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なぜ全米で“おっぱいレストラン“が急増しているのか?

@DIME 1/16(月) 7:30配信

 2010年10月の日本初上陸以来、「フーターズ」は大阪や名古屋でも開店してすっかり定着した感のあるコンセプトレストランだが、本場アメリカではフーターズ以外にもいくつかのチェーンがあり、総称として「ブレストラン(breastaurant)」と呼ばれている。意訳すれば“おっぱいレストラン”ということになるだろうか。このブレストラン市場は今も意外ほどの成長を続けているという。

■テキサス州のローカル“ブレストラン”が全米進出へ

 日本でもアメリカでも総じて低迷しているといわれている外食産業だが、何故か元気なジャンルなのがこのブレストランで、ここ数年でも毎年5%程度の成長が続いているといわれている。そして今後も成長が見込まれるアメリカのブレストラン市場にまた新たな動きが起こっているようだ。

 現在、米・テキサス州で4店舗が営業中のブレストランチェーン「Bombshells(ボムシェルズ)」は、ウェイトレスのミリタリー系の露出コスチュームが特徴なのだが、今年からは遂に“侵攻作戦”を開始する。

「New York Post」紙によれば、Bombshellsの売り上げは昨年第4四半期に10.5%の上昇を見せ、同店を経営するRCI Hospitalityの株価は40%近い高い伸びを記録したという。この余勢を駆って、同レストランは地元テキサスの垣根を越えて全米へ進出する計画を温めているという。なんと今後5年間で100店舗にまで急拡大するチェーン展開が練られているのだ。

 いままで4店舗だったレストランを100店舗にまでチェーン展開するというのは率直に驚くべきことだろう。この強気の経営戦略はいったいどこからくるのか? その背景にはもちろんブレストラント業態全体の好調さがあるのだが、事業拡大を判断させるもうひとつの大きな要素に「トランプ現象」があるということだ。

「我々は偉大なるアメリカを再興する」を旗印に米大統領選を戦い抜いたトランプ氏だが、第二次世界大戦当時の“強いアメリカ”をテーマにしたこのBombshellsのコンセプトが「トランプ現象」に実によくマッチしていて、チェーン展開の追い風になっているという。

「アメリカ大統領選はこれまでのところ我々にとってとてもポジティブに作用しています」と同社CEOのエリック・ランガン氏は「Business Insider」に話している。トランプ氏の当選から株式相場や為替市場が大きな動きを見せていることはご存知の通りだが、このBombshellsにとっても“トランプ効果”が波及していることは間違いないようである。Bombshellsをはじめとするブレストラン業態が今年さらに盛り上がりを見せるのか注目したい。

■男性は“ウェイトレス”になれない?

 ますます好調なブレストラン業態だが、実は昨年には気になる問題が表面化してきている。

 ポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)という言葉を意識せずには社会を語れなくなっている感もある昨今だが、ブレストランチェーンのひとつであるTwin Peaksが昨年6月、男性の求職者によって提訴され集団訴訟にまで発展する展開を見せている。男性は当チェーンのフロリダ州デイビーの店舗において、店内給仕業務(ウェイトレス)の求人に男性であることを理由に応募を断られたのは性差別であると主張し、同社を相手取って訴訟を起している。

 趣のあるワイルドな山荘のロッジがコンセプトのブレストラン・Twin Peaksのモットーは「食べて飲んで、美観を眺める」というものだが、“美観”とは必ずしも店舗周囲の景色ではないようだ。そもそも、同店舗からの眺めは隣接するホームセンターの広い駐車場が視界のほどんとを占めているという。

この“美観”が意味するものはもちろん、同店の露出過多なカントリー調の“制服”に身を包んだウェイトレスたちのことである。そして男性はこの“ウェイトレス”の職が男性には開かれていないのは同社が性差別を犯しているからであるとして賛同者らと共に集団訴訟に打って出たのである。

 係争の成り行きはまだどうなるかわからないが、実はこの男性をよく調べてみると、この種の訴えを起すのは初めてではないということだ。2011年にはノースカロライナ州ペムブロークにある当時勤務していた「フーターズ(Hooters)」を訴えている。給仕業務に就きたいというこの男性の希望を同店マネージャーが性別を理由に却下したことを不服としたものである。この時はフーターズ側が弁護士を通じて示談交渉に応じ、和解金を支払って事を収めたということだ。

