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広島の名スカウトが惚れ込んだ男・加藤拓也は「ポスト黒田」となれるか

webスポルティーバ 1/5(木) 11:50配信

 その指名を見た瞬間、あるベテランスカウトの顔が浮かんできた。

 田中正義(創価大)、佐々木千隼(桜美林大)と相次いで重複1位入札をクジで外した広島東洋カープ。「外れ外れ1位」として指名したのは、慶應義塾大の剛腕・加藤拓也だった。

【写真】ひっそりとマウンドを去ったカープ戦士

 この加藤のことを12球団のスカウトのなかでもっとも評価していたのが、広島の苑田聡彦スカウト統括部長だったのかもしれない。2016年春のシーズンが開幕した頃から、71歳の苑田スカウトは加藤のことを高く評価していた。ドラフト前に話を聞いた際には、「実は」と前置きして、こう語っている。

「加藤が一番好きな選手なんですよ」

 苑田スカウトはかつて、専修大時代の黒田博樹の才能にいち早く惚れ込み、球団に猛プッシュしてプロの世界へと導いた実績がある。そんな目利きに見初められた加藤拓也とは、どのような投手なのか。

 加藤は自身がカープから高い評価を受けていることは指導者づてに聞いていたが、ドラフト1位で指名されたことは想定外で驚いたという。

「大学生や社会人のドラフト1位といえば、ある程度完成している、まとまりのあるタイプが指名されると思っていました。僕はそういうタイプじゃないし、『一芸』というか、そういうタイプだと思っていたので」

 本人が語ったように、加藤は誰もが認めるドラフト1位という投手ではない。スカウトの間でも賛否分かれる存在だった。最速153キロの剛速球と縦に落ちるスライダー、スプリット。馬力の強さは評価されていた反面、身長175センチ、体重90キロという数値が表すように、全身を覆う筋肉の鎧を否定的に見るスカウトもいた。

 しかし、加藤は筋力トレーニングについて「自分のポテンシャルを上げるための作業」と必要性を力説する。事実、加藤は大学で本格的に筋力アップに取り組んだ結果、ドラフト1位指名されるほどの投手になった。

「もともと慶應大に憧れて慶應高校に入ったのですが、大学では『1試合は神宮で投げたい』『最後までやり抜こう』という目標しかありませんでした。実際に入ってみると、周りには白村(明弘/日本ハム)さん、山形(晃平/日本生命)さん、山田(貴大/東邦ガス)さん、明(大貴)さんと、右の速球派がたくさんいたんです。ただ速いだけじゃなくて、背の高い人もいればバネのある人もいる。それで『僕、全然投げられないな』と悟ったんです。上背もなく、バネもなく、器用でもない僕は、他の人と違うところで勝負するしかない。それで筋力を上げようと思ったんです」

 上半身に筋肉をつけることを嫌う投手はいるが、加藤は全身バランスよく筋力をつけることにこだわった。そしてただ筋力をつけるだけでなく、並行して投球フォームも変えていった。加藤は独特な表現でその過程を語った。

「僕はポテンシャルが縦軸、技術が横軸だと思っているんです。ポテンシャルとはスピードとかパワーですが、これはトレーニングで上げることができる。でもそのポテンシャルを引き出すには技術が必要です。ウエイトトレーニングをしながら、フォームを変えながら、だんだんよくなっていきました」

 高校時代はスリークォーターで投げていた加藤だったが、今は真上から投げ下ろすようなフォームになり、ボールに角度がつくようになった。また、体を縦に使うため、スライダーやスプリットなど、落ちる系の変化球も落差が増した。ウエイトトレーニングによって縦軸を伸ばし、フォーム修正によって横軸を伸ばした結果、加藤は投手としてのスケールをどんどん広げていった。

 こうした成長が加藤の評価を高めたことは間違いないが、実は広島の苑田スカウトがもっとも評価していたポイントはプレー以外の面にあった。今春、苑田スカウトは加藤のこんなエピソードを教えてくれた。

「加藤くんは神宮球場で試合があるとき、渋谷駅からひとりで球場まで歩いているらしいんですよ。群れずにひとりでよく練習するらしいしね。ピッチャーらしい、いいハートを持っているなと思いますよ」

 慶應大野球部は東京六大学リーグのチームとしては珍しく、バス移動による団体行動をせず、神宮球場のロッカールームに現地集合する。チームメイトと連れ立って最寄り駅の外苑前駅から球場入りすることもできるなか、加藤はあえて渋谷駅から神宮球場まで3キロ近い道のりを単身歩いて通っていたという。

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最終更新:1/5(木) 12:40

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