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現役の中小企業診断士が目撃した「潰れる/生き残る」中小企業の社長はここが違う!

HARBOR BUSINESS Online 1/10(火) 16:20配信

 突然ですが、「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」という格言をご存知でしょうか? これは正確には格言ではなく、トルストイの『アンナ・カレーニナ』冒頭に出てくる文章、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」(トルストイ、岩波文庫、1989)が簡略化されて、格言のように人口に膾炙したものです。

 この言葉を知ったのがいつだったか、今となっては記憶が定かではありませんが、聞いた当初はそれなりに含蓄のある深い言葉だな、と感心したのを覚えています。

 しかし、故郷である四国の愛媛県で経営コンサルタントとして活動するようになってから、私はこの言葉に違和感を持つようになりました。理由は、この言葉の「幸福」と「不幸」をそれぞれ、ビジネス上の「成功」と「失敗」に置き換えたとき、現実に起きている現象は真逆だったからです。すなわち、「(ビジネスにおいて)生き残る成功の形はそれぞれに違うが、潰れる失敗の形はどれも似たものである」ということです。

 本稿では、中小企業の具体的な“失敗の形”をいくつか例示し、その底流にあるものを探ることで、なぜ「どれも似たもの」と言えるのか、説明したいと思います。

◆“失敗の形”①業績が悪いのに、役員報酬がやたら高い

 経営コンサルタント、特に、私のように中小企業診断士という国家資格の下でコンサルをやっている者にとって、主業務のひとつは事業計画書の作成です。事業計画書と一口で言っても、その中には創業計画書、新規事業計画書、中期経営計画書、事業改善計画書などいくつも種類があります。

 中でも作成にもっとも慎重さが要求されるのが、業績が悪化した企業の再生計画である事業改善計画書です。この計画の出来栄えによって、事業再生に欠かせない銀行や取引先といったステークホルダーの協力度合いが変わってきますので、コンセンサスを得ながら、かつ一定のスピード感をもって物事を前に進めていく必要があります。

 その前提になるのが、「なぜ業績が悪化したのか?」を知るための現状分析で、これには過去数年分の決算書が欠かせません。この財務分析時にかなりの頻度でお目にかかる現象として、「業績が悪化しているのに役員報酬が高止まっている」というものがあります。

 これは外形的には、「会社の調子が悪いのに社長だけは高い給料を取っている」ということになり、正直、銀行や取引先の心証を悪くします。現実には、社長だけがいい目を見て従業員はリストラや給与カットで痛めつける、という絵に描いたようなブラック企業は少なく、景気が良かったころに上げた役員報酬をなんとなくそのままにしているだけ、というケースが多いようです。したがって、このような企業の中には役員借入金や未払費用という形で社長の給料を会社に“還流”し、ピンチをしのいでいるところも少なからずあります。

 しかし、これはあくまで一時しのぎのやり方に過ぎません。また、「会社に一時的に貸したことにして、また景気が良くなれば返してもらえばいいや」という経営者の甘えも垣間見える施策です。いずれにせよステークホルダーのウケは悪く、再生計画のカギである金融支援、取引条件変更を得られない可能性が高まります。結果、失敗=倒産への道を早めることになるのです。

◆“失敗の形”②とにかく社長が数字に弱い

 これには異論のある方も多いのではないでしょうか。実際、私が知っている製造業の社長さんにも、「数字のことは女房と税理士に任せてるよ。俺は現場で人の何倍も努力してるんだ!チマチマ数字のことなんか考えてられるか!」と言って、それなりに経営が上手くいっている人もいます。

 しかし、これは冒頭に申し上げた、「成功の形はそれぞれに違う」ということのひとつの例だろうと、私は考えています。私が携わった案件で見る限り、業績が長期に低迷している企業の社長は、おしなべて数字オンチでした。このコラムをお読みの、第一線で活躍するビジネスマン諸兄には信じられないかもしれませんが、営業利益と経常利益の違いが分からない、債務超過の意味を知らない、という中小企業経営者は意外と多いものです。

 経営者が数字に弱いと、大きく2つのデメリットがあります。ひとつは、決算数値を見てもどこに問題があるか分からず、よって経営改善の手が打てない、あるいは手を打つのが遅れること。もうひとつは、銀行や取引先に不安を与えてしまい、得られるはずの支援を得られなくなることです。下手をすると、数字の知識がないことに付け込んで、怪しげな再生スキームを持ち込む悪徳コンサルタント(私じゃないですよ)に、会社の資産を食いつぶされるかもしれません。

 社長が数字に弱くても経営が成り立っていたのは、マクロ経済が順調に伸びていた高度成長期までの話。今の厳しい経営環境で、トップが数字を読めないのは致命的と考えるべきです。

◆“失敗の形”③公私混同

 この言葉からイメージするものは人によって違うと思います。中には、「社長が自社の女性社員を愛人にする」なんてことを想像した方もいるのではないでしょうか。

 これはこれで、社内を妙な雰囲気にして士気を下げる立派な公私混同ですが、より如実に表れるのは、やはりお金に関することです。ありていに言えば、会社のお金を社長が個人的に流用することです。

 現実には、このような会社資金の流用は大した罪の意識もないまま行われることが多く、それだけにタチが悪いとも言えます。個人の住宅や自家用車の購入費、子息の教育費などを、「銀行に借りたら利息を取られる」とか、「また銀行に頭を下げるのはイヤだ」といった些細な理由から個人の借入で調達せず、役員貸付金などの名目で会社のお金に手をつけてしまうのです。

 しかし、ひとたび会社の経営が傾くと、会社の運命と一蓮托生である社長への貸付金は焦げ付く可能性が高まります。つまり不良資産になりますので、処理する際には特別損失を計上せざるを得ず、事業再生の道を一気に困難にしてしまいます。

 ちなみに、お金の面での公私混同を見抜く簡単な方法は、貸借対照表の資産の部を見ることです。ここに、前述の役員貸付金や短期貸付金、立替金、仮払金などの勘定科目があり、それが他に比べて多額である場合、会社資金の個人流用を疑う余地があります。

◆すべての底流にあるものとは?

 ここまで見てきた3つの“中小企業の失敗の形”に共通することは何でしょうか?私は、「経営者の規律の欠如」だと思います。

 業績が下がっているのに自分の身を切って報酬を下げられないのも、数字が示す現実から目を背けるのも、お金の公私混同をするのも、元をただせば社長がリーダーたる自覚に欠け、自分を律しきれなかったことが原因です。このことが、私が「(企業の)失敗の形はどれも似たもの」だと考える理由です。

 欧米のビジネス書を読むと、discipline(規律、しつけ、自己訓練)という単語をよく目にします。それだけ、ビジネスに携わる者のけじめの大切さを知っているということでしょう。日本のビジネス界では、特に強調されることは少ない“規律”という概念ですが、長時間労働の是正や生産性向上など、今後日本の産業界が直面する課題を考えたとき、ひとつのキーワードとして重要性が増す概念ではないかと感じています。

 今回ご紹介した3つの要素のうち、ひとつでも自社の社長に思い当たる節があれば、注意した方がいいかもしれませんね。

【多田 稔】

中小企業診断士、経営アナリスト。「多田稔中小企業診断士事務所」代表。経営コンサルティング・サービスに携わる傍ら、「シェアーズカフェ・オンライン」などで企業分析・会計に関する記事を執筆

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最終更新:1/10(火) 16:20

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