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絵と音楽、異なる互いの世界を融合させた姉妹

Wedge 2016/12/21(水) 12:32配信

 歯磨きや着替えなど子どもの生活シーンをユニークな絵と音楽で表現したアニメが、動画サイトで絶大な人気を集めている。作っているのは、ともに子育て中の姉妹のクリエーターユニット。身近でリアルな体験から発信する作品が、ネットを超えて飛び立とうとしている。

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 You Tubeで発信してきた子ども向け動画の総再生回数が1億回を突破。それも日本だけでなく海外からも大反響をよび英語版も制作と、子育て世代からジワジワと火がついて、どんな人が作ってるの? とメディアが興味を持ち始めた。そんな流れで、インターネットの世界から一気にリアルな世界でその存在が注目されるようになった「東京ハイジ」は、ストーリー、音楽、歌を担当するのが姉のササキトモコ。絵や動画を担当しているのが妹のササキワカバ。6歳違いの姉妹ユニットの名前なのである。

 姉のトモコは、ゲームサウンドクリエーターとしては佐々木朋子の名前で知られた存在でもあるし、妹のワカバもイラストレーターとして子ども番組や絵本などで活躍しているプロ。個々に仕事をしているふたりが組んで創作活動する時が「東京ハイジ」になる。

 数々の作品の中でも4000万回以上再生されている横綱級が「はみがきのうた」だ。歯磨きを嫌がっていた子どもが自分から歯磨きをするようになったと大評判。同様に、出かけるときに着替えをしない子どもが、「へんしん! おでかけマン」を見せると喜んで着替えるようになるとか。つまり親がさせたいのに子どもが嫌がることを子どもが自らするようになる動画ということで、母親たちからの反響がすごいらしい。

しつけアニメでブレーク

 訪ねたのは、神奈川県にある姉トモコの自宅兼仕事場。5歳の娘を幼稚園に迎えに行くまでの間は、仕事に充てられる貴重な時間。同じ県内とはいえ相当離れた町に住む妹のワカバも、11歳を頭(かしら)にゼロ歳の乳児まで3人の子の母であり、打ち合わせはほとんどがメールやインターネット電話。久々に顔を合わせたふたりの胸元には、色違いの手作りブローチが揺れていた。

 「私はどっちかというと引きこもるほうで、人と会ったり話したりするのが得意じゃないんです。社交面はワカバに任せてるんだけど、再生回数が1億回を超えた6月頃から取材が多くなって。ラジオや商業施設でのトークショーとか、初めてのことばかりでものすごく緊張しちゃって」とトモコ。

 ネットに作品を投稿するのとは全く違う経験の嵐に見舞われたことに、ワカバも「緊張した」と声をそろえるが、もう勘弁してほしいというため息交じりの姉に対して、緊張状況や緊張している自分を楽しんでいるような妹。同じ「緊張」という言葉でも漂ってくる色合いが違う。ふたりが発している雰囲気が違う。絵と言葉。動画と音楽。それぞれが才能を発揮している分野が違う。ユニット名の「東京ハイジ」も、東京という都会とアルプスの少女ハイジという異質なものの組み合わせ。メディアへの露出が増えて色違いのベレー帽を用意したが、トモコはどこかに忘れてきて紛失。だからこの日は帽子も違う。

 「青森から大学入学のために東京に出てきた時には、東北の言葉にコンプレックスがあって、1カ月ぐらいだれとも会わないで、自分の声をテープにとって標準語を懸命に練習して、完璧になってからデビューしました」とトモコ。

 「姉は完璧主義者ですから。妹の私にとっては絶対的な存在で、ハイしか言えないですね」とワカバ。

 「私は無から何かを生み出すことができないけれど、妹はイメージが次々とあふれている。でも、何か整理されていないでとっちらかってる感じかな。きっかけは、いつも妹からですね」

 子どものしつけの動画の話も、妹のワカバが持ってきた話だったという。

 「私が子ども向けテレビ番組の『ポンキッキーズ』や『えいごリアン』などの仕事をしていた関係で、ファミリー向けポータルサイトで子どものしつけに役立つような動画を作れるかと聞かれたんですね。姉が音楽できるから一緒にやってみようかなと思って、引き受けたんです」

 その頃、ワカバにはすでにふたりの子どもがいたが、トモコのほうにはまだ子どもはいなかった。

 「ただ子どもがいないんじゃなくて、ほしくてたまらないのにいなかったので、実は子どものいる母親に何となく敵意みたいなものがありまして……妹から話がきた時には、『何? しつけだと!』という怒りのテンションから入ったんですね」

 動画は、親が必要なことだからやらせるという上意下達ではなく、子ども同士が、虫歯にならないためにバイキン君をこうやって追い出すんだよと情報を伝え合うスタンス。子どもは親から言われると反発するか、バイキンより親が怖いから従うかというパターンになりがちで、あわよくばサボるという展開になってしまう。ところが、トモコの怒りからのアプローチがなぜか子どもたちを動かして、1年でポータルサイトが終了すると、世の親たちから「なくなっては困る」と苦情が殺到。それにこたえるためYou Tubeに東京ハイジのチャンネルを立ち上げたことが、現在のブレークに繋がったという経緯のようだ。

 「それまでと違って子ども向けということで、バックのオケ(ボーカル以外の伴奏)も薄めにして、歌詞も曲もサクサクとできました」

 それまでと違って、ということは、子どものしつけの動画が東京ハイジのデビューではないのか? では、東京ハイジというユニットはいつ誕生したのかという、けっこう重要な問いが生じる。

 「いつからか……何かボヤボヤ~っと始まってるので。たぶん、1997年頃、『デザインフェスタ』というアートイベントに『王様の銀の鈴』という動画作品を東京ハイジの名前で出品した時ということになるのかな。仕事で組んだわけじゃなくて、ふたりで遊びとして一緒に作品を作り始めていたのが、何年かたって仕事になっていたって感じだから」

 姉が東京に出て、10年後に妹も東京に出てきて、ふたりで音楽と絵を合体させて遊び始めた時がいつだったのかと聞かれても、答えは「よく覚えていない」ということになるわけだ。

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最終更新:2016/12/21(水) 12:32

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