で、海上や山の中にある観測装置からの情報を集めるなどの利用法が考えられており、実際に海外でのニーズも高く、依頼も来ているという。ちなみにTRICOM(トリコム)という名前は、このように情報を「取り込む」というところから来ているとのこと。

 TRICOM-1は、SS-520を衛星打ち上げロケットとして改修することと合わせて、経済産業省の採択を受けた「民生品を活用した宇宙機器の軌道上実証」の事業として開発された。「民生品を活用して開発する」という目的のとおり、たとえばストア&フォワード用の機器は最新の民生品が用いられており、またカメラも、市販のデジタルカメラやスマートフォンに使われているものが使われている。

 わずか3kgながら、その機体の中には、国際的なニーズを満たす十分な機能と、そして民生品の活用による短納期化、低コスト化に寄与できるかの実験という、2つの大きな目的が詰め込まれているのである。

◆「ただ打ち上げるだけ」から科学、商用利用へ

 キューブサットが誕生した当時、その目的は「ただ打ち上げるだけ」というものが多かった。たとえば学生が開発し、打ち上げて、運用するということそのものが目的で、その衛星を利用して何をするか、ということは二の次だった。

 しかし、キューブサットそのものの技術がこなれてきて、そして小さな衛星でも何か大きいなことができるのではないかというアイディアをもった人々が現れた結果、現在では科学目的や、商業目的でキューブサットを利用するケースが増えている。

 たとえば米国のプラネット・ラボズという会社は、TRICOM-1と同じ3Uキューブサットを通算で100機近く打ち上げて軌道に乗せ、地球を撮影し、そのデータを販売するというサービスを展開している。また東京大学では、銀河の地図をつくる衛星に搭載される、新しい技術を試験するための小型衛星を開発している。

 また米国防総省や米軍でもキューブサットを利用しようとしており、さらに今後、米国の火星探査機の打ち上げに相乗りする形で、キューブサットを火星に送る計画もある。

 こうしたキューブサット、あるいはそれより少し大きな数十kgから100kg程度の小型衛星の需要の高まりに呼応するように、世界中で今、小型衛星の打ち上げに特化した小型ロケットの開発も進んでいる。これまでキューブサットは、別の大型衛星の打ち上げ時に、ロケットの余剰能力を利用して相乗りさせてもらう形で打ち上げられることが多かった。しかしそれでは打ち上げ時期や、衛星が飛ぶ軌道を自由に選ぶことができない。もし超小型衛星の打ち上げ専用のロケットがあれば、その不便が解消されることになる。

 現在米国ではロケット・ラボ、ファイアフライ・スペース・システムズ、ヴァージン・ギャラクティックという3社が、この分野の現時点でのトップランナーとして開発競争をしており、他にも米国はもちろん、欧州やロシアなどでも同様の企業が次々と現れてきている。日本でもインターステラテクノロジズが小型ロケットの開発を行っている。

 超小型衛星は、それ単体でも十分な可能性があり、さらに複数の衛星を打ち上げ、それらを連携させることで、大型衛星にはできないようなこともできるようになる。また初期投資や開発費が小さく済む分、これまで宇宙とは縁のない企業による利用が期待でき、そこから今まで誰も考えられなかったようなイノベーションが生まれることも期待される。

 それはスマートフォンのように、私たちの生活を根底から変えるようなものかもしれないし、あるいは衛星同士でレースをするような、今の基準からすると無駄やくだらないと言われてしまうような、けれどもおもしろいものかもしれない。

 超小型衛星には、その小ささからは想像もできないほどの、大きな可能性が秘められているのである。

<取材・文・写真/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/about/

Twiter: @Kosmograd_Info

【参考】

・ほどよし3・4号の開発と運用成果(http://laseine.ele.kyutech.ac.jp/news/img_news/hodoyoshi3-4_review_20150313.pdf)

・株式会社アクセルスペース(https://www.axelspace.com/)

・Electron – satellite launch vehicle | Rocket Lab(https://www.rocketlabusa.com/electron/)

・Firefly α | Firefly Space Systems(http://www.fireflyspace.com/vehicles/firefly-a)

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:2016/12/18(日) 10:12

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