 まさにポリティカル・コレクトネスを地で行く話題という感もあるが、和解に応じるケースは多いものの、判例としてはこれらのブレストランが“ウェイトレス”業務に“魅力的な女性”のみを採用することはなんら問題はないということだ。

 1964年制定の合衆国公民権法は、雇用において人種、皮膚の色、宗教、出身地、家系などの出生時に決定される社会的属性による差別を禁止することを明言しているが、それは一般的な業務を行なう職種にのみ適応されるもので、具体的な資質が求められる特定の職種においては必ずしも適用されるわけではない。ブレストランにとってウェイトレスに魅力的な女性を配置することは営業の本質に関わる要素であることから、男性の応募を断ることに正当性があり、1997年に集団訴訟に持ち込まれた裁判でフーターズは採用に関するこの権利を勝ち取っている。

 したがって示談に応じて和解金を支払ったり、男性も就業できる職種を増やしたりはしているものの、“ウェイトレス”を女性限定にする原則はこれまでも揺るがされることはなかった。もちろんLGBT関連の人々の応募もあり得るが、それは各店舗の個別的な判断ということになるのではないだろうか。フーターズに行って男性スタッフに接客されることは今後もなさそうなのでひとまず安心だろうか!?

■ブレストランで働く心理的リスク

「魅力的な女性」以外には開かれていない職種であるブレストランのウェイトレスは、ある意味では新しく登場した“特殊な仕事”だろう。アダルトオンリーの施設のエスコートスタッフと異なり、誰でも入場できるレストランでいくつもの視線に晒され、記念写真にも応じたりしつつ露出過多な制服に身を包んで働くというのは、よく考えてみればそれなりにストレスに満ちたものかもしれない。

 そこで、ブレストランのウェイトレスたちのメンタルヘルスについて、テネシー大学の研究チームが調査・検証を行なっている。

 全米の一般のレストランで給仕職における女性の割合は72%であるのに対し、もちろんブレストランの“ウェイトレス”は100%が女性だ。誰でも入店できるブレストランだが、やはり客の75%が男性で主に中年男性がメインの客層であることは予想に違わない。そして研究チームによれば、ブレストランは性が提供可能なモノとなっている環境、性のモノ化環境(sexually objectifying environments)であると定義している。セクシュアリティがサービスとして提供されている場所であり、構造的には性風俗店と変らない環境なのである。

 もちろんウェイトレス当人が楽しんで働いている限りにおいては何の問題もないと言えるが、実態はどうであるのか研究チームはブレストランでウェイトレスとして働く女性たちにインタビューを行なった。店内では快活に記念写真に応じ、ショーのパフォーマンスも行なって店を盛り上げる彼女たちだが、話を聞いてみたところ、多くの女性が仕事面でネガティブな感情を抱くこともあることがわかったのだ。

 来店客に喜ばれ、チップを弾まれることも多い一方で、職場の同僚たちとはあまり親しい関係になれない傾向があり、半ば必然的に矛盾した(ダブルバインドな)状態に置かれていることを彼女たちの多くが自覚しているという。たとえ接客の現場で束の間楽しい思いができたにせよ、このダブルバインド状態が結果的に仕事への満足度を低めているということだ。また場合によっては来店客のセクハラまがいの言動に晒されるケースもあり、当然のことながらメンタルへの悪影響のリスクは払拭できない。

 そしてある意味で身も蓋もない話にはなってしまうが、研究チームはブレストランでウェイトレスとして働くことは、チップ入れのバッグにとって望ましいことだが、メンタルの健康にとって良くないことであると結論づけている。最悪の場合はうつを発症するリスクもあるという。

 そもそもこうした職種が存在していいのものなのかどうかという根本的な議論もあり得るのだが、働く女性にはあらかじめそれなりの認識が強く求められているということだろう。ましてや今後、ブレストランがさらに増えるという状況にあって、職場におけるメンタルヘルスへの配慮が広く個人と社会にとって大きな課題になりそうだ。

文/仲田しんじ

@DIME編集部

最終更新:1/16(月) 7:30

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